お日様は中天よりも東よりのこの時間。もう少しでおなかがすく時間だというのに、

なーんで俺はこんなところにいるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十七話 王宮での醜争

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「静粛に!」

 

広めの会議室という感じのする部屋の中で、1人の男の大声が響き渡る。

その声に従うかのように、部屋の中央辺りにある大きなテーブルに並べられていた椅子に座る者達は一旦は口を閉ざした。

ゆっくりと辺りを見渡して確認した後、この会議を進行しているであろう大声を上げた議長と思われる男が口を開く。

 

「本日、賢人議会議員の皆さまに集まって頂いた理由は簡単です。先日来続く学園の変事と、王国各地で相次ぐ事件に対応するためです」

 

 そう、俺は何故か王宮で開かれている賢人会議に出席させられている。何故そうなったのかは簡単。

学園長に拉致られたのだ。聞くとクレアの要望らしい。

 悲しいかな。国を滅ぼす力は持っているが、国に逆らう権力は持ち合わせていない。

上に立つものは何時だって下の者の都合など考えないのだ。

 

議長と思われる男が聞いた途端、議員の一人であろう男がいきなり喋り出す。

 

「変事、変事と申しますが。その実体は単なる学生の過失による事故や、天災による一時的な治安の混乱なのではないのですか?」

 

言葉使いこそ丁寧。しかし、何処か棘のある言い方で、末席に座るフローリア学園の学園長へと顔を向ける。

ついでに俺にも、ふざけんな。

 

それを受け、その男の対面に座していた男も話し出す。

 

「コッポルくんの言う通りだ。だいたい、本当にあるかどうかも分からん破滅などの為に、毎年毎年、莫大な予算をつぎ込んで。

救世主とやらを育てる必要があるのか疑問ですな。その分、他に回す方が民の為になるのでは」

 

そう言った議員、ベイスの台詞に賛同するようにコッポルが続く。

 

「その通りですよ。しかも、その救世主とやらに認められた人間も、学園創設以来、一人もいないと来ていますしね」

「まったく、学園は金食い虫、王家の道楽以外の何ものでもないですな」

「ええ、ええ、全くです。辺境で起きている事件の事よりも、学園の廃止を検討する方が、よっぽど国益にあうというものですよ」

 

コッポルとベイスの二人は、他の誰も発言をしない事を良い事に、好き放題言い始める。

他の議員もこの二人と同じ意見なのか、それとも中立を守っているのか、ただ無言のまま二人の会話のみが進む。

物理的に永遠に黙らせたいな。

そんな中、学園長が手を上げ、議長へと尋ねる。

 

「議長、私はオブサーバーですが、発言の許可を頂けますでしょうか?」

「……発言を許可します」

 

議長の許可を受け、学園長は議員たちへと話し掛ける。

 

「先日の召喚の塔の爆破については、明らかに何者かの作為的な意図が感じられます」

 

毅然と言い放つ学園長に対し、面白くなさそうな顔を隠しもせずにベイスが問い掛ける。

 

「何者かとは、何者だね? 自分の管理責任を免れるために、適当な事件をでっち上げているのではないのかね?」

「学園は王国屈指の人材の集まる場所として、日頃より王国衛士により厳しく監視されています。

これは学生たちと言えども例外ではありません。重要な施設は教師の許可無く使用はできません。

ましてや、許可を得て使用中の施設で何か起きたか分からないというような事態は普通ありません。

つまり、その警備の目を掻い潜りました。しかも、召喚の塔という学園で最も重要な施設の一つを破壊する事や、

闘技場のいるモンスターに細工をするには相当の準備と計画が必要不可欠です。

私は学園で起こった今回の一連の事件の背後に、破滅の民の暗躍があると確信してます」

 

そう言い切った学園長の言葉、特に破滅の民という単語に議員たちの間からどよめきが起こる。

それは瞬く間に広がる。それを押さえるようにして、議長がミュリエルへと問い掛ける。

 

「ミュリエル・シアフィールド。此度の件に破滅の民が関与しているという確証はありますか?」

「……残念ながら、それは」

 

議長の言葉に、学園長は言葉に詰まる。当たり前だ。何しろ、物的証拠など何一つとしてないのだから。

と、まるでそれを助けるかのように、会議の席の上座にあたる所に居た人物が声を上げる。

 

「議長、その件に関しては、私の報告書を聞いてから判断して頂いた方がよかろう」

「殿下?」

 

そちらへと振り向きつつ、議長は自身が殿下と呼んだ者と目を合わせる。

殿下と呼ばれた者は、あまりにも幼かった。少なくとも、殿下と呼ぶよりは、王女などと言った方がまだ説得力がある。

とゆーかクレアだった。

クレアは隣りに立つ男へと短く言葉を掛ける。

 

「頼む」

「はっ。まず、ホルム州で疫病の発生状況ですが、三年連続で発生した疫病の患者数は推定12万人に及びます。

それと、無人化した村の数は12村です。

次にオーター州では原因不明の作物の枯死により、離散した家族が1万3千。他州へと売られた娘の数は推定で3万人。

全国でも、山賊、盗賊といった連中が起こす凶悪事件の発生増加率は異常です。

ここ5年連続で150%を越えているというのが現状です」

 

クレアの部下である男の言葉に、議員たちが言葉を無くす中、ベイスは何とか声を出す。

 

「そ、それは、単に天候不順による影響が積み重なっただけで……」

「まだある!」

 

ベイスの言葉を王女は大きな声で遮り、それによってベイスが驚いたように短く引き攣った声を出すのを無視して続ける。

 

「続けよ」

 

王女の言葉を受け、先程の男が再び手元の書類へと目を落としながら、更に言葉を続ける。

 

「長年飼っていた犬が突如凶暴化し、飼い主一家を噛み殺すといった事件が、別々の州で6件。

プレトレット州では、収穫祭の余興の一部として街に入った動物使いの一座の者達が突如、暴徒と化す事件が発生。

動物を輸送していたはずの荷車の中から現われたモンスターに、住民の約1/3、1000人近くが虐殺されました。

コーギュラント州では、辺境の村にモンスターの繁殖のために母体となる娘たちを差し出せという脅迫状が届き、これを無視した村へと、モンスターの大群が襲い掛かかり、若い娘たちをことごとく攫っていく事件も発生しています」

 

だが、これはあくまでも報告に上がってきたもののみだ。

実はそれ以外にも幾つかあるが学園長の依頼で何もなかったことにしているから本来はそれ以上だろう。

ついでに先程の報告の内コーギュラント州での事件は俺が関与している。

まぁ、一応破滅になるのか?

 

ようやく男が口を閉ざすと、王女は議員たちを見渡す。

 

「どうだ? どれもこれも破滅の再来と、モンスターたちを背後で操る破滅の民の暗躍が感じ取れるきな臭い事件だと思わぬか?」

 

この王女の言葉に、議員たちは顔色も悪く、皆がただ頷く中、議長が何とか声を出す。

 クレアが意気揚々と言っているが、何も知らない俺だったならば確実に天変地異で片付けてるぞ。

 

「しかし、王女殿下。それが事実だとするのならば、こんな所で呑気に茶飲み会議などをしている場合ではありませんぞ。

至急、軍を派遣して破滅の民と配下のモンスターどもの根城を断ちませんと」

 

あくまでも議長は救世主候補は使いたくないか。

ぶっちゃけ議長が学園を潰そうとしている親玉なのだ。だが、殺すことは出来ない。そうすれば王国が崩れるからだ。

だから、その側近からじわじわと殺している。

それでも意見を曲げないからこそある意味で俺は気に入っているのだが。

 

コッポルも殺しても良かったんだが、あいつらも結構重役についている。

まぁ、学園長の国を大切にする気持ちはよく理解できるよ。俺には感じられないが。

議長の言葉に頷きつつも、王女は難しい顔をする。

 

「全くもってその通りではある。あるのだが。

現状では、敵の数が多すぎる事に加え、事件の発生している場所も多岐に渡る為、軍を差し向けることもままならぬ」

「確かに、この現状では対処療法しか出来ないかと思いますが……」

「これが、破滅の特徴と言えば、それまでなのだが。我が身が救世主ではないのが口惜しいな」

 

王女が悔しそうに零した言葉に、学園長も辛そうな顔を見せる。

 

「それで、現時点で最も真の救世主に近いと噂される革命者よ。お前の意見を聞きたい」

 

 クレアが突然俺に話を降った。社会見学じゃなかったのか? つーかこのために呼んだのかよ。欝だ。

 

「彼の者の意見には私も興味があります」

 

 議長がクレアに同意して発言が許可されちまった。全員が俺のほうを向く。

 何故、議長がすんなりと俺の発現を聞こうとするのかというと、それは議長の家に執事として仕えたことがあるのからだ。

 執事科に面白半分で通っていたらそのことが学園長に知られ、研修(本当の目的は内偵)として送り込まれた。

そこでかなりの信用を得て、次の執事長にならんかと言われるほどになってしまった。それでも証拠はつかめなかったのだが。

 

「殿下に、資料を渡されていて数は確認しています。殿下の言うとおり現状では手のうち用がありません」

「それは救世主クラスを使ってもかね?」

 

 議長が問いただしてくる。議長は救世主クラスと言っているが実質は俺だけに聞いている。

あのおっさん救世主クラスのことを信用してないからな。

 

「はい。救世主クラスを使っても数には今のところ勝てません」

 

 あいつらでは対処できない。俺も含めてまだ未熟だ。それに俺は白の主だ。両者とも過度に関与しないと決めているからな。

 

「救世主候補がこの様子では、学園長。今まで莫大な予算をつぎ込んでいたのが無駄になりましたな」

 

 コッポルが意地が悪そうに学園長に向けて嘲りの笑いを向ける。他の議員も失笑している。

 

「いえ、存在価値はあります」

 

 その言葉でまた議員が俺のほうに向いてきた。音声オンリーにして話したいな。こいつらの目はうざい。

 

「民衆にとって救世主候補とはこの破滅との戦いを終わらせることが出来る希望です。

それがあるだけで民衆は救われる。心が支えられる。

それに、救世主クラスは未熟ですが私の見立てでは後、数ヶ月もしないうちに一大隊ほどの力を持つことになるでしょう」

 

実際。今でも一小隊と渡り合えるぐらいの実力はある。といっても救世主クラス全体でだが。

 

「それでは遅すぎるのだよ!!」

 

 ベイスが怒気を混ぜながら俺に向かって言い放った。ここで怒るのは愚の骨頂だぜ?

 

「たしかに、それでは何時来るか分からない破滅には対抗できない」

 

 議長もベイスの意見に同意する。コッポルも頷き、その意見を生かそうとする。

 

「そうです。今のまま温存していけばです。実戦に投入すれば数ヶ月が一月に変わることもあります。

といっても最初から破滅全ての討伐ともなるとその前に死んでしまいますが」

「その保障はどこにあるのかね?」

 

 未だにコッポルが噛み付いてくる。今度後ろからザックリやろうかな?

 

「私が保証するといっても意味はありませんね。では今、レッドカーパス州とアルブ州の州境にある村をモンスターの集団が襲い人質をとっている事件を解決したらと言うことでいかがでしょう?」

「ふむ」

 

 コッポルとベイスがその言葉をどうするか考えている。ちなみに人質救出はかなり難易度が高い。

人質を盾にされたら手が出せない。俺なら気にせず攻撃するのだが、今回はそれは出来ないな。

 

「議長。革命者の案を採用してみようではないか。それならば救世主クラスの実力も分かる」

「殿下の言うとおりですな」

 

 クレアの言葉にコッポルとベイスも賛同した。失敗する可能性にかけているのだろう。

 

「分かりました。革命者よ。その案を採用しよう」

 

 うん。これであいつらもいい経験が出来る。物語の針を進めすぎかもしれないがそれでもそのほうがいい。

難解なほうがあいつらの成長に繋がる。いざとなれば俺が出張ればいいし。

 

「しかし、革命者よ。君は直接関与してはいかん」

 

 議長の言葉にクレア、学園長は動きを止めた。

 おいおい、ちょっと待てよ。俺も一応救世主クラスの一員だぜ? 敵対もしてるけど。

 

「それは何故でしょう?」

 

 学園長が止めに入る。まぁ、一応あんたにとって俺はジョーカーだしな。それを切れないのではもしものとき対処できないし。

 

「革命者の実力は救世主クラスの中でも抜きん出ている。革命者ならば一人で解決してしまうかもしれない。

それでは救世主クラスの実力が測れないということだ」

 

 確かにその危惧があるか。失敗。

 議長の言葉に学園長も黙らざるをえない。学園長も出来てしまえると知っているからな。だって、何度かやらされてるし。

 

「議長。直接関与しなければいいのですね?」

 

 議長に確認を取っておく。このおっさん、俺を試すのが好きでわざわざこんな風に言っている。

直接関与するな。つまり、間接的になら関与しても言いと。

 

「その通り。直接関与しなければいい」

 

 確約は取れた。まぁ、今回は元々裏方に回る予定だったからちょうど言い。

もう一個確約を取っておかなければ。

 

「議長。もう一つよろしいですか?」

「かまわんよ」

 

 なんだか話し方が俺が執事をしていた頃に戻っている。ちゃんとしろよ、おっさん。

 

「モンスターが人質を盾にした場合は私が関与することを許してもらいたいのです」

 

 その言葉に議員から失笑が漏れる。特にコッポルとベイス。

 

「おかしな事を言う。今回の一軒。破滅が関与しているとしても破滅が人質を盾に取るなどありえんよ」

 

 そんな事はない。これはダウニー、いや、まだロベリアか。ロベリアが関与しているのだ。

それ位やってもおかしくない。ついでに俺も一枚噛んでいる。

 

「元々、理性のないはずの存在が人質をとっているのです。なら、起こりえないことではありません。それは許してもらえますよね」

「いや、それでは救世主クラスの実力を測れない」

 

 やれやれ、これだからおっさんは。頭が固い。

 

「議長。問題を間違えないで下さい。今回の件、確かに救世主クラスの実力を測るのも目的です。

ですが本来の目的は人質救出のはずです。この王国の民を助けるのです。

なのに王国の命あって私が完全に関与しないとあれば国民の中に王国に不審を抱くものが出てくるはずです。

それでも宜しいのですか?」

 

 聞きようによってはかなり無礼な発言だ。しかし、あのおっさんならその意味を分かるはずだ。

 

「………たしかに君の言うとおりだ。君にはいつも勉強させられるな」

 

 と言って、俺に向かって笑ってきた。おいおい、ここは賢人会議の議室だぜ? いいのか?

 

「人質救出の件は人質が盾にならない限り革命者は直接関与しないということでこの話は終わりとする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。俺には似合わん場所だな。

二、三言だけ話してそれで俺の役目は終わりか。来た意味ねぇじゃん。

こんなことならガルガンチュアに行ってバイクを乗り回していればよかった。

 

「さて、ご苦労であったぞ蛍火」

 

 大河と同じような不遜な態度で俺にねぎらいの言葉をかけるクレア。

ちなみにここはクレアの自室。ボディーチェックもなしに入れた。

といーよりはこの城に入る時もなかった。それでいいのかよ警備体制。

 ん?というより俺には無意味か。観護はどこでも出せるし魔力武具もそうだ。

ついでに言うなら素手でも簡単に人を殺せるので武器を所持していようとしていまいと危ない奴には変わらない。

ついで付け加えるなら手もつけられないもあるか。

 

「まったく、こんなことのために呼んだんですか?」

「ふむ、その通りだ。しかし、蛍火よ。議長に申し出たら一秒で許可が得られた。何をしたのだ?」

 

 心底不思議そうで好奇心に満ちた顔がこちらを向く。心なしか目がキラキラと輝いている。こいつに似合っているのだが。

そういえばクレアの年齢って幾つだっけ?

 

「以前、蛍火君は執事科の校外実習で議長の家に勤めたことがあるのです」

「何! あの議長がか?」

 

 クレアが学園長の言葉に目を開く。

無理もない。議長は自分の周りは自分の信頼しているものしか置かないという徹底振りだからな。

執事などは他から雇うことをせず自分のところで育ててるぐらいだ。

 毎年学園から研修場所にして欲しいと通達はいっていたのだが突っぱねられていた。

だが、俺がいくことになると途端に了解が得られた。何でも俺に興味があったかららしい。

 

「それで成績のほうはどうだったのだ?」

 

 成績? そんなものあったのか? 内偵が目的だったからそこらへんは気にしてなかったんだが。

 

「Sクラスを貰いました。」

 

 Sクラスという言葉を聞きクレアが固まった。てゆーかSクラスって何?

 

「まさか……Sクラスだと! 学園創設以来クラスはあったが手に入れたものはいないという幻のクラスか!? 」

「はい、教員たちもその事については文句も言わず、いえ、むしろそれ以外にないといっていたほどです」

 

 なんかもう、俺色々と属性付きすぎじゃね? 元の世界では思考がおかしい一般人(友人はそうは思っていない)だったんだが。

なんか無茶がありすぎるぞ。

 なんだか甲高い音が頭の内側から聞こえた。久々にステータス更新か。このネタやばくね?

何々? 内容はクラスは執事に判明? 俺の役職って道化じゃなかったのか? あっ、ついでに神降ろしEXがスキルに加えられてる。

おいおい、EXはありすぎだろ。

 

「でも、何故あんなことを言い出したのですか?」

 

 あんな事? あぁ、人質救出作戦か。

 

「いえ、王宮も一枚岩ではないようですしね。一応、ここら辺で救世主候補の存在意義を示しておかないといけないと思って、

そうでしないと黙りませんから、ああいうのは。で先手を打っただけです」

「しかし、何故、難易度の高い救出作戦を?」

「その方が民衆受けがいいですからね」

 

 うん。真っ赤な嘘です。この後の展開を知ってるから進めたに過ぎない。

 

「そこまで考えておるのか、どうじゃ、今度の賢人会議にも出席せんか?」

「結構です。社会見学は一回で十分ですから」

「そうか」

 

 クレアは心底残念そうな顔をしている。だが顔がまだ諦めていなかった。次はどうやって逃げるか真剣に考えておかないといけないな。

 それに救世主候補抜きにしても学園が存続できるようにもしないといけない。考えることが多すぎるな。

 

「まぁ、今はいい。蛍火。ここまで来てもらった礼として茶でも出してやろう」

 

 どこまでも不遜な態度で俺にいい、ベルを鳴らした。

うっ、あの音が鳴ると俺の身体が動きそうになる。条件反射か?

 

「何でしょうか? クレア様。」

 

 音もなくドアが開きメイド姿の女性が入ってきた。

オーソドックスながらも王道を行く、その衣装。そしてまさしくメイドとしての正しき姿。ふむ、中々に出来ている。

 

まぁ、明らかにクレアつきの侍女だろう。それにしても王宮に仕えるだけあって侍女なのに気品がある。

変なところに気を使いすぎてね?

 

「茶を入れてくれ。あぁ、一人分は珈琲で頼む」

「かしこまりました」

 

 音もなくメイドは去っていった。さすがだ。無駄に技能が高い。

 

「それでお礼とは?」

「ん?メイドに茶を注いでもらうことだが?」

 

 それのどこが礼になるのだろう? まぁ、大河あたりならすげぇ喜びそうだが。

 

「嬉しそうではないな。男ならメイドを侍らせて優雅に茶を飲むのが夢ではないのか?」

 

 どこの誰だ。クレアにそんな事を吹き込んだの。あぁ、あの議長なら言いかねない。意外に男のロマンを追及していたからな。

 

「殿下。蛍火君は執事もしているのですし、侍女は見慣れているのでは?」

「おぉ、そうだったな。まぁ、それで許せ」

 

 心底意外そうな顔でクレアが俺に謝ってきたが何を許せばいいのだろうか?

 もう一度音もなくメイドが入ってきて、俺に珈琲を二人には紅茶を出した。

 

「どうでしょうか?」

 

 メイドが俺に不安げな表情で珈琲の味を聞いてきた。

 

「えぇ、とてもおいしいですよ。」

 

 その言葉にメイドがほっと、暖かいため息を付いた。俺はどんな風に思われているんだ?

 

「私はそんなに怖いですかね?」

「いえ!! そんな事はないです!」

 

 メイドが俺の言葉に慌てて否定する。恐怖の感情は感じられないのだが、本当に一体どう思われているんだろう?

 

「怖がっているのではなくて、萎縮しているのでしょう」

 

 苦笑というよりは忍び笑いをしながら学園長が俺の心情を察して付け加えてくれたのだが、ますます分からん。

 

「ふむ、こやつ本当に自分の評価が低いのだな。お前は自分がなんと呼ばれておるか忘れているのか?」

革命者(ブレイカー)?」

 

 たしか、観護お披露目のときにそう呼ばれていたな。俺的には常識を打ち砕く者(デストロイヤー)の方が似合ってると思うんだが。

 

「それもあるが今回は違うぞ。今、こやつが萎縮しているのは最強にして最狂の執事(バトラー・オブ・エンペラー)、にして飲み物の達人(ドリンクマスター)の名だ。

接客の相手として最高にタチが悪い相手だ」

 

 そういえば、そんな名もあったな。どうでもよかったから忘れてたけど。

たしかに侍女であるこの娘にとってはその肩書きを持っているものには萎縮するよな。

 

「ようやく分かったようだな。大河でもこんなことは分かるはずだぞ?」

 

 むっ、あの純情で鈍感の大河に俺が負けるのか。それは痛いな。

だが、まぁ、どうでもいいや。こんなところによっぽどでない限りこないし。議長にまた呼ばれそうな気もするが。

 もう一口、珈琲を飲む。うん。美味い。

 

「初めてでこれだけの味を出せたのです。素晴らしいことですよ」

 

 この娘の緊張を和らげるためにもう一度褒める。だが、その言葉でその娘は苦い顔になってしまった。

 

「やっぱり分かりますか」

 

 目であからさまに分かるぐらいに落ち込んでしまった。

何でだ? 俺は褒めただけなのにな。取りあえず慰めないとな。初対面の人は心が読めないから難しい。

 

「恥じる必要はないですよ? 私だって初めてではここまでの味は出せなかったですから」

 

 そう、初めの頃の俺に比べたらいい出来だ。

 だが、その言葉は侍女のみならず学園長やクレアまで驚かせてしまった。そんなに意外なことだろうか?

 

「今でこそ大層な名を貰っていますが、私だってここに来る前は普通の学生だったんですから」

 

 俺は至極全うなことを言ったはずだが学園長やクレアに胡散臭げな表情で見られた。そんなに納得できないだろうか?

 

「だから、自信を持っていいですよ? これからも研鑽していけば私なんか目じゃないくらいの名を貰えると思いますから」

 

 俺の言葉にその娘はうろたえ始めて慌てて否定して来た。

 

「そっ、そんな、私のような何のとりえもない者が蛍火様を超えるなどありえません!」

 

 そう大きな声で言い切った後、俯いてしまった。

恐らく俺に意見したことを後悔しているのだろう。そんな事ないんだけどなぁ。

 

「自分を卑下してしまってはいけません。貴女は何もないものではないです。十分に特別なものを持っていますよ」

「そんなはずはありません!!」

 

 大きな声。だが、それは先程とは色合いが違う。恥ずかしさから来たものではなく、自分の何を分かるという怒り。

周りにいる特別な者をただ、羨ましげにしか見ていることが出来ない。

そんな中言われた、上にいる者から(俺の場合はモノかもしれないが)の明らかな慰め。

だからこそ怒ったのだろう。その怒りは若さゆえの、自らを見えていない者の特権か。

もう、俺は遠い昔に失くしたものだな。

 

「いえ貴方も特別なものをちゃんと持っています。それは小さなものかもしれない。

しかし、それは何よりもかけがいのないものです。ただ、気付いていないだけ」

「それはいったい?」

 

 意識が怒りから興味に変わった。俺がここまで断言してるからなぁ。

まぁ、それは俺にはわからないがな。だが、それは誰もが持っているが誰もが気付かないもの。

それはとても身近にあるもの。きっとそれは些細なもの。だけど、何よりも掛買いのないもの。

当たり前と思っている、それ故に気付くことが難しい。

 

「それは自分で見つけるものです。だけど、そうなってしまうと唯でさえ美しい貴女がさらに輝いてしまいますね」

 

 その自分の特別なものに気付いたものは自信と威厳に満ち溢れ人の視線を集めてしまう。

今でさえ男が放っておかない容姿をしているのにさらに男の目線を集めてしまうだろう。

あぁ、ちなみに俺にはそんなもんないから。人々に認められたのは唯、言葉が綺麗なだけだったのと俺が異常だったからだ。

 

「失礼します!」

 

 侍女が真っ赤になって出て行ってしまった。ドアの音も気にせずに慌てて。どうしたんだろうな?

 

「のう、ミュリエル。あやつはいつもああして女を堕としているのか?」

「えぇ、しかも無自覚です」

「ここの侍女、全て堕とさんといいが」

「ここに来る回数が増えればその分だけ増えていくでしょう」

「難儀だな」

「えぇ」

 

 なんだか二人俺に聞こえないように密談していた。いったいなんだったのだろう?

 

 

 

 


後書き

 蛍火が執事として働いていた布石が漸くここに出てきました。

 蛍火の執事としての役割は王国上層部とのパイプを持つことでした。蛍火は自身は不本意でしょうが。

 蛍火の言葉は正論であるから誰も無視できない。

 屁理屈と呼ぶにはあまりに論理立てられていますから。蛍火には実は政治家の資質も会ったりします。

 さて、最後に出てきたメイド。あれは私の趣味です!! メイドが嫌いな方には申し訳ないです。

 

 

 

 

 という訳で今回は王宮で行われていた賢人議会に蛍火が乱入してくる話だね。

観護(蛍火君、色んな所につながり持ってるわね)

 蛍火が望んだわけじゃないけどね。蛍火は政治的に見てもかなり有用性が高いから、

??「救世主候補として?」

 いや、革命者としてかな。意識改革できるほどのカリスマを持つ蛍火がかなり使えるんだよ。

観護(今も昔も権力者は変わらないのね)

 そんなもんだよ。

??「議長が結構いい人だった」

 同じように学園を潰そうとしているベイスとコッポルみたいに欲にかられているんじゃなくてて本当に王国の未来を憂える人だから。

成果を未だに出せない学園は嫌いなんだ。学園長は救世主候補に掛かりっきりでそこら辺をやってないから。

観護(なるほどね)

??「さて、ペルソナ。またしても謝る事はない?」

 残念ながらないね。

??「へぇ、あの名も知れないメイドを蛍火が口説いたのに?」

 馬鹿女郎!! 王族、貴族と言えばメイド!! 折角王宮での一幕なのにメイドを出さずしてどうする!!?

観護(??ちゃん、ダメよ。もうこれは殺さないと)

??&観護「(離空・紅流、地爪風牙!!)」

 メイドさん万歳〜〜〜〜!!!! (ガクッ

??「次回予告、救世主候補たちに出される指令」

観護(初の実戦に彼らはどう心構えをするのか?)

??&観護「(では、次話でお会いいたしましょう)」





地爪風牙とは…。
美姫 「鎧朱一閃同様に出足の異常に出足の速い技で、こちらはあっちとは違って刺突なのよね」
最初の一歩目からトップスピードの踏み込みを見せ、相手へと剣を突き立てる。
しかも、嫌らしい事に、低い軌道からの小刀による視覚外からの斬撃付き。
美姫 「突きばかりに気をとられていると、こっちでやられるわよ。でも、この一撃の本命は刺突の方だけれどね」
って、またかお前! お前はどうして人様にまで迷惑を……ぶべらっ!
美姫 「今回は政治方面のお話ね。政治はクリーンが一番なんだけれど…」
びばっ! メイド! 王宮、王族、貴族とくれば、やはりメイド!
そのチョイスは間違ってなどいない! これを正道と言わずして、何を正道と呼べ……ぶべらっはぁっ!
美姫 「復活早々、狂ってるんじゃないわよ」
う、うぅぅ。メイドさん……。
美姫 「さてさて、いよいよ救世主クラスが任務を受けるみたいね」
だな。次回はその任務のお話になるのかな。
美姫 「一体、どうなるのかしら」
次回も待って…。
美姫 「その次回はこの後すぐ!」
な、いつもなら俺が言う台詞なのに…。
美姫 「ふふん。偶には私もね」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る