目が覚めるとレンの顔がドアップでありました。

 近すぎます。

 

 というかなんで気付かない、俺!

 

 

 朝起きて、すぐにレンの寝顔があるなんて最初以来か。

 

 外は快晴。絶好の祭り日和。

 俺らしくないが……お別れには絶好の日だ。こんなにも雲がなく空高くまで晴れ渡っているのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十三話 関係が変わる時

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 気がつくとレンが起きていた。

 レンが起きてしまった事で昨夜の事が否応でも思い出してしまったが表面には出ていなかった。

 出ていなかったと思う。出てないで欲しいなぁ〜。

 

「おはようございます。レン。早く支度をしましょうか?」

 

 レンが着替えているうちに軽く体をほぐしておくか。

 

 

 

 

 

 

 さて、エリザ、アムリタ、レンの三人は朝食を食べた後に着替えに行った。

 昨日とは違う服を着る予定だそうです。そして救世主候補達も俺に隠れるように出て行った。

 

 そういえば、あいつらもよくがんばったよな〜。

 だが、あれは俺の方に話が来ているし、隠している事はなんだろうな?

 

 あぁ、だが昨日の事は何もなかったようにレンと接することが出来てよかった。

 

レンはいつもよりも積極的に俺にくっついてくるが、恐らく昨夜の事が周りに気づかれることは無いだろう。

精々、甘え癖が付いたぐらいにしか考えないだろう。

 

 それにしてもレンがキスをしてくるなんて考えてもいなかったな。

あっ、昨夜は混乱とかで気付かなかったけどあれが俺のファーストキスじゃん。

 十歳以上も年下の被保護者に寝てる内に奪われるって。情けねぇ。

 うぅ、俺のファーストキスがぁ。

 

 ん? ちょっと待て。この気配は。

勘違い? いや、俺が知っている者の気配を間違えるなんて無い。

 

 ぶち壊す気か、アイツラ!

 

 俺はすぐさまその方向へ向かう。

 三人には待っていて欲しいといわれているがそれでも目の前の事態を放置はしておけない。

 釘を刺しておいたはずだったんだが……少しキツイ灸を据えるか。

 特にイムニティには啼いてもらおう。

 

 

「イムニティ、ロベリア。こんなところで何をしている?」

 

 目の前には少しばかり着飾った二人。以前俺の店に来たときのように微妙に変装していた。

 気が立っていたのかもしれない。俺は第四の仮面でイムとロベリアに詰め寄っていた。

 

「ちょっと、どうしたの? マスター」

 

 普段は決して見せない姿にイムはうろたえていた。それは何よりも普段使っている愛称で呼ばれなかったからだろう。

 

「何をしていると聞いている」

「別に。普通に遊びに着ただけだよ」

 

 ロベリアは何でもないように言っているが。普通に遊びに来た? 何を馬鹿なことを。

来たかった事は知っている。だから釘を刺しておいた。

この祭りが何の為に、誰の為にしているかを教えては居ないがそれでも赤の陣地に入ってくるとは思っていなかったのに。

 

 

「ここにはオルタラがいるんだ。見つかったら。いや気配を感じられたらどうするつもりだ」

 

 幾万年以上も対立してきた、生まれてきた時から対立してきた二人がこんなに近くに居て相手を察知できないはずがない。

 あの二人の因縁の深さは、計り知れない物がある。

 

 この二人が見つかってはこの祭りそのものが中断されるかもしれない。それだけは阻止しなければならない。

 

「大丈夫よ」

「その根拠は?」

「マスター。どうしたのらしくないわよ? マスターなら少し考えれば分かるはずよ」

 

 イムの心配そうな表情を見て自分が興奮やその他の普段とは違う状態にいることに気付いた。

ちっ……少し頭に血が上りすぎていたのかもしれない。やれやれ。

 呼吸を整える。――――――よし、思考はクリア。

 

 

「すみませんね。この一週間殆んど寝ていなかったので気が立っていたのかもしれません」

 

 色々と回りまくったし、その上にアレやってたし。

 

「ん。いつもの蛍火だ」

 

 ふむ、これで大丈夫なようだ。なら何故イムが大丈夫という根拠を考えなければ。

 

「あぁ、例えオルタラたちが出てきても遊んでいると言い張れば大丈夫ですね」

 

 戦う気が無いといえばいい。それにもし襲い掛かってきたとしても周りには人質があふれんばかりにいる。

そんな中で戦いを挑んだりしないだろう。

 

俺なら気にしないで攻撃するが、大河やリコは出来ないだろう。

 

「そういう事。ねぇ、マスター? 案内して欲しいんだけど」

「すみません。今、イムと一緒にいるところをオルタラに見つかったら私が白の主であることが露見してしまいます。

まだ隠していたいですから」

 

 元々イムのことを知らないものが多い。この世界でイムが白の精だと知っているのはリコと大河のみ。

学園長もイムという少女の姿をしたものが白の精だという事は知っているだろうが

姿形を変えた今のイムを千年前のイムと同じだとは認識できないだろう。リコの事だって赤の精だと気付いていないのだから。

変装しているイムを一発でイムだと気づくのはリコだけだろう。しかし、一人だけだからといって安心は出来ない。

 

「早くこっちに着たらいいのに」

 

 子供のように拗ねているイムを見て苦笑してしまう。本当に目の前の少女が長く年月を生きているとはとても思えない。

 たまにしているレンのように頭を撫でる。

 

「今度、取って置きのお菓子を作りますからそれで許してください」

「仕方ないわね。それで許してあげる」

 

 真っ赤になって俯きながら言われたのでは迫力がない。まぁ、許してもらったしそれでよしとしよう。

 

「もちろん、私の分もあるよな。」

 

 確認するようにロベリアが聞いてくる。二人はセットできているのだから当たり前だ。

 

「えぇ。きちんと用意しますよ」

 

 あっ、でもこの分だったらシェザルやムドウの分も作らないといけないかもしれない。本当に手間がかかる。

 あの二人、暴れてないといいなぁ〜。

 

「では学園祭を楽しんでくださいね」

 

 俺は二人から離れ、三人が来る場所に行った。別れ際のイムの惜しむような小さな声が耳に残った。

 

 

 

 広場に戻っても三人が来てはいなかった。

 居なかったら少しばかり悲しませてしまうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

 漸く待ち人の到来か。気配でもう近くにいたのは分かっていたが服装までは予測できなかった。

 三人は昨日のメリッサとまったく同じ服装をしていた。ネコ耳メイド服でした。しかも首に鈴までつけた。

まさか、昨日俺が興味を持っていたことに触発されたのか?

 

「どうかな、蛍火さん?」

 

 アムリタそう言いながら尻尾や耳を盛んに動かす。やはり俺が原因か。

 エリザは恥ずかしそうに申し訳程度にだが尻尾や耳を動かしている。

触って欲しいのか? だが、昨日リリィに注意されたばかりだからな。まぁ、レンのものでも触っておこう。

 

「うにゃ〜ん」

                                     

 俺が触れた途端、レンが奇声を発した。いや、そういっては失礼だな。

かなり可愛らしかったし。五月蝿いな。俺はロリコンじゃない。

 

「すりすり」

 

 レンは本当の仔猫のようにじゃれて甘えてくる。というかなんでわざわざ擬音を口にする?

なんだか周りからかなり羨ましそうな視線を感じるんだが。特に目の前の二人からは怨念に近いぐらいの視線が。

 

「レン。いったい」

「今の私は猫だから」

 

 猫だからこういう事をしてもいいと思っているのか?

たぶん、普段からこういう風にしたかったのだろう。

だが、昨日のこととか衣装とか色々な要素が重なって抑圧された部分が開放されたのか。

 そう思い込みたいです。

 

 

「じゃあ、僕も僕も」

「私も……」

 

 アムリタは積極的にエリザは顔を赤らめながら近づいてくる。いやちょっと待ってさすがに三人にされたら色々とヤバイ。

 

「ダメ。これは仔猫の特権」

 

 思わぬところから抑制の声が。独占欲が強くなったのか?

 

「レンちゃん。そんな事言わないで、ねっ? たまにはいいでしょ」

「レンちゃん。酷いよ」

 

 レンの声で二人は簡単に踏みとどまった。それだけレンには甘いということか。

 

「ダメ」

 

 強い拒絶により二人は項垂れてしまった。二人には少し役目を押し付けすぎたかもしれないな。

 レンは人目をはばからず甘えてくる。なんとはなく試しに咽元を撫でてみたら嬉しそうに鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レン達と午前中に色々と周り、昼食は執事科とメイド科合作の喫茶店に立ち寄って昼食をとった。

俺が言ったことにより感動に近いものを感じたらしくかなり大変だった。なんでも俺は伝説の人物らしい。

授業を受けたのってほんの少し前のことなのにな。

 

 

 午後になってもそれなりに周った。

レンが午後になった行く所があると昨夜言っていたがどうやらそれにはもう少し後だったらしい。

 そして時計の針が三時を過ぎた頃、レンが行く所があると言って俺を引っ張っていった。

昨日は手を繋ぐだけだったのに何故か今日は腕を組まされていた。

 

 レンが行きたい所に行くことにエリザとアムリタは反対しなかった。

 

 レンが連れられて足を進めるたびに、嫌な予感が増えていく。

その方向には三時半から開催されるミスコン会場があるからだ。

 ミスコンとは言っているがミス・コンテストだけでなくミスター・コンテストも同時に進行されるらしい。

つまりミスとミスターフローリア学園を決める出し物だ。

 まさかレンが出るのか? 

しかし、そんな物に興味があるとは俺としては驚きだな。

 

 そうだよね? 何となく嫌な予感が強くなってるんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛍火さんはその席に座っていてください」

 

 エリザにそう言われ舞台裏に置いてあるイスに座った。嫌な予感がする。

 

「蛍火、お願い座って」

 

 レンが懇願の表情で頼み込んでくる。レンにそんな表情をされたら座るしかないだろう。

学園祭期間中はレンのお願いは無理でない限り叶えてあげたい。

 

 

 用心しながらイスに座る。もはや嫌な予感が脳内で警報を出しているのだが座った。

 逃げる準備だけはしておく。

 

 

 座り心地はまぁ、普通だった。――と思ったのも束の間、俺の手はイスに拘束されてしまった。

どうやらギミックが施されていたらしい。やはり的中。無駄に上手く出来てるな。

 

 そして、数人の男に運ばれ、舞台に安置された。もう、何が何だか。

 とりあえず事の成り行きも見守りますか。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、皆さんが待ちに待ったこの時間がやってきました。学園が誇る美男美女の大集合。この中で誰よりも輝くのは誰か!?

さて、いよいよ始まるフローリア学園ミス&ミスターコンテスト。

司会を務めますはお馴染みの放送科のアリス・オーランド。そして特別審査員&解説を勤めるのはこの四方。

まずはこの学園の最高責任者にして救世主候補のリリィ・シアフィールド氏の義母にして、

娘には意外と甘いミュリエル・シアフィールド学園長!」

「よろしく」

 

 学園長は少し、憮然としながら軽く挨拶をした。

 というかアリス。お前怖いもの知らずだな。

 

「続いては、学園の誰よりもクールでその実直な授業が人気のダウニー・リード先生!!」

「初めての事ですので至らない部分があるとは思いますが、よろしくお願いします」

 

 ダウニーはお決まりの文句を言って軽く頭を下げ挨拶した。

 

「そしてさらに学生に対する親身な大度とおちゃめが利いた性格が人気を呼ぶダリア先生!!」

「よろしくね〜ん」

 

 相変わらずダリアは能天気に答える。もう少し気の聞いたせりふを言ってほしい。

主に今の俺に。

 

「そして最後はこの人。この学園。いや、この世界においてはもはや知らない人が居ないほどの有名人。

この世界で二番目の男性救世主候補。新城蛍火!!」

 

 イスに縛られたままの俺が紹介される。挨拶する気も無い。というかイスに縛られている俺にどうやって挨拶をしろと?

今の俺は不貞腐れていて人の前で堂々と机に足を乗せている。

 

「あの蛍火さん。騙したことは悪いとは思ってますけど、今そんな態度をとらないで下さいよ」

 

「だってねぇ。私の知らない間に全部話が進んでいたんですから。責任者なのに何も知らないなんて。

それにどうして私がイスに縛られないといけないんですか?」

 

 少なくとも俺は束縛されて感じるような性癖は持っていない。というよりもむしろ相手を縛る側だ。

 誰かにしたとかは詳しくはいわない。やってしまったけど……

 

「そうでもしないと蛍火さんは逃げますから。

それにこれ、救世主クラスの出し物でもあるんですから蛍火さんが手伝うのは当たり前です」

「聞いてません。ついでに言うとこの企画書に救世主クラスが関与していることさえ知りません」

 

 俺のところに来たミスコンの企画書は完全に放送科だけのものである。救世主クラスのきの字すら本当に見つからなかった。

 もう一つの事は知っていたが……まさか隠しているのがこれだったとはorz

 

「言ったら来てくれないじゃないですか」

 

 まぁ、言われたら全力を持って逃走しただろうな。

レンが関わらなければ、確実に逃げ切れるだろう。

 

「それに救世主クラスの人に聞きましたけど救世主クラスの出し物は当日だったら手伝うって言ったらしいじゃないですか」

 

 あぁ、そういえばそんな約束をしたな。レンとの約束ばかりを優先してたからきっぱりと忘れてたよ。

でも言われなかったから仕方ないだろ。

 

「はいはい。分かりました。大人しくしていますよ」

 

 足を机から下ろし、懐から煙管を取り出し火をつけて一服。はぁ、最高。

 近くにレンがいないのでふて煙草です。

 

「って、どうやって抜け出したんですか!!

「普通に間接をはずしただけですよ」

 

 実際、こんな拘束ならすぐに抜け出せる。というよりも抜け出せなければ師匠の流派の皆伝を貰ったものとして失格だ。

 

「まぁ、そんな事よりもさっさと始めましょう。皆さん退屈してるようですから。」

 

 観客席を見ると結構暇そうにしているものがいる。責任者としてはそれはさせてはいけないだろう。

 アリスがため息をついて、諦めた様子を見せる。

 

「はぁ、色々と時間をとってしまいました。それでは女子のほうのエントリー一番、その白さがまるで妖精の様。

フローリア学園のマスコットキャラ。レヴェリー・クロイツフェ!!」

 

 アリスの紹介の声と共に観客席から色々な感情のこもった大きな声が上がる。

まぁ、共通しているのはレンを歓迎しているということぐらいか。

 それにしてもレンが参加しているとはな。まぁ、興味を持つことは良い事か。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、レンちゃんには結構な数の質問が来ています。普段学園にいませんからね。という訳でまずは普段は何をしていますか?」

「勉強。蛍火がしろって言ったからしてる」

 

 普段、レンが喫茶店にいる時は大抵宿題を出している。

さすがに算数と文字くらいは読めないと将来何になるとしても困るからな。

歴史は教える必要があるのかどうか真剣に悩んだ。

この世界に住む者達も正確なことはまったく知らないからな、間違っているのを教えていいものか。実際今でも悩んでます。

 

「なるほど、では何処でやってるんですか? 学園にいないんですよね」

「蛍火が働いてる喫茶店」

 

 まぁ、間違ってはいないんだがな。しかし、このままだと知られる可能性が出てくるな。

こればっかりは仕方ないか。隠しているとはいえ、何時かは知られると思っていたからな。

 場所さえ教えなければいいだろう。

 

「となるとキュリオかファミーユですか」

「違う。蛍火が造ったお店」

「やっぱり!!!蛍火さんが喫茶店を経営しているという噂は本当だったんですね!!

 

 一応、そういう情報は伏せていたんだがな。さすがは未来の報道関係に携わるものだな。

 流れる事が少ない口コミを拾っていたか。

 というかあそこ一応俺の諜報の拠点でも在るのに……

 

「っで、場所は何処ですか?」

 

 アリスは少々興奮気味にレンに詰め寄っている。ふむ、レンがかなり嫌そうな顔をしているな。終わらせようか。

 

「教えませんよ。来たければ自分の足で見つけてください」

「蛍火君。それは経営者としてはどうなのかしらん?

「道楽でやってるだけですからね。儲からなくてもいいんです。静かに時間をすごせる。それだけを求めたものですから」

 

 本当に道楽でやってるだけだしな。

まぁ、毎日毎日、キュリオとファミーユから注文が来るので赤字になったことはない。

 

 そもそも俺の収入は別だし。

 

「じゃあ、見つけたら報道していいですか!!?

「他のお客様がたぶん許さないですよ。あそこはその空間を楽しむものですからね」

 

 俺の言葉にアリスはしょぼんとしている。しかし、今はレンのアピールタイムのはずなのにいいのか?

 

「はぁ、次の質問に移ります。え〜とレンちゃんの将来の夢は何ですか?」

 

 これは何とも危険なことを聞くな。昨夜のことがあるから俺は知っているのだが。

 

「蛍火のお嫁さん」

 

 頬を赤らめ、恥ずかしそうにしながらもきっぱりといった。

会場中から殺気が飛び交う。俺に向けられていたり、アリスに向けられていたりなどなど。

 危険なことを聞いたりするからだ。

 

「あはははっ、これ以上は危険ですので次に移りたいと思います。

エントリー二番。突如救世主クラスの寮に現れた美人。エリザ・カルメルさんとアムリタ・フォルスティ!!」

 

 ふむ、二人続けて俺の関係者か。しかし、なんでこの二人はレンと違って二人一緒なんだろうか? そこだけは不思議だ。

何? 作者の都合? 久しぶりの電波の受信だな。

 

「よろしくね」

「よろしくお願いします」

「噂によると二人は蛍火さんの関係者のようですが、ずばり、蛍火さんとの関係はいったいどんなものなのですか?」

「家族ですよ」

「うん。家族だね」

 

 家族みたいなものだと言ったけど、本当は唯の保護関係にあるだけなんだが。

この二人は家族という言葉をことさら大切にしているよな。

 

「え!? という事はどちらかが蛍火さんの奥さん?」

 

 あの、アリスとか言う女の子は学ばないのだろうか? それとも天然なのか?

それは明らかに地雷だろう。火薬ではなく核を使用した。

 

「っち、違います!! そうなったらいいなとは思ってますけど

「うっ、うん。蛍火さんとはそういうのじゃないから。何時かはそうなるつもりだけど

 

 小さい声は他の者に聞こえなかったのか、レンの時ほど騒ぎにはならなかった。

 うん、ごめん。俺の耳には思いっきり聞こえました。というか唇の動きだけでも分かります。

 

 まだ、二人にはこの優しい関係を壊す勇気はやはりないか。

願望だけはあるがそこに踏み出せる覚悟がない。子供であるレンのほうが気にしない分有利なのかもしれない。

 

「そうですか。お二人も普段は学園にいませんよね。という事は蛍火さんの喫茶店で働いてるんですか?」

「えぇ、そうです。色々と教えてもらってますよ」

「この前は蛍火さんのオリジナルブレンドを教えてもらったんだよ」

「へぇ。羨ましいですね。仕事着はどんなのですか?」

「メイド服だね。ひらひらしてて可愛いんだよ」

 

 いう必要がなかったから言ってなかったがあそこの仕事着はメイド服なんだよな。

 ファミーユとキュリオの店長両方から進められたメイド服で。

 

 邪魔になるとしか思えないほどフリルがあるからな。

あの二人が好きできているのだから別に俺はかまわないのだが。

決して目の保養になるとかは考えてないぞ。ほんとだよ?

 

「ぜひとも見つけたいですね。さて、時間も押していることですから最後の質問にしましょう。お二人は好きな人はいますか?」

 

 うわっ、この娘馬鹿だ。

 ダウニーも呆れた目で見てるよ。というかダリアでさえも、

 

「います。けれどまだ、その人に告白する勇気はありません。

その人は一人で何でも出来てしまうとても優しくて暖かい人。

沢山の人に何かをくれるのにその人は誰からも貰おうとしない人なんです。

 だから、何時か。その人が疲れたときに心休める場所になりたいと思っています」

「僕もエリザさんと同じ人が好きなんだ。やっぱり、僕も告白する勇気はないんだ。まだ、この関係を壊したくない。

でも僕はその人を隣で支えてあげられるようになれたらその人に告白するよ」

 

二人は清々しく笑っていた。その笑みは今まで見たどんな笑顔よりも柔らかく暖かかった。

やれやれ。困ったな。

 

「う〜ん。盛大にのろけられた気がします。では、次に移ります」

 

 それから、数人各学科の綺麗どころが紹介された。

まぁ、かなりレヴェルが高い。しかし、悲しいかなな。救世主クラスの女子やメリッサ、エリザたちには及ばない。

 うん。はっきり言って自分の周りがありえない。あそこまで美人が何故集まっているのか不思議で仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お次は学生ではありませんが参加されたイリーナ・グラキアスさんです」

 

 へぇ、あの堅そうなイリーナが参加しているとはな。はっきり言ってレンよりも意外だ。

もしかして、イリーナは決心が付いたのだろうか?

 

「あの、どうして参加しようと思ったんですか?」

「うん。実はな。私は結構前から好きな人がいたんだ。しかし、告白が出来なかった。

これはそういう機会でもあるらしいから出てみようと思った」

 

 ほう、本当に決心が付いたのか。良い事だ。これでセルの決心が固まれば俺としてはないもいう事はない。

 昨日は欠片ぐらいの可能性として考えていたが、それでもセルが強くなれるのは喜ばしい限りだ。

 

「それで、その人は?」

「私の弟子でもある。すぅ……はぁ…………セルビウム・ボルトだ」

 

 深呼吸の後、名前を呼ばれたのはやはりセルだった。

 会場が静まり返る。セルはこの学園ではかなり有名だ。それが誰かとか聞きあう声はない。

 放送科のものによってセルがイリーナの前につれられてくる。放送が聞こえていたのだろう。セルは呆然としていた。

 二人が向き合う。セルは呆然としながら、イリーナは顔を赤らめながら。

 

「セル、お前のことが好きだ。初めは私にナンパしようとしたりするどうしようもない奴だと思っていた。

けれど、大河を相手に真剣に訓練している姿が私の目を惹いた。

勝てるはずのない相手なのに、追いつくのも無理な相手なのにお前は一度として引かなかった。

 そんなお前をいつの間にか目で追っていた。お前という存在に見惚れていた。

 私は、今まで剣一筋で生きてきた。だから、普通の恋人というものが分からない。

けれど、それでもいいというのなら告白を受け取ってもらいたい」

 

 とても真摯で相手のことを思っている言葉だった。その瞳は真剣でありながらもとても不安げに瞳が揺れていた。

 今もかなり無理をしているだろう。それでも進む勇気を出せた。

 対してセルはかなり動揺している。随分と前から自分のことを見ていてくれた。その事にやっと気付いた。

けれどセルの内にある未亜に対する憧れが邪魔をする。

 

「ごめん」

 

 セルは謝った。それは一体何に対する謝罪なのだろうか。セルの内面をのぞき見ている俺にもそれは分からない。

イリーナの思いに気付かなかったことに対することだろうか?

それとも未亜への憧れに対してだろうか?

それとも告白について? 最後だけはなんとなく考えられないんだがな。

 

「ごめん。今は答えられない。心の整理が付いてない。でも、イリーナに好きだって言って貰えたことは嬉しい」

 

 それはまだ、自分の心を理解できないセルの精一杯の返事だっただろう。

返事は保留だったがそれでも俺にとっては満足の出来る返事だった。

 時間を置けばセルも自分の気持ちを知ることができるだろうから。

 

「分かった。答えがまだ出ていないのなら私にもチャンスはあるからな。」

 

 イリーナもセルの答えをあまり気にしていないようだった。

これからに賭ける。明日という可能性を信じられるからこそ言える言葉か。

 

「セル、これからは覚悟して置けよ。」

 

 イリーナは艶やかに笑って、会場から出て行った。後姿は清々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え〜と。まぁ、取りあえず先に進みましょう。さて、お次は調理科のアイドル、メリッサ・トンプソン!!」

「よろしく!

「メリッサ!! がんばれ!!」

 

 恐らく同じ調理科の女の子だろう。その声援を受けてメリッサはおうと元気にかえした。

はぁ、ついにきてしまったか。

 

「さて、さっそくですけど。メリッサさんはどうやって救世主クラスの人と仲良くなったんですか?

他の人と違ってあんまり接点が内容に思うんですけど」

「うん、そうだね。私も最初の頃はあんまり親しくなかったし。

仲良くなったのは随分前の買い物でかなぁ。その時に偶然、出会って。それで夕飯を一緒に食べて。それで居心地よくて」

「それだけですか?」

「ううん。違うよ。そこに好きな人がいたから」

 

 メリッサが軽い調子で好きな人がいたといった。そのお陰で会場は沸き立つ。

イリーナに続いてまた告白か!?と騒いでいる。

 

「もしかして、告白ですか?」

「うん。今日、この場を借りて告白するつもり」

 

 会場が静まる。メリッサの答えを待つようにシンとなる。

 

「私が好きな人は、蛍火君」

 

 まだ、静寂は続く。だが、視線だけは俺の方に集まってくる。本当にやれやれだ。

 俺は司会のアリスにせかされてメリッサの前につれられた。

 

「好きです。初めて出会ったときから、ずっと好きでした。私と付き合ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お断りします」

 

 

 

 


後書き

 またまた大河の活躍が無い話。必要なイベントとはいえ、そういうのは早く終わって欲しいです。

 という訳で、今回はイリーナの告白。

 彼女の長い間、胸に潜めていた想いも機会を得て爆発。

 セルにも遅い春が来たわけなのですが……それでもセルの中には未亜がいます。

 といってもすでに憧れに近くなっている感じもありますが。

 

 そして、最も重要なのが……メリッサの告白ですね。

 詳しい事は次回で、

 先週休んだのに焦らすなんてちょっと酷いかな?

 

 

 

 

観護(フラグブレイク!?)

 あぁ〜その辺の詳しいのは来週だから触れるな。

観護(気になるでしょ!)

 それでも触れません。まぁ、頑張ったのはイリーナだな。

観護(……そうね。確かにがんばったわね。あんな大勢の前で。というか何気にシグナム?)

 かもしれない。でもこの部分書いたときはまだなのは見てなかったからな。

観護(キャラが被るとあんまりいい事が無いわよ?)

 分かってます。でももう変えられない。髪の毛の色が違う事で納得してもらおう。

観護(エリザとアムリタも頑張ったわね)

 まぁな。固有名詞は出てこなかったが、それでも聞いている人の大半は分かっただろうな。

観護(それでも蛍火君は動かないと)

 まぁ、それもある意味仕方ないのだが……その理由も次週。

観護(蛍火君に関する事は全部次週じゃない! というか今回かなりすっとばしてない?)

 これ以上長くしても仕方ないだろうが。唯でさえ迷惑駆けてるのに……それに原作キャラが目だって無いし。

観護(アンタの力量の無さよ)

 というよりも学園祭がレンの為に開かれているから、大河達と会えないだけなんだがな?

観護(がんばりなさい)

 うい では次話の予告

観護(この話の続きです。メリッサに出した答えの真意はっ!)

 では次話でお会いいたしましょう。





おおう! 今回の話は学園祭でドタバタかと思ったけれど。
美姫 「最後の最後でとんでもない事態が」
まあ、結果は予想通りだけれど、きっぱりあっさりと。
美姫 「その真意とかは次回みたいよ」
うがぁぁ、待ち遠しい!
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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