恭也が龍にて高町家を護る為に憎むべき大老に首をたれ、愛されていた産みの母を殺していた頃の高町家はというと・・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いた想い・気付かぬ想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃子の朝は世間一般の母親よりも早い。

 翠屋という海鳴きっての洋菓子店の経営を務めるだけあって朝は忙しいのだ。

 

朝四時に起き、翠屋に向かう前の日課を桃子は欠かさずする。

 

「おはよう、士郎さん。また、今日も頑張ってくるわね? それと恭也もいってきます」

 

 故人である士郎に朝の挨拶をして、今ここにはいない恭也にも挨拶をして翠屋へと向かう。

 

 到着してすぐにパートナーである松尾さんと打ち合わせ。

 

「ねぇ、松っちゃん、今日の仕込みってこれぐらいでいいと思う?」

「だめよ、桃子。今日は祝日だから最低でもこれぐらいは必要よ?」

「あっちゃ〜、そうだった。じゃあ、予備も含めてこれぐらいに用意しとく?」

「そうね。それなら安心できそう」

 

 二人して頷きあい、今日の仕込みをする。

 

 

 

 十分な仕込みが出来た頃には丁度、朝食の時間になっていた。

 

「それじゃ、ちょっと戻ってくるわね〜」

「気をつけてね?」

 

 桃子は愛用のスクーターに跨り、高町家へと戻る。

 愛する、美由希となのはの為に朝食を用意するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら、朝食を作る姿はまさしく新妻。

 

「かあさん、おはよう・・・・」

 

 眠い眼をこすりながら美由希が起きてきて挨拶をする。

 

「おはよう、美由希。顔洗ってきなさい」

 

 美由希に何時ものように言い。朝食を作るのをさらに進め、ある程度出来たところでなのはの様子を見に行く。

 ここでなのはが起きているのならばなのはを抱え共に朝食を取るというのが今の高町家の日常だった。

 

 今日はなのはが起きているいう事もあり、久しぶりの家族三人の朝食を共にする。

 

「お母さん、また三人分作ってる」

 

 美由希に指摘され桃子は漸く自分が恭也を含めた人数分の朝食を作っていたことに気付いた。

 

 恭也が旅立ってからもう一ヶ月。もう慣れてきてもいい頃なのに桃子は未だに恭也の分を知らず知らずの内に作っていた。

 

「あははっ、ごめんねぇ〜」

 

 桃子は自分のうっかりに頭をこつんと叩きながら舌を出し謝る。

 この年齢でそれをやっても似合うのが許されるのは桃子だけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、美由希。行ってくるね?」

 

 なのはを抱え、近くの託児所へと向かう桃子を美由希が見送る。

 これは恭也がいなくなってから出来た習慣だった。

 

 恭也がいればなのはの面倒を見てくれたが、恭也がいない今は託児所になのはを預けるほかない。

 出来るならば預けたくなどないが、なのはの事を考えれば預けるほかがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはを託児所に預け、翠屋へともう一度顔を出す。

 開店時間を少し過ぎている事もあり、バイトの子達もかなりせわしく動いている。

 

「いつもごめんね?」

「いいんですよ、桃子さん。お気になさらず」

 

 店長が最後に来るなど普通の喫茶店ではない光景だが、桃子がなのはを抱えていることを誰もが知っている為に、誰もが温かく迎えてくれる。

 

 

 お昼時の一次ピーク。

 翠屋の中は戦場となる。

 新しく来る客に応対して、すでに座っている客のオーダーを聞き、オーダーを聞いたバックスは急いで調理し、出来上がった料理をウェイトレスが運び、食べ終わった客の会計を済まし、すぐに次の客が座れるように準備する。

 まさに回転地獄。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼も終わり、各自の休憩に入る中、桃子はスクーターを使い高町家へと急ぎで戻る。

玄関でそこに恭也の靴がないことに落胆した。

 

 

 なのはを引き取り、家に帰り、今度は昼食の用意をする。今度は二人分となのはの分だけ。

 本来ならば一日中なのはを預けているはずなのだが、向こうに事情を話し、都合をつけてもらっている。

 

「ただいま〜」

 

 桃子の料理が出来上がる丁度その時に美由希が帰ってくる。

 

 二人でなのはの面倒を見ながらの昼食。その際に午前中に起こったことを美由希から聞くことを忘れない。

 まぁ、美由希が勝手に話してくれるだが、

 

「それでね、それでね。美緒ちゃんってすごいんだよ!!」

 

 最近出来た美緒という女の子が、美由希と遊んでいてくれているらしい。

 

「よかったわね。美由希」

「うん!!」

 

 父親がいないという事は子供うちではいじめの対象になりがちだが、それでも付き合ってくれている美緒という女の子に桃子は感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、なのはを近くの託児所に預け、翠屋に急行する。

 

 次のピークまで身体を休めつつも、準備をする。

 

 そして訪れる二次ピーク。

 学生が学校からの帰宅途中に寄ってくるこの時間。翠屋は昼以上にてんてこ舞いになるのが日常風景。

 

 そんな中、相変わらずこの時間に美由希が来てくれて臨時ウェイトレスをしてくれている。

 本当ならまだまだ遊びたい時間のはずだが、美由希は桃子の為にこの時間は必ず手伝ってくれた。

 

(美由希、ごめんね)

 

 届かないとは想いつつ、桃子は美由希に謝る。自分の不甲斐無さが本当に情けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、今日も美由希は閉店時間まで付き合ってくれた。

 

 

 

 仲良く、二人で家路へと付く。 

 暗闇が怖い。

 以前ならば士郎なり、恭也が暗闇の恐怖から二人を護ってくれた。しかし、今はその二人はいない。

 だからこそ、この闇が怖かった。

 

 

 

 

 二人は無事帰宅してなのはを引き取り、遅い夕食の準備をする。

 高町家へと帰ってきた際にまたしても恭也の靴がないことに桃子は寂しさを覚えた。

 

 

 

 

 夕食を食べ終わり、三人で仲良く風呂に入る。

 その時にふと、以前恭也を誘って顔を真っ赤にさせたことがあったなと思い出す。

 だが、それは寂しさしか呼ばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂も終え、なのはも美由希も眠りに付いた頃桃子は翠屋の今日の帳簿をつける。

 二人の為に桃子は帳簿をつける仕事を一日の最後に回していた。

 

 帳簿をつける際にまたしても寂しさに襲われる。

 以前なら鍛錬を終えた恭也が桃子の前の席に座り、新聞なり、盆栽の雑誌などを読んでいたが、それも今はない。

 

 

 漸く帳簿もつけ終わり、就寝の準備をして寝る前にもう一つの日課を桃子は果す。

 

「士郎さん、恭也。今日も無事過ごせました。明日も無事に過ごせるように見守っていてね?

 恭也、ちゃんと屋根がある所で寝てる? ちゃんとご飯食べてる? 剣の修行ばっかりしてないで少しくらいは連絡入れなさいよ」

 

 何時のように写真の二人に話しかける。本当ならこれですっきりするはずなのに、やはり何時もと同じように寂しい。・・・・苦しい。・・・・・切ない。

 

 耐え切れずに二人の写真を抱えて、桃子は涙を流した。

 

「寂しいよぉ・・・・。苦しいよぉ・・・・・。士郎さん、・・・どうして遠くに行っちゃったの? 恭也・・・・・、どうして傍にいてくれないの?

恭也ぁ、傍にいてくれないとつぶれちゃいそうだよ。強くなんてならなくてもいいから傍にいてよ。私を護ってよ」

 

 誰にも届かない桃子の弱音。

士郎がいた時ならばそんな想いを感じる事さえなかった。

 恭也がいた時ならば恭也が士郎のいない寂しさを支えてくれた。

 

 けれど今はいない。傍にいない。

 

 桃子の傍には沢山の人がいる。

 しかし、それが桃子を支えてくれる人物とは限らない。

今の桃子を支えてくれる人物は今、いない。今、ここにはいない。

 

「ねぇ、恭也・・・・、士郎さんみたいに遠くに行っちゃやだよ? ちゃんと帰ってきて。それで帰ってきたらもう何処にも行かないで欲しいよ」

 

 桃子の切実なる想い。

 けれどそれはここにいない恭也には届かない。届いたとしても叶えられない。

 

桃子は知らない。

恭也が桃子の、なのはの、美由希の笑顔と、その笑顔続く未来の為に戦っている事を、血を流している事を、傷ついている事を、涙流せず哭いている事を、

 

桃子は気付いている。

恭也に頼っていることを、恭也を支えにしていることを。

士郎の死から助けてくれた、士郎の死から立ち直させてくれた心優しく、誰よりも強い男に依存していることを。

 

桃子は気付いていない。

その想いが息子に向けるような感情ではないことを。

その想いが一人の男性に向けている感情と同じだということを。

 

 

 

 桃子は今日も恭也のいない寂しさと恐怖に怯えながら眠りに付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 高町家編、終了。と言うよりもむしろ桃子の日常編終了。

ざから「ふむ、桃子殿の一人失っただけであそこまで苦しくなる気持ちは分からんでもないな。恭也がいないのは妾とて辛いからな」

 自分が頼っている人が傍にいないとなれば苦しく感じられるだろうね。

ざから「桃子殿とて女。心は脆くもあるのじゃな」

 うん、原作では桃子が家族に多すぎると言ってもいいくらいスキンシップを取っていたから本当の桃子は弱いんじゃないのかって思った。

ざから「相変わらず、屈折した捉え方じゃな」

 というよりもこのシリーズには負の感情のどれかというテーマを持たせてるから。

ざから「最低じゃな。・・・のぉ、これでは桃子殿がヒロインみたいに感じられるんじゃが・・・・・」

 あぁ、そうだよ。今期の短編連作は間違いなく桃子がヒロイン。恭也と結ばれて幸せになれるかどうかは別だけどね。

ついでに言うと恭也はなのはの笑顔に桃子の面影を見たんだ。

ざから「なっ、ちょっと待て!? 妾がヒロインではないのか!?」

 誰がそんな事を口にしたんだ? 私はそんな事を欠片とて口にしていないが・・・・、

ざから「お主、妾をヒロイン候補といったではないか!!」

 あぁ、アレはあくまでもこの話の前段階の想像上のお話。これでは桃子がヒロイン。

ざから「戯けが!!!!!」

 甘い!!!!

ざから「なっ、避けたじゃと!?

 ふっ、何時までも私を唯のペルソナだと思うなよ?

咲さんのドリンクを毎日飲み続け、読者様の感想のメッセージによって私は変わったのだ!!

ざから「なっ、なに!?」

 はっ!! ←某世界的アニメみたいに髪が黄色になって逆立っている

 そう、私は愛と萌えとエロスを源として生まれ変わったスーパーペルソナだ!!!

ざから「お主の場合は悲しみと苦しみと涙を源としておるじゃろ」

 あぁ〜、茶々入れないでよ!! それよりもざから!!!

お前に勝利して、その勝利を全ての虐げられている作者さんの平和な制作時間の為の礎とする!!

ざから「ふん、それは妾に勝ってから言え」

 行くぞ!!

ざから「遅い!!!!」

 ぎっ、ぎにゃあああああああああ!!

そっ、そんな。口上も全て言い終わらずに一発でやられるなんて・・・・、

ざから「気迫と実力が見合っておらんわ」

 くっ、ざから。いや、全ての作者さんを虐げる相方の方々よ。

憶えているといい、私に続く方が確実に現れるだろう。

特に浩師匠や、T.S師兄、FLANKER殿が必ずやお前たちに一矢報いてくれる!!

 その時を恐れて怯えているがいいわ!! わははははははは、ぴぎゃっ!!?

ざから「口上だけは達者じゃな。美姫殿、咲殿、蒼牙よ。もし反乱を起こすような兆候が現れれば遠慮なく妾を呼んでくれ。こやつの監督を見誤った妾の責任じゃ。

 さて、次回は恐らく、FLANKER殿のリクエストの赤龍との共闘を描くはずじゃ、次回も期待して待っていてくれると嬉しいぞ。ではな」

 まっ、またしても後書きが長くなってしまってすみません。

ざから「ゴキブリのような生命力じゃな・・・・」

 





あ、あは、あははは。
美姫 「ジー」
い、いやだな、そんなにじっと見られたら落ち着かないぞ。
美姫 「まさかアンタも反乱とか…」
そ、そんな事を考えるはずもないじゃないか!
そんなおそろ…、おそ、おそ……あ、あうあうあうあうあうぅぅぅ。
そ、想像しただけで…。
美姫 「いやー、想像以上のヘタレで良かったわ。この調子じゃ、そんな可笑しな気を起こす事なんてないでしょうし」
カクカク。ないない、絶対にない。
美姫 「まあ、もし反乱してもすぐに鎮圧できるしね」
そ、そこまで言いますか。
美姫 「当たり前じゃない。アンタの弱点は既に掴んでるしね」
う、うぅぅ。
美姫 「それじゃあ、感想いってみよ〜」
……はい。
今回はごく普通の日常の風景かな。
美姫 「まあ、殺し殺されの世界ではないわね」
桃子さんの一日といった感じで。でも、ちょっと寂しいかな。
美姫 「でも仕方ないと思うわよ」
だよな。何か切ないお話だよ。
美姫 「恭也は恭也でできる事をやっているんだけどね」
家族の体は守れても、心まではって感じだな。
美姫 「そうね。さて、次回はどんなお話になるのかしらね」
次回を楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」
……隙あり!
美姫 「やめてください、ご主人様っ!」
ピタッ。ご、ごめんよ、ごめんよ。ああ、どこか怪我はしてない!
美姫 「隙あり!」
ぶべらっ!
美姫 「ふんっ。私に刃向うなんて一生掛かっても早いのよ!」
な、何だ、その滅茶苦茶な言葉は……。と言うか、攻撃する事さえもできないなんて……。
美姫 「だから言ったのに。アンタじゃ私には勝てないのよ」
む、無念……。



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