大河たちは明らかに毒を受けていた。

はぁ、カエデとの戦いが終わったときに毒には気をつけろって言っておいたのに。

まぁ、空気中に血液と共に散布された毒を吸収しないようにするのは無理か。

あぁ、俺? まず毒が効かないから。

 

 

 

 

 

 

 

第四十一話 助けるという意味

 

 

 

 

 

 

 

大河が己の中で出した答えにカエデも辿りついたのか、その口から苦しげな声が漏れる。

 

「毒、でござるな、どうやら……拙者も食らったでござる、師匠……」

 

全員似たような状態の中、未亜がベリオへと何とか声を掛ける。

 

「ベ、ベリオさん、解毒を………」

 

その言葉に全員の視線がベリオへと向かう。ベリオは頷くが、その顔色は他の誰よりも青ざめていた。

呼吸も荒く、この中で一番毒がまわっているのがベリオである事を知らせている。

 

「まったく、解毒薬は常備しておきなさいとあれほど言ったでしょう? とりあえず、これを」

 

 俺は人数分の薬をコートから取り出し、全員に服用させる。少ししたら、治るだろう。

それまでもう一体の亀が待ってくれたらな。

 

「なぁ、蛍火。この薬、コートの中から出したよな」

「えぇ」

 

 何を当然のことを聞く?

 

「さっきの血糊もコートから出したよな?」

「えぇ」

 

 見てただろ? 当然だ。

 

「お前のコートの中に入ったどれだけの物が入ってるんだ?」

「えー、取りあえず戦闘に必要なものは一通り」

 

 薬関係はもちろん。火薬、ライター。後、コルトパイソン357と銃弾が六十発とそのほかの武器かな。

コルトパイソンはシェザルに貰った。銃器の関係で話が盛り上がっていて、その時持っていないといったらくれた。気前のいい奴だ。

そういや銃弾ってイムに補充させてるんだろうか?

 

「いや、やっぱなんでもない」

 

 なんだ。その聞きたいが恐ろしくて聞けないといった雰囲気は。まぁ、聞かれても困るからいいか。

 

ドゴンッ!!

 

 建物のほうから景気のいい音が聞こえた。

お目覚めか。遅いな。

 

「キサマラ!!」

 

腕の付け根から緑色の体液を流し続けている。あれはトレイターの痕か。

そして、その反対側の腕には全裸のまま吊り上げられている。女性が二人。なんとも分かりやすい構図だな。

 

「お兄ちゃん。見ちゃ駄目!!」

 

 まだ、毒も抜けきらない身体で未亜は大河に近づき目をふさぐ。

 人質にとられた彼女たちは動く気配が無い。あれは死んでいるでもなく、気絶しているでもない。

その眼は虚ろに虚空を見て、身体は弛緩し、力なくぶら下がっている。ところどころに白い跡や痣がある。確実に輪姦されたか。

 

 もはや、彼女たちは生きていない。あれは死んでいないだけ。

あれをもはや人とは呼べない。なぜなら人とは自らの意思を持って行動し、自らを支えることが出来るものだ。

あれはもはや生きることを放棄した。なら、あれは人ではない。

 

「ガハハハッ、人質ヲ盾ニサレテハ、手モ足モ出マイ。一人一人嬲殺シテヤロウ」

 

 そんな事しなければ俺が出ることも無かっただろうに、愚か者だな。

 俺は魔力弓を取り出し、矢を番える。

そして、放つ。矢は亀に当たるがその硬い甲羅にはじき返される。やはり、通常の矢ではダメか。

 

「キサマ!! コノ人質ガ見エナイノカ!!」

 

 亀が俺に向け怒声を放ってくる。救世主クラスの者もダリアも監視している者からも信じられないものを見たような目で見られる。

 

「あぁ、見える。邪魔なものがな。それが邪魔だというのなら、それごと貫けばいいだけだ」

 

 そして、俺はまた、矢を番え盾となっていた彼女たちを射抜く。矢が突き刺さったことにより身体が震えるが、ただそれだけ。

その後は虚ろに開いていた眼さえも閉じた。

 

「キッ、キサマ!!!何ヲシタカ分カッテイルノカ!!」

「先程も言ったはずだ。邪魔ならば貫けばいいと」

 

 そして亀は人質を手放した。人質を邪魔と言い切る俺相手には手が塞がり本当に邪魔にしかならない。

 そして、また矢を番える。狙うは大河が抉った傷跡。

 

全ての始まりたる火よ。力を象徴せし火よ。わが敵を貫け。火矢!!

 

 一本の矢が狙いを違えることなく突き刺さった。だが、それは所詮初級魔法。そして相手は水の属性を持つもの。

本来なら飲まれるはずだが今は唯の楔。そのことだけに力を注いだ矢だ、消えるわけが無い。

 

「コンナモノキカンワ!!」

 

 矢が当たったことによる僅かな痛みで気を取り戻したのか、俺に向け突進してきた。愚かな。

 俺はそこら辺にある草を数本千切り、矢の核とする。

 

全ての生命の支えたる木よ。この身潤したる木よ。わが敵を貫きたる火矢を燃え上がらせよ!木矢!!

 

 木の矢が寸分たがわず火の矢に当たる。そして炎は力を得、燃え上がる。水の属性を持つ亀すらも巻き込んで。

火侮水、勢いのある火は水の克制を受け付けず、逆に水が消える。その力を応用した魔術。

 

「■■■■■■■■!!!………」

 

 身を焦がす痛みによって悲鳴が聞こえたがすぐに収まった。火の燃焼による酸素の欠乏。

そこで終わらせる気は無い。完膚なきまでに殺す。

 

禁伎・灰月・水奪閃!!

 

 土属性の最高伎。五行の土は水を吸い込み水に剋。刀身の周りにある水分を全て奪いつくす伎。

俺の血液も少々奪われる。それだけだから禁伎の中でも代償が一番少ないからいい。ただ使いどころが難しいところを除けばな。

 

亀は唯でさえ、火に侮るほど弱まっていた。耐え切れるはずも無い。

亀は最後に声を上げることも出来ずに干物となり崩れ落ちていった。

 

 

 それにしてもやはりこの魔術は俺に相性が言い。少ない魔力で最大限の威力を引き出せる。

俺自身は世界から力を吸い上げなければそこらにいる魔術師レベルの魔力しかないからな。

 

 もはや、亀が起き上がることは無い。この世を統括する五行の力によって水を奪われたのだ。理を覆すことは出来ない。

 これで任務は終わりか。あっけないな。もう少し面白みを持たせてくれよ。ロベリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大河が俺に近づいてくる気配がする。まだ、毒は残っているだろうに。無茶をする。まぁ、それが大河らしいと言えば大河らしいが。

 俺は大河のほうを向き、ただ待つ。

 

「蛍火!!」

 

 大河が拳を俺の顔目掛けて振り下ろす。

鈍い音がした。俺よりも大河の拳のほうが痛いだろう。

そのはずなのに大河の顔に浮かぶのは痛みにこらえる顔ではなく、怒りと、ふがいなさを混ぜた表情だった。

 

「何で、何で……」

 

 最後の一言が出てこない。それは一線を越えることだからな。

俺を人殺しと認める最後の言葉。

もっとも、俺は人殺しではなく殲滅者と呼ばれるほど殺しているからそう呼ばれようと何の感慨も受けないが。

 

「何故、殺したと?」

 

 もう一度大河が俺を殴りつける。二度も唯で殴られる趣味は無いので額で受ける。大河の拳から血が滲む。

 

「人質だったんだぞ!! 助けを求めてたんだぞ!! なのに何で!!」

 

 彼女たちが助けを求めようと一度でも声を張り上げたのか? 抜け出そうともがいていたか?

違うだろう。彼女たちは終わりを求めていただろう。なら、俺はそれを与えてやっただけだというのに、

 

「何か言ったらどうなんだ!!」

 

 ここで、何かとか言ってぼけるのは簡単だが後がつまらん。正直に話すとするかね。

 

「あれを助けるために出る損害と無傷で帰りこれから助けられる数をはかりにかけた結果後者を俺は取っただけだ」

「ふぜけんな!!人一人と大勢の人を助けるのに天秤に何かかけんな!! 全員助けるのがお前と俺の目標だろうが!!」

 

 それはお前だけだ。俺はただ、契約を履行することのみが目的だ。

 

「お前たちは救世主候補。人々の明日のために戦う。なら、そのために犠牲はやむをえない。

それにお前も承知していただろう? 村長を殺す覚悟をしていたんだ。俺と同じだ。」

「違う。それは俺たちを護るために!!」

「変わらない。どんなに言葉を募ろうと殺そうとしたことには変わらない。

俺はそれを実行に移し、お前は実行に移さずに済んだ。それだけしか違わない」

「違う!!お前は人質を………人質を………殺したんだ。助けを求める人を……」

 

 やっと、俺を人殺しと認めたか。相変わらず、追い詰めなければ決心できない臆病者め。

 

「あぁ、そうだ。だが、その天秤にかけるのも救世主、いや、英雄の役目。

百を助けるために一を殺し、千を助けるために十を殺し、万を助けるために百を殺す。それが俺たちの役目。

全てを助けることを理想としながら全てを助けることが叶わない。それが俺たちだ」

「違う!!俺たちは全部の人を助けるために!!」

「なら、何故立ち上がれなかった? 何故、俺を止めなかった? 今は立ち上がれたのだろう? なら、何故止めようとしなかった?

お前も同じだ。………見殺しにしたのだ。彼女たちを」

「違う。俺は………」

 

 大河は何も言うことも出来ずに膝を折った。

脆すぎるな。これでよく原作で人を殺せたな。あの時は未亜のためだったな。

こいつは誰かのためという免罪符が無ければ殺せないのかもしれない。

 

「蛍火さん!! 確かに貴女のいう事は正しいのかもしれません。ですが、何も命を奪う必要はなかったでしょう!?

彼女たちだって、生きていれば……」

 

 大河が静まったことによりベリオが俺を攻め立てた。だが、所詮それも俺からすれば子供の癇癪に過ぎない。

 

「生きていれば? その後は? 幸せになれるとでも言うつもりか?」

「そうです。人は誰しも生きていれば幸せになれます」

 

 なんという甘いことを。幸せとは勝ち取るものだ。奪い取るものだ。待っているだけでは幸せなぞ手に入らない。

それに分かっているのか? 彼女たちがこのまま王都にいくということがどれほど辛いことになるのか。

 

「では、彼女たちを助けた後あなたはどうするつもりだったんだ?」

「え?……それは王国に任せるしか……」

「なら、死んだな。遅かれ早かれそれは死ぬ」

 

 俺の宣言でベリオの言葉が詰まる。意味が分からないのか?

なんという浅慮。ベリオはいや、こいつらは助けるということの重さを何も理解していない。

 

「また来るかもしれない破滅に怯え。周りからは助かるために身体を売った。家族を売ったと囁かれ、家に引きこもり生きる。

そしてその生活に耐え切れずに死ぬ。お前が言った通りにしたならばこの未来は確定される」

「そんなはずは!!」

 

 そんなはずは?

そんはずがあるのだ。人は誰よりも優しい。だが人間は何よりも残酷だ。

だからこそ、受ける者の痛みを理解できずに人は興味本位にその話をする。その結果を予測できながらも。

 

「世間は、世界はお前たちが思うほど優しくはない。それに、あれは死ぬことを望んでいた。

生きることに疲れ、明日に希望すら持てず、親しきものを奪われ、絶望の真ん中にいる。終わらせて欲しかったのだ。

だから、俺はその望みをかなえた。俺もその方が損害が少なかったからな。双方の意見の一致の元だ」

「ですが、助けてあげてその後をしっかりケアすれば」

「その間、お前が面倒を見るのか? 衣食住をそろえ、傷つけられれば癒し、言葉を投げ駆られればかばう。

そんな事が出来るのか? 助けるという事は、その者が再び立ち上がるまで背負うということだ。

そして、人の命を預かるということだ。それを満足に出来るのか?」

 

 その重さにベリオは黙ってしまった。

出来ない。その度に助けに出るなど。人一人の命を背負うにしては彼らは幼すぎるのだ。だからこそ、理想論しか言えない。

 

 

 

 

 

「もういいでござる。兄君」

 

 カエデが俺を止めるようにまるでこれ以上自分を傷つけるのをとめるように声をかけてきた。やはり、気付いたか。

 

「そんなに悪者ぶらなくてもいいでござる、兄君。彼女たちは生きているでござるから」

 

 カエデのその言葉に顔を俯かせていた大河もベリオも他の者も彼女達の元へ駆けて行った。

 彼女たちは先程よりも血色のいい顔をしている。順調なようだ。

 

「息は、してる。傷跡も無い!? どうして」

「彼女たちに打ち込んだのは治癒魔法を込めた魔力の矢だ。ついでに気絶するような術式も打ち込んでいたがな」

 

 いやぁ、あれ使ったことが無いから賭けだったんだよな。今まで必要とせずに使わなかったからな。

知識としてはあったんだけどね。これは黙っておこう。

 

「どうして」

 

 誰の声かは分からないが呟きが聞こえた。

 

「彼女達の救出作戦だったんだ。助けるのは当たり前だ。仕事はせんとな。

それに俺は彼女たちを助けたことによって起きる弊害も理解し、人を助けたという罪を背負って生きる事も決めていた。それだけだ」

「罪?」

 

 未亜が助けるという罪を理解できずに聞いてくる。それは分からなくても当たり前か。

 

「人を助けるというのはその人の命を握るということ。その人の死ぬ権利を奪うこと。それは明らかに罪だ」

 

 理解は出来ていないようだ。だが、それでいい。汚れた考え方などいらないからな。

 

「何故、あんな事を?」

 

 リコが俺を鋭く睨む。イムに似てるな。

ここであんな事ってどんな事?っていったらテトラグラビトンが発動しそうだ。そこら辺容赦ないからな。

 

「救出作戦とはいかに重いものか、助けるとはどれほど重いか。そして、救出できなかった場合。

ああしなければいけない事を教えたかっただけです」

 

 口調を第一の仮面に戻す。もう、第四で話す必要はないからな。

 

「私たちと仲違いするかもしれないのにですか?」

「えぇ、あなた達が傷つくことに比べれば、幾分もマシですよ」

 

 そういうと、リコや他に聞いていたのも顔を赤くしてしまった。

 

「あいつは天然なのか?天然なのか!?」

 

 大河がなにやらおかしな事を行っているが放置だ。それにそろそろ目が覚めるころだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目は覚めた。だが、眼は未だ虚ろなままだ。当たり前だ。それだけの事を受けてきたのだから。

彼女たちを日常に復帰させ、一人で歩けるまで、幸せを見つけるように出来るようにする。

それが俺の贖罪。大罪を犯した俺の贖罪の仕方。

 

 本来、人を助けるという行為はまったくの善意か、利益があると思い行うかどちらかしかない。

俺は今回助けたのは利益のため。ここで王宮を黙らせるのと、民衆の支持をさらに受けるためという打算から。

利用するからこそ、俺は贖罪せねばならない。

 彼女たちに俺の予備の上着を着せ彼女たちを包み込む。悪寒に襲われるがそれでもそれをしなければならない。

一部から殺気が出た気がするが気のせいだ。

 彼女たちが今求めているのは安心と人の温かさ。それを与えるにはこうするのが一番だからな。

 ゆっくりと頭を撫でる。不安を溶かすにはこれが一番だ。恐らく。

 

「辛かったでしょう。痛かったでしょう。苦しかったでしょう。悲しかったでしょう。

ですが、大丈夫です。もう、脅威は去りました。もう、明日に怯えなくてもいい。助けが来ないと絶望しなくてもいい。

もう、安心してもいいのです。だから、泣いていいのですよ? 声を上げて。それを責めるものはいません。

もしいたとしても私が何とかします。だから、今は全てを忘れて助かったことを喜びなさい。その胸にたまったものを出しなさい」

 

 ゆっくりと語りかける。彼女たちはその度に眼に生気を取り戻す。恐怖に駆られることもあるがそれでも俺は根気よく話しかける。

 

「涙を見せたくないというのならこうしていますから」

 

 俺は彼女達の頭を抱え込み、顔を見えないようにする。そして、ついに彼女たちは声を上げた。

 

「うわぁあああああ」

「うっ、うぇえええええ」

 

 それは生まれてきたことを嬉しがる赤子の声のようなただ、純粋な泣き声。

だが、それだけではないだろう。様々な感情を織り交ぜ、それでも今は苦しみから解放されたことの安堵により涙を流す。

 

「大丈夫です。これからも、私が背負います。あなた達が再び歩けるようになるまで。

それまでは世界全てがあなたたちを非難しようと私が味方でいます。だから、安心してください」

 

 後ろのほうで何故か顔を赤くしているものが二名。恐らくそれが自分に言われた場合を想像してしまったのだろう。

まだ、任務は終わってないのに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り泣いて、泣き疲れてしまったのだろう。でもその顔は晴れやかだ。

ふむ、困ったな。彼女たちにはここから出て王都にいってもらわなければならない。

必要最低限の物や大切な物を選んでもらおうと思っていたのだが。

まぁ、このまま寝かせておこう。幸い彼女たちが誰だかは分かっているから適当に持っていけばいい。

 

「さて、救出作戦終了。ではこれより帰還してください。ダリア先生。彼女たちをよろしくお願いします」

「了解♪任せておいて」

「って、おい!!あそこまで言っておいて放っておくのかよ」

 

 大河からのツッコミが入る。だけどな、こっちにも仕事があるんだよ。

 

「これから、また一仕事するんです。一緒には戻れません。幸い、彼女たちは泣きつかれて恐らく明日まで起きません。

なら仕事は終わらせないと。それにあなたたちも疲れているでしょう? 気にしないで下さい」

「私たちも手伝うわよ。ほとんどあんただけで解決しちゃったんだから。手伝うくらいは出来るわ」

「そうです。水臭いですよ」

「うん。それにこの人達も蛍火さんと一緒に帰ったほうが安心すると思うし」

 

 他の面々も頷いている。何故か未亜の発言が怖かった気がするが気にしないでおこう。それにしてもな、手伝えないぞ。たぶん。

 

「それで、何するのよ」

「マグロ拾いです」

 

 大河と未亜以外が頭にはてなを浮かべる。局地ネタ過ぎたか。

 

「マグロは魚ですよね? 今晩の食材でも取る気なのですか?」

 

 微妙にマグロというものを知っているリコが聞いてきたがそれは違う。

大河と未亜はそれが食卓に上る事を想像してしまったのだろう。随分と青い顔をしている。

 

「リッ、リコ。マグロってのはな。あー、一言で言ってしまえばな。死体だ」

 

 大河の言葉で自分がどれだけ勘違いしているか理解しかなり慌てている。幻影石、幻影石っと。

 

「これから、死体の分かれた部分を合わせてその後、火葬。そして埋葬としなければいけません。

さすがになれてないとできないでしょうから」

 

 初めて救出任務をさせられて時はしなかったら後で学園長にこっぴどく怒られた。

なんでも残念が残り、ゴーストが発生してしまうらしい。それ以来、埋葬まできちんとするようにしている。

 意図的に残して大河たちの相手をさせてもいいのだが、俺の顔を知っているのが残っているのは不都合だから出来ないんだよな。

 

「という訳で、さっさと戻って休んでください。あぁ、当真。彼女たちを襲わないように」

 

 一応注意しておく。未亜たちがとめるだろうがなんとなく。

 

「気絶してる奴になんかするか!!」

 

 大河は否定するが他のものが信用していない。特にベリオ。襲われてるもんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員が撤収作業をしているとき、リコが一人俺の元にやってきた。

 

「蛍火さん。一つだけ聞きたいことがあります」

 

 はて、なんだろね。まったく想像が付かん。

 

「貴方は人間ですか?」

 

 リコが真剣な顔でうかがうように聞いてきた。その睨むような視線にはいつも向けられているものとは違う疑念に満ちていた。

はっ? 俺が人かって? よりにもよってリコが?

 

「ははははっはは」

「なっ、何を笑うんですか!!」

 

 リコが真っ赤になって俺を怒る。

だってよ。リコがだぜ。あの精霊であるリコが俺に対して人であるかどうかを聞いてきたんだぜ? おかしいだろう。

 つまり俺は人外から人外だと言われたようなものだ。

 

「ひー、ひー、ふふふっ、リコ・リスさん。その問いは無意味です」

「え?」

「人であるのに人でないものもいる。人で無いのに誰よりも人らしいものもいる。

何を持って人とするのか。何を持って人で無いとするのか。

その定義すら曖昧なのに。私に人であるかどうかを聞くのは本当に無意味です」

 

 そう、目の前と、俺の腰に人で無いのに誰よりも人らしいものがいる。特にリコ。

彼女は人と同じ外見をしている。そして、人と同じ心を持っている。なら、人ではないのか?

 思い込めばそれは人であるし、そうでないと思い込めばそれは人ではないと俺は思う。なら俺は自分のことをどう思っているかって?

決まっている。人ではない何かだ。

 

「ちゃんと答えてください」

 

 おや、この答えではお気に召さなかったようだ。リコを擁護したつもりだったんだがな。

 

「この身は紛れもなく人です。最も、それでもまだ疑うんでしょうけどね」

 

 そう、俺の身体は紛れもなく、人だ。その内にあるものが人だとは限らないが。

それにもしかしたらこの身体も人ではないのかもしれない。

あの痣は常に濃くなっていく。まるで俺を蝕んでいるかのように。だから俺自身、俺が人であると断言できない。

予測が正しければこの身は人である事が許されなくなるからな。

 

「私には貴方が分からない」

「それは当然ですね。そういえば私の世界でこんな歌詞がありました。

時を重ねると一つずつ相手を知り、さらに時を重ねると一つずつ分からなくなる。人と人は永久(とこしえ)に分かりえないものです。

強固な絆があろうと、好きな相手であろうとね。早く戻る準備をしてください。学園長が心配していると思いますから」

 

 リコに背を向け、俺は屍の中に身を投じる。さて、一仕事だ。

 

 

 

 


後書き

 蛍火は人質達を助けようとしたと同時に殺そうとしました。

 蛍火が魔力矢に回復魔術をしこみ撃ちましたが失敗する可能性もあったのです。

 ですがそれでも蛍火は撃った。何故なら殺しても良かったから。

 蛍火は救世主候補達とは確実に考え方が違います。それを彼らが理解するのは何時でしょうか?

 

 

 

観護(蛍火君、邪道)

 始まって速攻でそういうかよ。まぁ、そうだろうね。助けに来たのにその人を殺そうとするんだから。

 でも、自分の身一番に考えるのなら蛍火の行動は正しい。敵を殺す事を優先するのなら正しい。

 理想論だけでは何も出来ないから。

観護(今までも同じような事が会って、その時は殺してたの?)

 うん、蛍火はあくまでも契約最優先。だから、他の命は欠片も大切だと思っていない。

観護(酷い。………でも、蛍火君、彼女たちには優しいわね)

 打算があるけどね。それでも蛍火は世界に絶望する意味を知っているから放っておけなかったんだ。

観護(それって)

 語れないね。残念ながら。

観護(ねぇ、あの亀。随分とあっさり蛍火君が倒しちゃったけど大丈夫?)

 パワーバランスか? それに関しては大丈夫。大河たちはあの時、初めて防御が高い敵と戦ったからね。

 戦い方が分からなかった。

 それに対して蛍火は分かりきってるから。それに禁伎使えば大抵の敵は一発だからね。特に動きの鈍い敵は蛍火にとって格好の的。

観護(なるほど、ところで??ちゃんがまったく声を出してないんだけど)

 あぁ、彼女にも色々あるから。

さて、次回予告

運命に導かれるままに漸く出逢う闇と月。彼らに求められる意味は未だ語られない。されどその出逢いはきっと………

観護(どういう意味?)

 内緒♪





そっか、毒か。
美姫 「そう言えば、毒なんてものもあったわね」
ああ。にしても、思い切りのいい事を。人質を撃つなんてな。
美姫 「まあ、結果としては助けた形になったみたいね」
だな。さてさて、次回は何やら意味深なのかな。
美姫 「どんなお話になるのかしら」
気になる次回へと。
美姫 「レッツゴ〜」



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