学園祭が終了して数日が経った。

だがその数日は実に慌しい物だった。その間にも幾つかの不思議な出来事が起こり、様々な学科の者たちが派遣されていた。

 

その内、何人かの生徒は戦闘で命を落し、またある生徒たちは調査に向かった先から帰ってきていない。

昨日まで普通に話し合っていた学友がいないという事実に学園の雰囲気が全体的に暗くなっていた。

 

だが、それでも士気だけは下がっていなかった。学園祭の成果だろう。

あの日々がこの学園をひいては赤全体の士気を上げていた。

 

またあの日々を取り戻せるように、またあの楽しさを味わうために未来の為に戦う。

 その為に己の命を懸けるという風潮が強い。

 

 望んでいた事だ。終わった後を考えてその為に小さい犠牲には眼を瞑るという事を。

 

 

 

人がいなくなっても士気が上がるという可笑しな現象の中で俺とダウニーは秘かに動いていた。

来るべき時が来たときの為に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十六話 幽霊騒ぎ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食時、相変わらず全員が集まり夕食を食べている。

最近はイリーナやマリーが抜ける日が多いのだがそれは仕事柄しかないだろう。

 

「今朝早くに王都へ行ったんだけれど、町の噂によればこの前の村のような怪異が王国全土に起こっているらしいわ」

「そう言えば、他のクラスの生徒たちがあちこちの調査に赴いてるよな。セルもいない日とか結構有ったし」

 

 全員がセルのほうに注目が言った。そこではイチャつくバカップルがいた。

 くっついてくれた事は嬉しいのだが……目の前でされるとかなり腹が立つ。

 

 セルに覚悟を持たせたつもりなんだが……いらんモノまで付いてきたか。

 この前まで未亜とイリーナの間でうろついていたセルはもういない。

 なんか急にセルが遠くなったな〜。

 

そんな変わったセルと、デレ状態に入っているイリーナにさすがに冷たい視線が集まる。

 

 事態を理解したのかセルが急にかしこまった態度にしてこちらを向いた。横にいるイリーナは不満顔だったが。

 セルのシリアスな態度。それだけでこれから話すことがとても深刻な話だということが分かる。

 

 普段はおちゃらけているがそこら辺の区別は理解している。

 

「あぁ、実はかなりヤバイらしい。俺達とは別地方に派遣された学生の一部がまだ帰ってきてないんだよ。」

「どういう事だ?」

 

 大河にしてもその内容は気になるらしい。他のものも静かにセルの言葉に聞き入っている。

 先ほどのいちゃつきはもスルーの方向で、

 

自然魔術師(ドルイド)科の奴らなんだけど。コーギュラントで動物たちが大量死した事件の調査に向かってまだ誰も帰ってきてない」

 

 誰も帰ってきていない。その言葉で食堂が静まり返る。

メリッサは特に蒼い顔をしている。学食で働いてるから気付いていたのだろう。

 

 

「学園は何してんだ? そんなのすぐに救助隊を編成して助けに行かないと……」

大河の意見はもっともだ。消息を絶ったのなら、すぐにでも救助隊を編成して部隊を派遣すべきだろう。

だが、消息を絶ったのが自然魔術師(ドルイド)と言うのが問題なのだ。

「大河。あんた授業で自然魔術師(ドルイド)については習ったでしょ?」

自然魔術師(ドルイド)とは自然に溶け込み、自然と一体化する事を様々な魔法を使います。

普通、彼らは1人で行動する上、山の中でも絶対に迷う事はありません。

マスターが以前受けた授業内容に、道具もなしに山の中で1ヶ月生活すると言うのがあるくらいです。

つまり、サバイバルと言う点においては他の学科の追随を許さないくらいに得意な学科なのです」

 

 リコの説明は久しぶりに聞いた。リコも少し嬉しそうだ。それ以上に人が死んだかもしれない事に憂いているが。

 

「だったら、調査が難航して山にこもってるとか……」

「けど、学園に定時連絡を入れることは絶対の義務のはずなんだ。それすらないってのは……」

 

何かあった証拠だろう。定時連絡は学園内で決められた絶対命令の1つである。

それがないという事は、間違いなく何か問題が発生した可能性が高い。

 

というかそいつら全員獣達に食われたんだけどな? 定時連絡が出来ないのは、

ロベリア経由でそこら辺の事情は全部俺に回ってきているし。

 

しかも、理由が王家の耳を潰すための予行演習ときている。

将来の戦力を削るという意味合いもあるが、それ以上に練習の意味が強かった。

 

まぁ、そこはこいつらには関係ないだろう。

 

「このことは学園の上層部に任せるしかありません。私たちが騒いでどうこう出来るレベルじゃありませんから」

 

 ベリオは悔しそうに呟く。その意見には誰もが同意せざるを得ない。

 

「やはり、破滅が絡んでいるんでござろうか?」

「さあな。その辺りはどうなんだ?」

 

大河の問いかけにリリィは重々しく一つ頷いて見せる。

 

「多分ね。今、王国の軍隊が解決に全力を注いでいるみたいだけれど……」

「この先はまだ分からないって事か。そして、それは俺たちがまた戦いに行く可能性もあるって事だな」

「その通りよ。いいえ、軍でも対抗できないようなら、相手は破滅って事になるでしょうから、間違いなくね」

 

二人の会話に他の者は少し黙り込んでしまう。

その顔はどこか不安げで、アルブとの州境の村での件を思い出しているのだろう。。

ベリオはそっと溜め息を吐くと、ゆっくりと口にする。

 

「どんどん大事になっていくわね」

「次も大丈夫でござるよな?」

 

 カエデにしてはかなり積極的な発言だと思う。

 確か本来の流れではまだ戦う事に戸惑っていたはずだ。

 なのに、ここで大丈夫かと尋ねている。それは随分と心が強くなった証だろう。

 

まぁ、誰も死にはしない。俺がさせないし……

だが、さしたる怪我も無く済むなどというのは俺でも中々無い。傷を負うのが戦いでは当たり前なのだ。

最も俺の場合は敵に傷を負わされるのではなく自らの無茶による反動が多いのだが。

 

カエデの視線は大河に向いている。

そう、たった一言を待っている。それは誰もが同じだったのかもしれない。

 

「あったり前だ!」

 

笑うように声高らかに答える。

それが当たり前であると、それ以外に何もないとばかりに自信を持って答えていた。

 

「まっ、当然よね」

「そうですね。私達はその為に力をつけてきたのですから」

「だねっ。怖くないことはないけど、私達は負けないよ」

 

 リリィもベリオも未亜も当たり前のように答える。

 あぁ、本当に強くなったな、こいつら。

 

「カルメルさんやフォルスティさん救出の時のようなことは早々にないですからね。

難しく考える必要はない。敵を倒す。それだけを戦っているときは考えればいいんです」

 

 それだけでいい。他の事は何一つとして考えなくてもそれだけ考えていれば生き残る可能性は上がる。

どんなに強敵が待ち構えていようとも、どんな罠が待ち構えていようとも、立ち向かって勝利すれば言いだけの話。

 

「蛍火さんたちはそれでいいかもしれませんけど。待ってる私たちは心配です」

 

エリザの悲しそうな声。あぁ、こっちのフォローも入れないといけないのか。

戦う方は意志が高いが、待つ方はそうでもないか……

当たり前だな、送り出す方と送られる方とでは、心を占めるモノが違う。

 

「大丈夫ですよ。破滅の百や二百、ここにいる面子がその気になれば倒せます」

「いや、簡単には無理だからな。てゆーかそれが出来んのはお前だけだ」

 

まぁ、俺ひとりでも確かに出来なくもないが。

 

「当真にも出来ると思うんですけどね。まぁ、破滅程度なら別に恐れる必要はありませんよ。

ドラゴンの群れにでも襲われない限り平気ですからね」

 

 なんというか。みんな呆れている。

 俺にとってはもはや当たり前の事なのに……他の者は呆れていた。

 あぁ、そうか。俺だけが破滅の力量を知っているからそういえるんだったな。

 

「誰もが恐れる破滅を程度扱いか。お前の神経は無事か?」

 

 あぁ、その発言か。だってなぁ。俺にとっては破滅なんてその程度でしかないからな。所詮獣の集まりだから勝つのは難しくない。

 それよりも厄介なのが大河なんだが。

 

「さっき聞き逃してたんだがこの世界にドラゴンってマジでいるのか!?」

「はい。最強の種族としてこの世界のどこかにいまだ存在します。

ちなみに蛍火さんのコートはそのドラゴンの翼膜を使って出来ているので防御力は鎧を凌駕します」

 

 やっぱりリコは見ただけでコートのことが分かったか。侮れんな。

 

「まぁ、無事に戻ってこれますよ。知性の無い存在の相手は難しくないですからね」

 

 エリザやアムリタ、メリッサはそれで安心できたようだ。レンのほうは元より俺が負けるとは思っていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を食べ終え、食後のお茶タイム。ふむ、やはり珈琲はブラックに限る。

「そういえばダリア先生に聞いたんだけど、食堂に幽霊が出たって話があるんだ」

「幽霊?」

 

 学園での幽霊騒ぎか。なら、ルビナスがパーティに加わるか。ふむ、予想よりも少し遅かったか。

 あぁ、以前は学食を使っていたのだが、随分前に学園長に無理を言って寮にキッチンを作ってもらった。

食事をしている最中にアンデットモンスターに襲われたら洒落にならんからな。

 

「うん。ダリア先生が昨夜、食堂に食べ物を取りに行った時に見たらしいんだ」

「ねぇ、ちょっと待って。食堂の鍵は料理長が持ってるはずじゃ?」

 

 学園のことは理解しているのかリリィからの質問が飛ぶ。普通はそうなんだけどな。

 

「うん。なんでも自前らしいよ。料理に使うワインとかチーズをちょろまかしてたらしいの。

私が聞くまではネズミかなって思ってたんだけど」

 

 不良教師の鑑だな。教師としてのスキルと、そんな無駄な事に使うなと言いたい。言ったところで無駄だろう。

あのとろい喋り方をしながら胡散臭い笑みを浮かべ、全ての追求を躱わす元凶のダリア先生殿の姿が眼に浮かぶ。

 

「盗みを働くなんてブラックパピヨンと同類じゃない」

「ごっ……ごめんなさい」

「ベリオ殿?」

 

形はどうあれ、当人がこの場にいるのだから。それに気付いたのか、大河はリリィを押しのけ慌てて続きを促した。

 

「そ、それで、どうしたって?」

「うん。誰もいないはずの食堂の中から、白い影がじっとこちらを見ていたって……」

「う、うぅぅぅ。聞きたくない、聞きたくない……」

 

リリィの言葉に両手で耳を塞ぎながら未亜がぶつぶつと繰り返す。そんな未亜をちらりとだけ見ると、大河はリリィへと顔を向ける。

エリザもアムリタも蒼い顔をしている。この前の事で恐怖がへばりついてしまった様だ。

 

「ガラスに映った自分の影とかいう事はないのか?」

 

 セルといちゃつくことも出来ないイリーナが漸く話に乗ってきた。何故か幽霊ということを否定したがっている。

 

「それはないと思うよ。ダリア先生の言葉を信じるなら、その影には肉がなかったって」

「肉がないって、どういうことだ?」

 

 セルも漸く参加。今度からこいつら夕食の出入りを禁止しようかな?

 

「つまり、骨だけなの。真っ白な骨だけの姿をした影が、何十体も真っ暗な食堂の椅子に座っていたんだって。

しかも、胃がないのに食べ物を食べようとして、ぽとん、ぽとんと食べ物を落して……」

 

怖がる未亜が楽しかったのか、メリッサは説明口調から不意に声を低くすると、ゆっくりと怪談をするかのように語る。

その内容に未亜だけでなく、ベリオやエリザアムリタまで顔を青ざめさせる。

イリーナは机の下でセルの手を握って必死に耐えている。へぇ、意外だな。

 

……レンは気絶していた。重症だな。

そんな四人とは違い、大河は腕を組みながらメリッサの言葉を反芻する。

 

「……何か、シュールな光景だなそれ。」

「もう、折角雰囲気出したのに、台無しにしない欲しいな」

「いや、そうは言うが、今自分が言った事を想像してみろ」

「……確かに」

「だろう。それに、骨だけの姿と言っている時点で、それをはっきりと目撃しているんだろう。だったら、影とは言わないんじゃないか?」

 

 確かにな〜。そこまで明確に姿が見えているのなら影とは言わないだろう。影とは朧げな、不明瞭な物をさすのだから。

 尚、今回の件はダウニーと私主導、実行犯はロベリアだったりする。

 学園の全体の戦力を見る為にやっちゃいました。

 

「それは私に言われて……」

「確かにな」

 

二人がそんな事を話している横で、カエデもまた腕を組み考えていた。

 

「うーむ、面妖な。餓鬼の類でござろうか?」

 

真剣に悩むカエデに、大河がポツリと言う。

 

「なぁ、それってアンデッドモンスターじゃねぇか? 何度かそういったのと戦ってるじゃん」

 

心底不思議そうな表情を作るメリッサ。少し考えれば分かる事だ。

となると、ダリアあたりが故意に幽霊だと思わせるような発言をした可能性が高い。

何しろ、ダリアは普段の態度からは想像出来ないかもしれないが非常に優秀だ。

もちろん、普段の態度が態度だけに信じたくないが。

 

「……確かに言われてみればそうだよね。何で気付かなかったんだろ?」

「まっ、なんにせよ。実害が出ているのは大変ですね」

「だな。昼飯が食えなくなったら洒落にならねぇ」

「そう言ってくれる人、ううん、勇者が現れるのを待ってたのよぉん」

「のわぁああああああああ!!!!」

 

そう言って会話に割り込むように誰かの声。そして、大河はその誰かに抱きつかれて悲鳴を上げていた。

 

「ダリア先生。何の御用でしょうか?」

 

 リコの鋭い視線にダリアはたじろぐがすぐに気を取り直し、イイ笑顔で。

 

「そ・れ・は・ね〜 はぁ〜い、救世主さま七名、ごっっあんな〜〜〜〜いぃぃ

「ご」「あ」「ん」「な」「い?」

 

素晴らしいほどいい笑顔をして、楽しそうに笑うダリアの姿があった。

ああ、悲しいかな。ダリアがこの笑顔をしている時、大抵の場合はよからぬ事を思いついている時の顔だ。

だが、残念な事に他の救世主候補者達はそんな事に気付かない。

 

「何の真似だ、この妖怪乳乳頭……じゃなくて乳入道」

「何の真似もなにもぉ、あなたたちの次のミッションを伝えに来ただけよん♪」

「……それって、もしかして」

「あら、察しが良いわね、未亜ちゃん」

 

顔色をさっきよりも青くさせて言った未亜の言葉に頷くダリアを見て、ベリオも恐々と口にする。

 

「ま、まさか……、ゆ、ゆう…………」

「ふふふ♪ 今夜からお化け退治をしてもらいますぅ〜♪」

「んなっ!?」

「ダ、ダリア先生?」

 

唖然とする大河と未亜。一方、ベリオの方は全てが終わってしまったと言う顔をしている。

そこまで幽霊というものに恐怖する理由が分からないのだが。

生きている人間の方がよっぽど怖いぞ?

 

「ね、ねっ。この通り、お願いよぉぉ〜。このままじゃダリア、怖くて夜中にご飯も食べれないわ〜」

「夜中に食べなければ良いのでは……」

「そもそも、冷蔵庫には鍵がついていて、その鍵は料理長が持っているんじゃなかったでしょうか?」

 

ベリオの疑問に対し、ダリアは胸元から一つの鍵を出してみせる。

嫌な予感を感じつつ、大河がそれに付いて尋ねると、ダリアはにっこりと微笑み、鍵を軽く振ってみせる。

 

「勿論、冷蔵庫の鍵よ うふふふ、自作しちゃった

「ダリア先生、思いっきり規則破ってる事を、自覚してますか?」

 

俺が呆れたように言った言葉に、しかしダリアはあっけらかんと答える。

 

「だって、晩酌は最高のストレス解消法なんだもん。ほら、ストレスを溜めたらお肌に悪いでしょう」

「その前に、肝臓に障害が出て肌が荒れる心配をした方が良いのではござらんか?」

「その前に、ストレスなんか溜まってるのかな?」

「確かに、ストレスとは無縁そうよね」

「……ストレスじゃなくて、年の所為」

 

 カエデ確かにそうだな。未亜とリリィの意見にも同感。しかし、リコよ。お前が年齢のネタを出していいのか?

 

「……カエデちゃん、未亜ちゃん、リリィちゃん減点1。
 そ・し・てぇ〜。リィィ〜コ〜〜ちゃ〜〜ん。それはどういう事かな〜〜」

「……なんでも有りませんよ?」

「うふふふふふ〜」

「…………」

 

 微かにその額に青い筋が浮かび上がっているように見えるダリアと無表情を貫いているリコ。

しかし、リコからは怒気がこぼれている。気付きにくいぐらいのだが……かなり強い。

 

「ね、ねえ、ひょっとしてリコってば、怒ってるとか?」

「そ、そうかもしれませんね。リコが怒ったところを見た事がないので、何とも言えませんけれど」

 

 逝っちゃってる行動とかその他もろもろは俺も見たことがあるが怒ってるところは見たことがないな。

 それだけ大河に愛情を寄せているんだろうな〜。

 

「リコ殿は静かに深く怒るようでござるな」

「で、でも、どうしてリコさんは怒ってるの?」

「ひょっとして、ダリア先生がお兄ちゃんに抱きついてからかった事、とか?」

 

口々に囁く未亜たちだったが、それは推測の域を出ることもなく、また聞く気にもなれる訳もなく、ただ目の前の光景を息を潜めるようにして見守る。

だが、ダリアもあっけらかんとその怒りを押さえ込み、未だに額には青筋が浮かんでいるが。

 

「まぁ、気を取り直して。こうなったら救世主クラスのみんなだけが頼りなのよぉ」

「そ、そんなローカルなネタで…………自然魔術師(ドルイド)科では大変なことになってるってのに。」

 

 ローカルか?

 俺は自分達の領域でそんな事になっているほうが大変だと思うんだが……

 まぁ、起した張本人がいう事ではないのかもしれないが。

 

大河は先程のセルに聞いた行方不明事件の事を手短にダリアに説明した。

 

「それもそうねぇ……ちょっと不謹慎だったかしら?」

「ほらな? もうちょっとこう、節度をわきまえて……」

 

大河。すでに墓穴を掘っていることに気付いているか? 気付いていないんだろうな。

 

「決めたっと、それじゃ救世主クラスは自然魔術師(ドルイド)科の行方不明者探索のために、2ヶ月ほど山に籠もって……」

「学園内の平和を脅かす骸骨達!!由々しき事態ですよね!! ダリア先生!!」

 

 大河は、一瞬で屈した。

 

「大河くんなら、そう言ってくれると思ってたわぁ♪ そ・れ・と、蚊帳の外みたいに静観してる蛍火君。君にも関係有るんだけど〜」

 

 ん? 話題がこっちのほうに着たか。別に俺は知っているからもう気にしていなかったんだが。

 

「別に私はダリア先生が来ようとも来なかろうとも調査は行う予定でしたよ? 料理長には恩も有りますし。

学園にモンスターが出たとなってはレンやカルメルさん、フォルスティさんの安全も保障されませんし」

「蛍火君、蛍火君。私は、私は?」

 

 名前の挙がらなかったメリッサが自分もと主張する。本当に積極的になってきたな。

 

「えぇ、メリッサさんも当然。ここにいる人の安全は保障したいですから」

「あらん。じゃあ、私もかしらん?」

「必要ないでしょう?」

 

 ダリアの心配など俺がする必要もない。マリー以上の実力を持っているものを心配する必要性は欠片も存在しない。

 

「なぁ」

 

 思わぬところから声が上がる。その方向を見ると決意を固めたセルがいた。

 

「俺も参加していいか?」

 

 それはやはり大河に似た実直な眼だった。本当に赤ってのは似た奴が多いね。

 

「セルビウム。ゴーストには通常の打撃は利きませんよ?」

「スケルトンとかは物理攻撃が利くだろ? 頭数は多いほうがいい」

 

 ふむ、隣ですがるような視線をセルに向けているイリーナがいる。大方イリーナのためか。

まぁ、理由はどうあれ手伝ってくれるのはありがたいな。

 俺はポケットから剣を取り出す。もちろん鞘付だ。さすがに鞘に入れてなかったらポケットが破れるからな。

 

「決意は硬いようですね。まぁ、私は拒みません。セルビウム、これを使いなさい」

 

 俺はセルに向けて剣を放り投げる。セルは回っている剣を見事に掴んだ。

 

「それは特殊なアンチマジックが施してある剣です。それならゴーストも切り裂けるでしょう」

 

 普通のアンチマジックは魔法を軽減するのが限界だが、その剣に施されているアンチマジックはそれとは少し違う。

マナを切り裂くのだ。だから、マナで体を構成しているゴーストにもその攻撃は届く。

といってもマナの高度凝集体の魔法を切り裂けたりはしないのだが。

それでも十分な物だろう。

 

「いいのか?」

「腐らせておくよりもいいでしょう。それにこの前、セルの武器を砕いてしまいましたからね。

そのお礼とでもして置いてください。私は刀を使いますから。それとその剣の銘はアクレイギア。大事にしてくださいね」

 

 剣と刀では使い方に際があるからな。皇帝に貰った一品だが。まぁ、使わないよりもその方が断然いい。

 アクレイギア。花言葉は勝利への決意。そしてあの人が気がかり。セルにぴったりだ。

 

 というか今のセルの腕を考えると……市販品ではもう剣の方が追いつけない。

 オーダーメイドか、過去に名を残した名剣クラスでないと存分に力を発揮できない。

 

「サンキュ」

 

 新しい剣を手に入れたセルは満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 その事に少しだけ不安に思う。

 強すぎる力は不幸を運ぶ。戦いを運ぶ。

 あの武器は今は使えるだろうが……終わってしまったら用済みにしかならないような武器。

 平和な世界では使いようもない武器だ。

 それがセル達に何か災いを呼ばないかどうかが……不安だ。

 

「ん〜、えぇなぁ。うちもなんか一つ有った方がえぇな〜」

「はい? 家にいいのがあるんじゃないんですか?」

 

 千年前から続く家系なら俺が持っているクラスの武器はともかく名剣クラスなら数本はあるだろう。

 

「刃こぼれとか沢山で困っとるねん」

 

 見せられた刃には多くの刃こぼれ。

 このままでは無理だろう。というかこれ自体がかなりの名剣。これクラスをまた探すとなると……難しいな。

 

「はぁ、いいですよ」

 

 ポケットを漁ってマリーに合いそうなものを探す。

 確か戦い方はダリアと一緒だから……短剣か短刀の方がいいな。

 

秋桜(コスモス)。短刀の一種ですね。丈夫に出来ていますが峰で相手の武器を受け止めないで下さい。

特殊能力は風を纏わせることができることですね。遠距離に使うもよし、防御に使うもよし。

制限はありませんが火の魔法などには対処できませんのでご注意を」

「サンキュ」

 

 受け取ったマリーは刀身を確かめながらいい刀であることを理解したようだ。

 

 尚、特殊能力が何処かのゲームに出てくるキャラと同じといってはいけない。

決して風○結界と同じ力を持っているといってはいけない。おんなじだけどね。

花言葉は真心と調和。刀身も赤いのでマリーにぴったりだ。

 

 

 そのマリーを羨ましそうに見ているイリーナ。

 そういえば、イリーナも剣のことで悩んでいるんだよな。

 まぁ、剣士にとって格の高い剣を持つ事はやはり必要だし。

花言葉は真心と調和。刀身も赤いのでマリーにぴったりだ。

 もはや何に驚いたらいいのか分からないようだ。ドラ○もんよりも便利だしなぁ。

 

 

「イリーナさんにも渡しておきますか。

 グラキアスさんにはハートピー。青と金で彩られた騎士剣です。華美な装飾はされていませんが実用本位の剣です。

特殊能力は周りのマナを集めて放射状に放出出来るというところです。同じ場所での使用限界は三回。

それ以上は生態系や他の魔法使いに影響が出ますから気をつけてください」

 

 これならば魔力適正のないイリーナでも魔法と打ち合える。

外見とか、特殊能力がどこぞの世界に出てくる武器と同じといってはいけない。決してセ○バーの使うエクス○リバーではない。

 花言葉は貴方と共に、何時か叶う夢。

 

 

 だが、やはり不安に思う。

 必要以上の力を持つ武器は不要だ。それに何時かその力に溺れかねない。

 そういう意味では力がありすぎる武器とは危険なのだ。

 

 こいつらは大丈夫だろう……だが、もう少し様子を見よう。

 後で返して貰うことも考えないと。

 

 

 

 

「という訳でさっさと退治にかかりましょう」

「いや、その前に色々と聞きたいんだが……主にお前のポケットの中身について」

 

 大河の視線と同じように他の者も視線を送ってくる。

 

「企業秘密です」

 

 

 

 

尚、表に出る前にお祈りに行ってきますといってベリオとリコが少しだけ離れた。

その手に持った五寸釘と藁人形はいったい何に使うつもりなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、食堂前へと集まった俺たちは、ここにアンデッドが居ないと分かると、学園内を手分けしてアンデッドを探すことにした。

 

「で、二人一組で計4グループで動くのが一番効率よく探せると思うんだが……危なすぎるよな?」

「そうだな、二人じゃ対処しきれない場合もある」

「やっぱり二グループで周るのが一番いいでしょう」

 

まぁ、その方が危険も少ないだろう。まぁ、原作でも二グループに分かれていたし。

それに前衛が四人、後衛が四人と本当にバランスがいい。

 

「となると、だ……この2人は絶対に別けないといけねぇな」

 

そう言いながら大河は視線を未亜とベリオへと向けた。そこには顔を真っ青にして微妙に震えている2人の姿があった。

その顔には、間違いなく恐怖の色があった。

まるで、これからお化け屋敷に無理やりつれられていく子供のようだった。

 

「ったく―――――アンデッド系のモンスターとか相手してるくせに、なんで幽霊が苦手なんだよ」

「お兄ちゃん、それはそれ、これはこれ……だよ」

 

 まぁ、救世主の鎧をとりに行くところのように怨念の立ち込めているわけでも無いのでその内慣れるだろう。

 

「当真の言う通りですね。あの2人は絶対に別けないと、下手すると相乗効果で、余計に混乱する可能性が高いです」

「まったく――――――救世主候補が幽霊を苦手なんて……」

「まぁ、そればっかりはどうしようもないでござるよ」

 

呆れたようなリリィの呟きにカエデがフォローを入れる。

とは言え、リリィにも苦手なものはあるしカエデなんて血液恐怖症である。

まぁ、そればかりはどうしようもないだろう。怖いものがないのは人である限り存在しないだろう。

 少し前の俺なら無かったがな。

 

「さて、分けるのなら、私、セルビウム、シアフィールドさん、当真さんの四人。

そして当真、ヒイラギさん、リコ・リスさん、トロープさんの方がいいでしょう」

「でもよ、それだとこっちが後衛として力が不足しないか?」

 

 確かに、大河たちのほうは後衛の力がそれほどない。逆にこっちにはリリィと未亜と後衛では破壊力のある二人がいる。

 

「こっちはセルビウムがいるんです。後衛は優秀でなければ成らない。

幸い、この分け方だと回復魔法を使える人物も当真さんとトロープさんも均等に振り分けられますから」

 

 セルは確かに強い。けれどそれは傭兵としての強さだ。救世主クラスのメンバーと共に戦うには経験が圧倒的に足りない。

だから、後衛は優れているものが欲しい。

 

 救世主候補とそれ以外の戦いで圧倒的に違うのが速さ。

 少人数であるが故に生み出すことができる進軍速度。

 それにセルには慣れてもらいたい。後のこともあるしな。

 

「それに、これだと後で喧嘩が起こらないでしょう?」

 

 ちょうど綺麗に分けることが出来るのだ。なら、それに従うほうが後々の諍いも少なくなる。

 

「でもよ、セルは参加して大丈夫なのか?いつも俺たちはこのメンバーで戦うのに慣れてるけど」

「大丈夫だ。それに蛍火に借りた剣があるからな。量産品なんか眼じゃないくらいに使いやすい」

 

 少しは振ったか。それにしても使いやすいとはな。使うものによってはものすごく扱いづらい剣なんだが。認められたのか。

 

 

「なぁ、蛍火。これって結構な代物じゃないのか? 俺なんかが貰ってもいいのか?」

「そうですね。たぶん売ったなら親子二代にわたって豪遊できる代物ですね」

 

 値打ち物だとは分かっていたがそこまで値が張るものだとは思っていなかったらしい。

まぁ、剣は素人目には値段が分からないからな。

 何しろあれは破滅が来る前から存在した剣だからな。歴史的にみてもかなり貴重な品物だ。もちろん武器としてもかなり。

 

「てっ、手垢とか付いちまった」

 

 セルが剣の柄を懸命に拭おうとしている。小市民だな。

 

「というかそんなものを簡単に他人に上げるなんてあんた、おかしいんじゃない?」

 

 リリィの言葉に他の誰もが同意しているように頷いていた。

 まぁ、確かにおかしいだろうな。だが、俺の神経と価値観を一般人と同じように見てもらっても困る。

 

「それは武器ですよ?眺めるだけ、収納しているだけでは意味がありません。使ってこその武器。

振るうに相応しい人物と場所があるのならその人に委ねるべきです」

 

 現代の刀は美術品である。しかし、俺はそれを決して刀にとって幸せであるとは思えない。

武器は、刀はその生まれた時から与えられた使命を全うすべきだ。

生き物を殺すために生まれたのならその為に振るうべきだろう。

 

「それに元々、私も譲り受けたものですから。大事な品ではありますが腐らせておくにはあまりにも惜しい」

 

 本当にあれが振るわれないのは持ち主として惜しいと思う。武器は戦場でこそ輝くものだ。

 

「まぁ、私のじゃないから別にいいんだけど」

 

 リリィは元から気にしていなかったのかもしれない。唯、俺の異常な行動に驚いただけだろう。

 

「でも、俺なんかが貰ってもいいのか?」

 

 セルはまだ、その剣を持つことが落ち着かないらしい。剣が認めているというのに。

 

「セルビウム。それは貴方にこそ相応しい。

その剣は召喚器のように意思があるわけではありませんが、それでも持ち主を選別する機能はついています。

 持ち主に相応しくなければ持ち上げることさえ叶いません。それが出来るという事はその剣に認められているということなんです。

誇りなさい。その剣の担い手になれたことを」

「……でもよ」

 

 セルは未だにぐずっている。はぁ、小市民過ぎる。もう少し、自分に自信を持て、

 

「それにセルビウム。貴方はもう負けられないんです」

 

 そう、セルはもはや負けることが許されない。それは本当はセルも気付いているはずなのに。

 

「愛する人を残して死に逝くつもりですか? そこに生き残る確率を上げるものがあるのならそれを使いなさい」

 

 セルははっとなる。イリーナと付き合った日が浅いから、そこまでには思い至っていなかったのだろう。

 

「そうだよな。俺はもう、負けられないんだよな」

 

 その事にセルは漸く気付いたらしい。大丈夫だ。赤の力がセルを、イリーナへの愛が、イリーナからの愛がセルと支える。

 愛とか連呼してるとかゆいな。

 

「ついでに、その剣の機能を教えておきます。

 最も力を込めた瞬間に爆発的に上げるものです。簡単に言えば、その剣で敵を斬り裂く瞬間。避ける為に横に飛ぶ瞬間等々です」

 

 もう、セルは何に驚いたらいいのか分からないくらいに驚いている。他のものも同じようだ。

 

「というかそれって使いづらくないか?」

 

 大河の言う通り、今までの感覚が全て潰れるし、その上任意で力を上げる瞬間を選べない。

 だが、それはそういう風であることが当たり前になれば心配する必要はない。

 セルならば、恐らくこの夜のうちにある程度のコツを掴んでしまうだろう。

 

 それにセル、マリー、イリーナに渡したそれぞれは使いようによっては救世主候補に対向できる。

 勝つとなれば難しいが、抑えるという意味でなら十分に役目を果せる。

 

 セルは一体何処まで使いこなせるのか……

 

 

 

遺失武器(アーティファクト)ですか?」

 

 今まで沈黙を保っていたリコが口を開く。

 見ただけで分かるとはさすがだな。まぁ、実際これ以外の実物を見ていた可能性もあるか。

 

無論、こんなものは現代には存在しない。そして千年前でも存在しないだろう。

 

「えぇ、そうなります。調べたらそうだっただけですけどね。

さて、セルビウムの心配がなくなったところで周りましょう。雑談をしにきたわけではないんですから」

 

 

 

 


後書き

 さて、今回は本来の流れに戻って幽霊騒ぎ。

 本来ならここで戦闘シーンまでいけばいいのですが……その前にセルのパワーアップを。

 

 セルはこのSSでは結構前に出てきます。

 というかこの時点でセルが救世主候補と一緒に戦ったのはかなり少ないのかも。

 セルにはこれから少しずつですが活躍してもらう予定です。

 彼は意外と強いですから……頑張って欲しいものです。

 

 

 今回は前回のこともあって割と以前の蛍火の姿です。

 まぁ、あそこまで必死こいて己を封印したんですからこうなってない方がおかしいんですが、

 そしてヒロインなのに一言も言葉を発していないレン。

 すみません、キャラが多すぎてキャパオーバーですorz

 もう少し頑張らないといけないですね。

 

 

 

 

観護(何やってたのよ?)

 開口一番にそれか……、ん、リアル事情とクリスマスSSを書いてた。

観護(シンフォンさんの三次SS? よくやるわね)

 おいおい、一応、あれを書いてるのは某Pって事になってるんだから言うなよ。

観護(みんな口にしてないだけで気付いてるわよ)

 まぁな。シンフォンさんってかなりうっかりだし……

観護(まぁ、そんな楽屋ネタはおいておいて、今回はセルのパワーアップね)

 といっても武器だけが手に入っただけだから本格的にセルが活躍するのはもう少し後だがな……

観護(ここは最初から使えるようになるんじゃないの?)

 無理に決まってるさ。セルはずっと戦うために準備してきたんだから癖がある。

 それを修正しないと蛍火から渡された剣は使いこなせない。

観護(しかも中途半端な能力を与えて)

 15分間だけ救世主候補と同じようにするという案も考えてたが……ありきたりすぎたから。

観護(見たことあるしね)

 だろうな。だからこっちにした。

 さて、次回予告。

観護(ついに登場。何故か動くリボンを頭に飾り、褐色の肌を持つあの少女!)

 という訳でまだここは続きます。

観護(では、次回で)





幽霊騒動勃発。
美姫 「とは言え、それを裏で操っているのはやっぱり蛍火なのね」
だな。それで自分も退治に参加と。
美姫 「セルには少々変わった武器が与えられたわね」
だな。けれど、単純にパワーアップと言う訳にもいかないだろうな。
美姫 「そうよね。後書きでも言われているけれど、扱いが難しいわよね」
セルは使いこなせるようになるんだろうか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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