「やぁ、どうやら目覚めてしまったようだね」

 

 恭也が眼を覚ましてすぐの第一声。

 

 声がしたほうこうを向くとそこには白髪の青年が・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一炊の夢現

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の青年が一体どんな人物なのか分からずに恭也は何も言い返すことが出来なかった。

 

 破壊した施設に属している可能性も有った。

 

「私は一応君を崖から落ちた君を助けた事になるんだけどね」

 

 その言葉を聞き、恭也は少しだけ身体をほぐした。

 

 目の前の人物が嘘をついているようには見えなかった。

 目の前の人物に邪気が一切なかった。 

 

 

恭也はまず周りを見た。

 

 そこは先ほどまで戦っていた場所に似ている。

 しかし、ここは恭也が今までいた場所よりも優しいように感じられた。

 

「ここが何処だか気になるみたいだね。ここは桃源郷みたいなもの、そして僕はそこに住む仙人みたいな物だと思ってもらえればいいよ」

 

 恭也の視線で恭也が求めている事を理解したのか青年は軽く応える。

 

 

 青年のそんな答えに、恭也は半信半疑だった。

 

 青年は嘘をついているように思えないが、しかし桃源郷など実在するとは思えない。

 

 

(いや、狒狒なんて伝説の化物がいるぐらいなのだから仙人がいてもおかしくないのか?)

 

 何処までも柔軟な恭也だった。

 

 

「それで、幸せな悪夢はどうだったかな?」

 

 唐突なその言葉を聞き、恭也は凍りついた。

 あの、夢を、

 何よりも幸せな夢、幻。

 

 抜け出すのは辛かった。

 しかし、それでもあの夢を見ることが出来たのは・・・・・、

 

「ありがとうございます。叶う事がない幸せな夢を見せてくれて」

 

 恭也は辛そうに、でもとても嬉しそうに、とても心を込めて青年にありがとうといった。

 

 叶わないと知っていたから、

 だから、例え夢でもその光景が見ることが出来たのは嬉しかった。

 

「ははははっ、そうか、君はそう思ったのか。うん、君は面白いね」

 

 青年は笑っていた。

 だというのに青年の表情はまるで自嘲しているように見えた。

 

 

 

 

「どうして、俺にあんな夢を見せたのですか?」

 

「君が現実世界に帰れないようにするためだよ」

 

 その言葉に恭也は身構えた。

 

 助けてくれたようだが、敵だったようだ。

 

「あぁ、勘違いしないでくれ。僕がしようとしていたことは君のためだよ」

 

 恭也が戦闘体勢を取っているにも関わらず青年はそれ程慌てた様子もなく言葉を訂正した。

 

 

 

 恭也は青年の言葉に混乱した。

 現実世界に帰さないことが自分のためになるとはどうしても思えない。

 

「君が霊力循環体質だからだよ」

 

 その言葉を聞き、恭也は少し納得した。

 

 以前、紫龍に言われた事もあり自分なりに恭也も災いの種について調べていたのだ。

 

「俺が外に出れば家族から、幸せを奪うからですか」

 

「あははっ、違う違う。そんな俗説が流れてるけど霊力循環体質にはそんな機能はついてない。

 霊力循環体質は周りにある霊力を自らの糧にすると同時に、周りの汚染された霊力を浄化している。

 それは理解できるかな?」

 

 その事に恭也はおぼろげながらも理解した。

 

 それはもはや古文書といっても差し支えない文献に載っていたものと同じだった。

 

「さて、君に身体が周りの霊力を浄化しているわけだが、その汚染された不純物はどうなると思う?」

 

 空気清浄機だって、綺麗な空気を出すためにゴミなどをその内部にためる。

 

 つまり、常に周りの霊力を浄化している恭也の身体には不純物などが溜まる事になる。

 

「たまった結果、俺に何か起こるんですね?」

「うん、そう。理解が早くて助かるよ。

 簡単に言うと君はこのまま現実の世界に居続けると人じゃなくなる」

「は?」

 

 人ではなくなると唐突に言われても恭也には納得できなかった。

 

「君が普通の霊力循環体質だったのなら、力を持っていなければそんな事にはならないだろうけど、

 君は人を殺める力を、物を壊す力を持っている。

 君が人を殺した時に、物を壊した時に君はその場で周りにある霊力を浄化している。

 殺された人や、壊されたもの達が発する汚染された霊力を浄化して、不純物が君の身体に溜まる。

 つまり、君の中で呪詛が溜まって行く。

 それに君は氷狼という名を持ち、忌み嫌われ、化物として扱われている。

 それらの相乗効果で君は近い未来に定義変換され、人ではなくなるんだ」

 

 言葉というものには唯でさえ力を持つというのに、それに加え死者の怨念が加わればそれは恭也に確実に悪影響を与える。

 忌み名が付いている恭也であればさらにその悪影響は加速する。

 

 過去の霊力循環体質者は隔離され、外に出る事がなかった。

 もしくはそれに気付く必要がないくらいの一般人だった。

 しかし、恭也は違う。

 

 外に出て、磨いてきた力を振るう。

 その為に、恭也の中に不純物が溜まりやすくなっていくのだ。

 

 

 

 

 そんな言葉を聞き、普通なら、恐怖に震えるだろう。

 泣き叫ぶだろう。

 しかし、恭也の表情は毅然としていた。

 

「それでどうだろうか? 現実に帰らずにここにいる気はあるかな?」

 

「残念ながらありません。

例え、そうだとしても俺には護りたい人がいます。何を捨ててでも護りたい人が、この命尽きたとしても護りたい人が居ます

護らなければならない約束があります。

俺はすでに鬼にでも修羅にでもなる決意はしています。

だから、その程度で俺はここに留まれません」

 

 

恭也は怯える事無く、毅然と言い放った。

 

人ではなくなるという意味を本当に理解できていない節もあるだろう。

 だが、それ以上に恭也には自分よりも護りたい人が居るのだから。

 恭也は例え、その意味を本当に理解していたとしても帰る事を選ぶだろう。

 

 

「そうか、君にはそんな道を選んで欲しくはないと思っていたが。

 そうだね・・・、君はそれを選ぶ事なんて分かっていたはずなのに」

 

 青年は恭也に執拗に勧めることもなくあっさりと引き下がった。

 

 恭也の眼を見れば分かるのだ。

 もはや覚悟を決めている眼をしている相手には言葉を募ったとしても伝わる事などないのだから。

 

 

 

 

 

 

「さて、ここにいる気のない君がここに何時までもいても仕方ないね。

 ここから返そうとは思うけど、その前に幾つか贈り物をさせてもらうよ。

 気高くも強いその心に敬意を表してね」

 

 青年が指をパチンと鳴らすと、唐突に二人現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 それは士郎と夏織。

 

 だが、恭也の心は揺れなかった。

 

 もう夢で見たから。あの夢を見せたのがあの青年であればこんな夢を作り出す芸当も出来るだろうから。

 

 

 恭也は青年を睨みつけた。

 

 まだ引き止めるのかと

 

「違うよ。この二人は本物でもある。欠片しか残っていなかった魂を復元して今この場に連れてきただけ。

 二人とも、今の君を見て言いたいことがあったようだからね」

 

 青年の言葉を肯定するかのように士郎と夏織が頷き、恭也に近づいてきた。

 

 

 

「この馬鹿息子が!!」

 

 近づいてきた士郎は拳骨を作り恭也の頭に振り下ろした。

 

 反応し切れなかった恭也はモロにその痛みを味わう事になる。

 その痛みは生前の士郎にされた物と同質の痛み。

 

「俺は確かにお前に家族を任せるって言った! けどな、お前の未来を捨ててまで、お前自身を捨ててまで護れなんていわなかっただろうが!!」

 

 士郎の罵声。

 例え、偽者だとしても痛かった。

 

「お前は笑顔を護りたいから御神を収めたんだろうが!! なのにその笑顔を奪ってどうする!? 泣かせてどうするんだ!!」

 

 幻かもしれないが痛かった。

 

 たしかにそんな事は言われなかった。

 しかし、しかし、

 

「ならばどうすればいい!? 笑顔を護りたい、けど力が足りない!!

だからせめてそんな可能性があると未来を作るために俺は・・・

先に死んだのは父さんだ!

全て置き去りにして死んだのは父さんだ!!」

 

 

 しかし、恭也にはそれ以外に道がなかったのに。

 士郎がいればそんな道を選ぶ必要もなかったのに

 こんなにも苦しい思いもせずにすんだのに

 

「そんな事は分かってる。だから、俺と同じようにならないためにお前に頼んでるんだろうが」

「無理だ。俺には父さんのように護れない。俺は父さんに追いつけない」

 

 恭也が沈痛な表情で士郎に零す。

 

 こんな最悪な手でしか家族を護る事が出来ないのだからと・・・、

 

「ば〜か。俺と同じように護れなくていいだよ。それになお前はもう、御神の中の誰よりも強くなってるんだぞ?」

 

 その言葉を信じられなかった。

 奪う事でしか護れない。護るための刃を汚している自身が御神の中の誰よりも強くなっているなどと。

 

「お前のやり方はきっと褒められない。けどな、お前のその何をしても護りたいって心は御神の中の誰よりも強い。

 恭也がやっていることはきっと御神の誰もが出来ない事だ。もちろん俺にも出来ない。

 手段こそ御神じゃないが、お前の心は、お前の技は間違いなく最強の御神だ。

 だから、お前になら俺に出来なかった事が、御神の誰もが出来なかった事が出来る。」

 

「違う、俺は御神流を汚している。

 俺は、みんなみたいに誰かを幸せに出来ない」

 

 例え、恭也の体質が不幸を呼び込まない物だとしても恭也という存在が御神を滅ぼしたのに代わりはない。

 

 それはどうしようもない事実だ。

 

 

 それが恭也の心を抉る。

 護りたいのに自分の存在がきっと不幸を齎すのが・・・、

 

 

 そんな俯いた恭也を暖かく包み込む、夏織。

 

「馬鹿。恭也は誰かを幸せに出来る」

「出来ない。俺は奪ってばかりだ。それは母さんが良く知っているはずだ・・・」

 

 

「あぁ、よく知っている。お前が私に幸せをくれた事を」

 

 その言葉に恭也は顔を上げた。

 

 そこには幸せそうに笑っている夏織の顔が。

 

「恭也と逢う事が出来た。恭也の成長を見ることが出来た。恭也が私を母さんと呼んでくれた。

 これだけで私は幸せなんだぞ? これが私にとって最高の幸せなんだぞ?」

 

「嘘だ」

 

 夏織の言葉に恭也は呟いた。

 

 殺されて幸せなどあっていいはずがない。

 

 

「違うぞ、恭也。私にとって、母親にとってそれが何よりの幸せなんだ。

それにな、幸せでなかったら、お前と逢えた事が嬉しくなかったら私は剣士の命の刀を渡したりなんかしない。」

 

 夏織は恭也の言葉を、恭也を包み込むように優しく諭す。

 

「母さん」

「こんな私でも幸せに出来る恭也が一番護りたい人を幸せに出来ないはずがない」

 

 夏織の言葉は本当に確信したような言葉で。

 

 その包み込むような言葉が恭也を包み込む。

 

「だからな、恭也。その為にお前が幸せになれ。幸せを知って護りたい人全部を幸せに出来るようになれ」

 

「俺が幸せになってもいいのか?」

 

「馬鹿、誰にだって幸せになる権利はある。特にお前は誰よりも幸せにならなくちゃいけないんだからな。

 だって、誰よりも私がその事を願ってるんだから」

 

 

 夏織のその暖かい、正しく母親の表情に恭也は涙を零した。

 

 あの時のことを思い出しているのではない。

 

 今この時、母と語り合える事が、母に幸せを願ってもらえていることが何よりも嬉しかった。

 

 

「ありがとう、母さん」

「恭也の母親として当然の事を言ったまでだ」

 

 夏織は本当に母親としての表情を崩さずに当然といってくれた。

 

 だが、その言葉が恭也の心に何よりも沁みた。

 当然とばかりに幸せを願っているといってくれる人物は誰もいなかったから。

 包み込むように幸せを願ってくれる人が今の恭也には居なかったから。

 

 

 

 

 

「なぁ、恭也、約束してくれ。何時か、私に笑って今が幸せだって言えるようになるくらい幸せになってくれ」

 

 夏織も今は恭也が幸せを掴もうとしても掴めない事をわかっている。

 だから、何時か・・・・、

 

「分かった。何時か、笑って母さんに幸せだって伝えれるようになる」

 

 恭也もその想いを理解して、何時か母の墓前で悲しくても笑って語れるように誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、贈り物は気に入っていただけたかな?」

 

 青年が話が終わったと見て割って入った。

 

「私としては最高だな」

「俺としても恭也に言いたい事いえてよかったな」

 

 夏織と士郎が嬉しそうに語る。

 

 そして、恭也は・・・、

 

「嬉しかった」

 

 恭也なりの満面の笑みで伝えた。

 

 

 

「そうか、それは良かったよ。それで君にもう一つの贈り物だ。八景・士麒(しき)と八景・夏夜(かや)だよ。

 これは霊剣と似たような物だと思ってくれればいい。

 これを使えば君も霊力技が使えることになる。まぁ、練習しなくちゃ制御するのは難しいけどね。」

「霊力刀や普通の霊剣ではダメなんですか?」

 

 恭也の言葉に青年は苦笑した。

 

「あぁ、伝えてなかったね。君の身体で循環している霊力は濁流のような物だ。

 だから、普通の物ではその負荷に耐え切れずに砕けてしまう。

 けど、これならまだ耐えれる」

 

「耐えられるという事は何時かは砕けるという事ですか?」

「うん、そうだね。何時かは砕ける。君が使う限りね。だから、気をつけて使うといい」

 

 青年から八景を受け取った。

 

 以前よりもさらに手にあっているような感触に暖かさ。

 

「君はここであった事は忘れているだろう。けどここで感じた想いは君の心の何処かに残る。

 その想いの欠片を感じて前に進むといい」

 

 

「さて、そろそろ行くといいよ。狒狒を抑えるのももう無理だからね」

 

 その言葉に恭也は無言で頷いた。

 

「まだこっちにくんなよ。馬鹿息子」

「私の自慢の息子。幸せになれよ」

 

 二人の言葉を聞き、恭也は頷きだけで返してここから消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、本当によかったのかな? 君達が霊剣の核となって」

 

「後悔なんかしねぇよ」

「私もだ」

 

「剣が砕ければ君達の魂も砕けて、輪廻転生の環に戻れず消滅する事になるのに?」

 

 青年がそんなとんでもない事を言うが二人は笑っていた。

 

「俺の自慢の息子の役に立てるんだ。それ位恐くなんかない」

「母親が息子の為に何かすんのに恐い物なんかあるかよ」

 

 二人のそんな思いが青年にも伝わる。

 

「そうだね。その気持ちは痛いほどに分かるよ」

 

 

 

 

「さて、君達も行くといい。そうでなければ士麒(しき)夏夜(かや)も力を発しないからね」

 

 青年の言葉に二人は頷き、この世界から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恭也君。君とは二度と会わないことを願っているよ。そうでないと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 恭也パワーアップ!!

ちびざから「普通とは違う形でな。それであの青年は誰じゃ?」

 オリキャラ

ちびざから「またか!?

 いや、この話でオリキャラがいい所を持っていくのは当たり前だろ?

夏織なんて名前があるだけでほぼオリキャラだしね。

後、大老とか赤龍とか本当にいいところ取りしてるよ。ある意味で恭也以上に。

ちびざから「むぅ」

 しかし、今回は難産だったな。

 シリアスなんだけど少し暖かいっていうのは書きにくい。

 悲しいだけの話とか、辛い話とか、壊れてる話なら筆が凄い勢いで進むのに。

ちびざから「お主、確実におかしいぞ」

 理解してるよ。まぁ、という訳で、今回で恭也は自分が幸せになる事を認められて、新たな力を手に入れた。

ちびざから「しかし、あの剣は士郎殿と夏織殿の魂が入っておるのじゃろ?」

 うん、それは恭也に伝えてはいないけどね。八景が砕けたらあの二人の魂は消滅する。

ちびざから「親の愛は偉大じゃな」

 そうだろうね。きっと親が子に向ける愛はとても強いはずだから。

 さて、次回予告としては現実に戻り狒狒と戦う恭也。

ちびざから「しかし、予想以上に苦戦、そして恭也は・・・」

 では、次の話も宜しくお願いします

 

 

ちびざから「戻っておらんな」

 私みたいに一話で復活する物だと思っていたが違うようだね。

ちびざから「戻せ!!」

 次回でも戻ってなかったらなんとかする手段を考えておくよ。罪悪感を欠片ぐらいは感じるからね。

ちびざから「もっと感じろ!!」





恭也がパワーアップ!
美姫 「新たなる力を得て、現世(?)へ戻る」
いよいよ、あの怪物との戦いに決着が?
美姫 「今回の親子の再会はちょっとうるうるね」
鬼の目にもぶべらっ!
美姫 「あー、次回がとっても気になるわ」
じ、次回も楽しみにしてます……。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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