何かが暖かい何かが俺の手を包んでいる。この手に導かれるように俺はゆっくりと覚醒した。

 

 

 

 

 

 

第三十五話 疑問

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛍火君!!」

 

 その声とともに何かがぶつかってきた。痛い。

 

「蛍火君!! 大丈夫だよね! もう、大丈夫だよね!!」

 

 何かが話している。ん〜。いい香りがする。

腹減ったな。よく分からんがいただきます。

 

「ひゃっ! 何?」

 

 柔らかいんだけど噛み切れない。

ん〜。なんか本気で噛み付いたらいけないって本能が告げてるから甘噛みで空腹を紛らす。

甘くていい香りだけで空腹がマシになる。

 

「あん。だめだよぉ。蛍火君」

 

 何か言っているが無視。空腹だから。ついでに舌を這わしてみる。うん、うまい。

 

「蛍火君、こういう事は二人きりの時でして欲しいよぉ」

 

 ん〜、甘くて美味しい。

 

「何やってんのよ!!!?」

 

 殺気を感じる。はっ、俺は?

敵襲かもしれない。俺はいつもの癖で襲撃者に殺しにかかる。すでに条件反射の域に至っている。

殺す前にどこの差し金か聞いておかないと。

 

「動けば殺す。魔力を使っても殺す。俺が指示した以外の動きをすればどうなるか分かっているな?」

 

 俺はすでに抜いていた小太刀を襲撃者に突きつける。

それにしても赤いな。火を髣髴させる。あれだな、リリィと同じ髪だな。って、リリィ!?

 周りを見渡してみるといつもの夕食のメンバーと学園長がいた。あぁ、つまり俺はあの後、ここに運ばれたのか。

それにしてもメリッサがポーっとしている。夢見心地というか、恥ずかしさが臨界点を突破したというかそんな感じだ。

一体何があった?

 

「あははは、すみません。つい癖で」

 

 誰もが一体どんな癖だって思っている。しかしな、これ出来なかったら師匠に確実に殺されてたぞ。

 

「次からは止めてくださいね。次も寸止めできるとは限りませんから」

 

 殺気が強すぎた場合、気付く前に殺してしまうだろう。今回は攻撃意志だけで殺気は出ていなかったから良かったが。

 

「蛍火君。聞きたいことがあります」

 

 学園長が俺に引き締めた顔で聞いてくる。しかし、俺は空腹だ。一刻も早く栄養補給しなければ倒れる。つーか今現在でも辛い。

 

「今は無理です。まだ、体調が万全じゃないですから。今日の夜にでも聞きます」

 

 俺はそれだけ言って。学食に向かった。それにしても一体何をしたんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 食堂に行きながら俺は何をしていたか考えた。そしてとんでもない結論に達してしまった。

それは俺が寝ぼけてメリッサを襲ったということだ。

そうでもなかったらリリィが怒ったり、メリッサが顔を赤くなんてしていないからな。死亡フラグがまた立ったな。

 

「おう、蛍火。もう良いのか? 死ぬかもしれないって聞いてたのに三時間で回復なんておかしいだろ?」

 

 ん? 考え事をしているうちに食堂についていたようだ。料理長がまぁ、普通の事を聞いてくる。

 

「トロープさんの魔法が効いたんでしょう。それよりも鉄人ランチγ下さい」

「何!?」

 

 料理長が驚愕を浮かべる。まぁ、リコ専用の有り得ない量の飯だからな。今はそれぐらい喰わないといけないぐらいやばいのだ。

 

「すぐにお願いします。空腹で倒れそうなぐらいなんで」

「あぁ、分かった。まぁ、いろんな祝いを合わせて作ってやるぜ」

 

 料理長が大河と同じようににやりと笑った。

 

 

 数分で料理は出てきた。時間外なのに早くね?

 すぐさま食う。普段の行儀など気にしない。その姿に学食の前を通りかかった学生が引いていたが。

 

 

ふう。食った食った。

 

「お前、それをマジ食うなんてな。今まで足りてなかったのか。よし、これからは遠慮せずに食えよ」

 

 と料理長が優しく声をかけてくれたが辞退した。今回だから食べきれただけであって普段なら食べきれないと思う。

 今日の夕食はあいつらに任せて休養としよう。まだ体が辛いしな。

 

 

 

 

 

 まさか、ダウニーが何か画策しているとは思わなかった。俺が白の主である可能性もあるというのに。

 そして、それに何かが関与したことを。あれによって俺は死伎を使わざるをえなかった。

 それはさしたる問題ではない。それ以上に問題なのが俺の体に出来た痣か。

昨日よりも痣が進行し、さらにその色を濃くしている。

 それにあそこまで損傷した俺の体を手術程度で治った。

 はっきり言ってありえない。

 死霊術を使わない限り俺は助からなかったはずだ。だというのに生きている。

 俺の回復速度が上がっている? 違う。そう、もっと根本的なものが変わっているはずだ。

 そう、例えば俺の体が■■■■になっている。

 ははっ、それこそ有り得ん。人の身でそれに近づくなど出来るはずもない。

 いや、待て。■■が求めているのはもしかして、■■■■?

 いや、違うはずだ。ならば俺だけなく大河にも……、

 

 それとも、俺と大河に求められているのは別のものか? 原作を考えれば、俺と大河は役割が異なる。

 ならば、俺に与えられた役目は■になり、■■を■える。■■の■■を■■事?

 そして大河は俺とは真逆の■■の可能性を秘めた■■を創ること?

 ははははははっ、それこそ誇大妄想だ。そうだとしても俺にはそれになる為のピースがない。

大河はありえるとしても俺がそうなる可能性など無い。

そうだとも、こんな事は唯のあり得ない考えだ。忘れよう。

 

 

 

 

 

 けれど……、俺はこの考えを忘れることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、夕食となった。今日はいつものメンバーに加え学園長もいる。他のメンバーに比べて明らかに食べ方が上品だ。

さすが………いや、これ以上は考えないでおこう。恐ろしいことになる。

 

「はい、ではこれより質問タイムです。質問したい人は挙手を」

 

 その言葉で全員が手を挙げる。うーん。謎だらけって事ですか。

 

「はい、ではセルビウムから。あぁ、恐らく一番聞きたいことがあると思いますがそれは最後にして下さい」

 

 その意見に同意するように全員が頷いた。

 

「あのさ、未亜さんと戦ってたときに使ってた武器って何だ?

それとモンスターと戦ってたときは結構使ってたけど、どれだけの種類使えるんだ?」

 

 ふむ、まぁ、最初にしては妥当な質問か。

 

「試合の最中学園長が答えていたと思いますが。まぁ、百聞は一見にしかず。」

 

 魔力弓を出す。実際これ以外の形状も出せるのだが。まぁ、それも切り札ほどというわけではないが隠している。

 

「魔術を使う人にはわかると思いますがこれは魔術の一種です。魔力の凝縮による武器化です。

何の属性も帯びていない魔力で使い方を替えれば私がモンスターと戦っていたときのように空を翔ける事さえ出来ます」

「ちょっと待ってよ。なら、空さえもあんたは制することが出来るって言うの!? 」

 

 たしかに、魔術師が近距離を挑まれたときに最後の逃げる手段として浮遊魔法がある。

しかし、俺はそれよりも速く、急角度で空を跳ぶことが出来る。配置場所を間違えて落ちるなんてことも練習中にはあったが。

 

「まぁ、そうなりますけど、やっぱり欠点はありますよ? 足場を配置するのに思考の一割は確実に持っていかれるので、判断が遅れます。

それに足場に着くまでは無防備ですし、はっきり言って、当真やヒイラギさん、セルビウムなどの近接のスペシャリスト相手に仕えないも同然ですから」

 

 欠点はあるが常識外れめって顔してるよ。否定は出来ないな。

 それに俺としてはかなり思考の一割を持っていかれるのが辛い。

大河と違い、俺は戦闘を論理によって組み立てているから思考を持っていかれるのは辛すぎるだ。

 

「なぁ、蛍火。私に魔力武具を教えてくれないか?」

 

 イリーナがこう、ねだるような目で見てきた。セルにその目をしてやれよ。

 

「無理です。まずイリーナさんに魔力適性がない」

 

 リリィと学園長以外が?顔になる。まぁ、それ以外には話していないし分かるはずもないか。

 

「まず、あれは魔術の一種です。魔力がないものに扱うことは出来ない。そして、それ以上にあれを私は教える術を知らない。

構築術式すらなく感覚で作成するものですから」

 

 その言葉に全員が納得する。まぁ、不満そうな顔もあるが。

 

「そうか、私も使えたらと思ったが。なら、魔術師が感覚さえ掴めば使えるのだな?」

 

 それもはずれだ。これは本当に使い手を選ぶ武器だからな。

 

「それも無理ですね。これはあくまでも魔力で出来たただの武器。前衛が使うものです。

前衛でありながら魔力を持って戦うことが出来る者のみが使える。この中で使えるとしたらヒイラギさんぐらいですか」

 

 紅蓮や雷神はあれは術式はこの世界のものとは異なるがあれも魔術だ。だから、カエデなら使えるかもしれない。

 

「拙者ならできるのでござるか? なら、拙者できるようにがんばってみるでござる」

「あー、出来るかもしれないとは言いましたが覚えようとはしないほうが良いです。貴方の戦い方はもう出来てしまっている。

今から明らかに系統の違うものを覚えようとしてもリズムが崩れるだけですから」

「むっ、確かに」

 

 出来上がっているものの中に無理やり詰め込むとこぼれるだけだからな。

 

「それで扱える武器のことですが、どれぐらいかは私も分かりません。落ちているものを拾って武器にすることもありますから。

しいて言えば戦場で出てくる武器はあらかた使えるといったところですか」

「召喚器一つあればそれでいいんじゃないの?」

 

 メリッサが聞いてくる。まぁ、メリッサは戦いを知らないからな。それを聞いても不思議じゃないか。

 

「戦場では必ずしもその武器が使えるとは限りませんから。例えば森の中。そこでは私の召喚器では木々にぶつかり扱えない。

戦う場所に適した武器を使うためですね」

 

 その言葉にセルが頷いている。傭兵であるセルにはその考えがいやというほど教え込まれているだろうからな。

 

「はい、では次、当真」

「モンスターに飛ばしてあの魔法って召喚器の特殊能力か?」

 

 まぁ、初めて見た奴はそう思うか。

 

「いえ、私の召喚器の特殊能力は刀身が伸びるだけです。あれはまぁ、魔法剣といったところでしょうか」

「どこで覚えたんや」

 

 マリーが睨んでくる。そこまで隠し事してるわけじゃないんだけどな。

 

「以前、禁書庫でその類の本を見つけまして」

「以前? 昨日ではないのですか?」

 

 口滑らしちまった。らしくないなぁ。

 

「えーと、ですね。実を言いますと昨日よりも以前から忍び込んでました。ごめんなさい」

 

 その言葉に呆れられてしまった。リコと学園長は驚いていたが。

まぁ、あそこの鍵普通じゃかないからな。

 

「どうやって忍び込んだのですか?」

 

 あの鍵の特殊性を知っているがため学園長の言葉は厳しい。

 

「蛇の道は蛇。何も表から堂々と入る必要はないとだけ言っておきましょう」

 

 はぐらかしておくのが一番だ。表から裏技使って入ってるからこの言葉は正しいのかどうかは分からないが。

 

「では次、リコ・リスさん」

「はい、貴方が使っている魔法はこの世界で使われているものとは系統が違うようですかどういった原理ですか?

それと魔力弓でしたか。あの矢で魔法陣をなぜかけたのですか? また、あの時使った結界は何ですか?」

 

 矢継ぎ早に聞いてくる。話すようになったとはいえ、リコがここまで連続で話したとあって全員驚いている。

 

「ではまず魔術から私はこの世界の主流の四大元素を元に魔法を構築しいるのではなく五行思想によって構築しています。

五行思想は木火土金水と五つの属性からなるもので相生と相剋を使うことでより複雑により威力を出しやすくなります。

まぁ、色々とありますがそれは面倒なのでまた今度にしましょう」

 

 俺自身が魔力を用いて行う攻撃を魔術と呼んでいるのはこの世界の魔法と区別するためだ。術式の書き方とか結構違うし。

 

「次に魔力弓で魔法陣を描いたことですが、その使い方が魔力弓の本来の使い方です。

矢に属性と術式の欠片を組み込み指定の位置に打ち込むことによって魔方陣が出来ます」

「では、魔術師ですら届かない位置からも攻撃できると?」

 

 そうなる。といっても一本一本を正確に打ち込まないといけないのでそれほど遠くを狙えない。精々五百ぐらいが俺の射程だ。

 

「一応はそうなりますが。遠くに行くほど精密に矢を打ち込めなくなるのでそんなに遠くには出来ないですね。

それで結界についてはですね。五行思想は元々守りを得意とします。

四方と中央に守護獣を置きその力によって結界を固めるといったところですか」

 

 もう、色々面倒なので適当に話す。リコなら自分で調べるだろ。

 さて、これで最後の質問を除いて終わったか。もう、手は上がっていない。

 

「では、最後の質問を聞きましょう。大方、あの伎は何かといったところでしょうがな」

 

 その言葉で全員の顔がこわばる。無理もない。あの光景を思い出しているのだろう。

 

「それだけではなく貴方の態度が豹変したことも教えてください」

 

 学園長がいち早く他に聞きたい事を聞いてくる。さすが。

 

「そうですね、私の態度豹変した理由は簡単に言えば自己暗示のせいです。自らに仮面を被せるようにする事で人らしい全てを捨てます。

痛みすら感じない。敵を倒すために存在するようになる。大怪我を負ったときの最後の手段ですね」

 

 自己暗示はさすがに嘘だが、第一に俺はあの時仮面を被っているのではなく、外している。第五の仮面は人らしさが全て欠如している。

そして、痛みも感じる必要性がない。それは人らしさでもあるから。自己を省みない分、終わった後の反動が辛いがな。

 

「さて、では本題に入りましょう」

 

 シリアスな雰囲気に変わる。まぁさっきまで見たいにおちゃらけて聞ける内容でもないしな。

 

「あの伎は死伎・黒の焔の巨人王(スルト)です。死伎の名に相応しく実力の至らないものがいえ、どんな者でも隙を見せれば一瞬にして死ぬ。

そんな伎。

気付いていないと思いますがあれは召喚魔法、魔力武具、魔術、その全てを混ぜることによって出来るものです。

実際、現時点でその条件を満たすのは私しかいない。まぁ、その条件を満たしても使えるものなどいないでしょうがね」

 

 死伎・黒の焔の巨人王(スルト)、その温度は数千万度を超え、欠片所か塵一つ残さずこの世から消滅させる伎。

その黒い炎に死ぬまで焼かれる。その伎が終わるときは対象が死んだときか俺が耐え切れずに術式が崩壊したときのみ。

不死の存在すら生きることを諦めざるおえない伎。

 

「神を召喚したんですね?」

 

 リコが冷静にでも有り得ないと思って聞いてきた。神という言葉に他が反応する。

 

「えぇ、といっても世界を管理する力もない下級の神です。ですが下級とはいえ神を使役するのです。

隙を見せれば意識を乗っ取られ体は砕け散る」

 

 その苦痛を想像もできていないだろう。だが、味わう身としては地獄だ。知る必要もない。

 

「なっ!? 貴方は神様を呼び起こしたんですか!? そんな!?」

 

「あぁ、トロープさんが仕えている神とは違う神なので別に気にする必要はありませんよ?」

 

 そう、俺が呼び起こすのは総じて一度屠られたものだ。

何故そちらにするかというと邪神の類のほうが負の感情が満ちているため、機会を与えてやれば簡単に出てくるのだ。

それにそっちのほうが威力が高いの多い。

 

 ベリオは取りあえず引き下がった。まだ、聞きたいことがあるのだろう。

 

「そんな、そんな危険までありながら何故使ったのですか? 他に方法はあったでしょう?」

 

 学園長が本当に分からないといった顔で聞いてきた。たしかに方法はあったかもしれない。

 

「ですね。ですがそれでは観客に被害が及んだかもしれません」

「それは……」

 

 学園長も分かっているのだろう。本来、檻に入っている獣がその檻を破るなどあってはならない。なら、何故?

決まっている。それはダウニーが仕込んだ。そしてそこに神が関与した。

もし、■が関与していたなら守護者のときと同じように禁技が効かないかもしれない。

しかもそれが二体もいたのだ。あの伎でもって瞬殺すべきだろう。

 

「何故そこまで?」

「言いませんでした? 私は私のために戦う。

私の護りたいもののために、譲れないもののために、その中にここにいる全ての人が入っていたそれだけですよ」

 

 俺はなるべく優しく微笑む。むっ、意外と難しい。

 なぜか、女性陣が顔を赤くしていた。ふむ、何故だろうな?

 

「蛍火。次からはそう言う事を言わないでくれ。心が揺れ動く」

 

 ふむ、なんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は教会裏で一人鍛錬をしている。

 体を動かそうとすれば休めといわれた。だが、いつもの時間に身体を動かしていないと気分がおかしくなる。

 それに俺はあまり人の忠告を聞くような者ではないので一人鍛錬している。

 

(あんなことした後で訓練なんかしていいの?)

 

 鍛錬をしようと観護を出した瞬間から観護に心配の声をかけられた。そこまで無理をしているつもりは無いのだが。

 

(俺自身の事だ。俺が一番理解している)

 

 己の体調も分からないようでは一人前ではない。

戦いは常にベストの状態で出られるように。もちろん、ベストの状態でなくても戦う方法は身につけている。

 

(まぁ、蛍火君がそう言うなら、でもよくあんな技を二回も出せたわね。私たちが言うのも何だけどあの技は人間技じゃないわよ)

 

 当たり前だ。あれは神を降ろすもの。もとより人の伎ではない。

 

(あぁ、使った俺が言うのも何だが、あれは人が扱えていい領分の伎ではない)

(なのに、何で使うの?)

 

 観護が心底不思議そうに聞いて来る。お前も俺の決意を聞いていただろう。俺にはそれ以外に理由が無い。

 

(聞いていただろう。俺は自分の譲れないもののために、護りたいもののために戦う)

 

 幾度でも繰り返そう。それは俺が戦う理由。それが俺が生きるたった一つの理由。そして、俺を俺たらしめる最も重要な要素。

 

(ちゃんと言って欲しいわね。貴方は何を譲れないのか、何を護りたいのか)

 

 それを言葉にする必要があるのだろうか?

俺は確かに全員がいる場で全員がその中に入っているといったがあれは半分は嘘だ。

あそこにいるものが譲れないもの、護りたいものを遂げるために必要なだけだ。根本的なものでは確かに無いな。

 

(決まっている。譲れないものは、護りたいものは唯一つ。契約だ。

俺を俺足らしめる最後の要素。簡潔に言ってしまえば俺なのかもしれないな)

 

 そのなんと傲慢なことだろう。全てを欺き、全てを裏切る。なんとも俺らしい。だが、それすらも嘘。

俺は俺を必要としない。だから、本当に俺にとって譲れないもの、護りたいものは契約のみ。その中に俺はいつも入っていない。

 

(貴方にとって自分以外はそれじゃないのね。

なら、あの時言った、同じ道を歩むものは貴方にとって譲れないもの、護りたいものじゃないの?)

 

 あぁ、たしかにそう言った。だが、それは俺と同じ道を歩むもののみだ。

 

(何を言う。その道を歩むものは俺以外にいない。その道を死ぬまで俺は一人で歩き続ける。

結局は俺以外にそれに該当するものはいないということだけだ)

(貴方は一人、孤独に全てに頼らずにこの道を歩む)

 

 孤独などという概念はすでに俺の中には無い。それは寂しさという感情があるから初めて認識できるもの。

俺にはすでに寂しさを認識するような感性を持ち合わせていない。故に俺は孤独ではない。端から見れば同じかもしれないが。

 

(無論。この身終えるまで、この魂朽ちるまで、永久に)

(そう……もしかして私たちは娘たちを救うために貴方にとても重たいものを背負わせてしまったのかもしれない。……ごめんなさい)

 

 観護が心底悔しそうに、いや、悲しそうに言った。だが、悲しむ必要はない。

というよりは俺まで保護対象に入れようとするのが気に食わん。

 

(俺は何も重荷に感じていない。お前の勘違いだ)

 

 俺が言った言葉に観護は何も返してこなかった。こいつらは本当に馬鹿だ。

気にせずともいいことをいつまでも考え続ける。人の形を捨てて尚。

 

 数分がたった頃、未だに観護は話をしようとしなかった。

俺はまだ、観護が聞きたいことがあると思ったので何も聞かずに唯、煙管を吸っていた。

 

(これからどうするの?)

 

 それは何に対する質問だろうか?

 

(貴方は白の主になった。貴方が知る話とはもう同じところは無い。なら、これから貴方はどうやって神を倒すの?)

 

 なるほど、そういう事か。

 

(さあな、わからん。俺が知っているものとは異なっているのだから。何が起こるかもわからん。

当座は歴史通りに動かすつもりだが、それでもその時になるまでは分からんな)

 

 観護はその事に対して何も言ってこなかった。これがベリオだったならば無責任なというだろう。

だが、観護は大人だ。そして、自分が選んだ事でもあるということも理解している。

 

(まずは、大河に強くなってもらわなければ。俺を倒せるぐらいに)

(八百長でもする気?)

 

 何故そうなる。真剣に大河が俺に勝つぐらいは強くなって欲しい。そうでもないと楽しみが無い。

 

(そんなつもりは無いさ。本気でぶつかるつもりだ)

(大河が負けたら?)

 

 今のままなら確実に訪れる未来。だが、それでは神を殺せない。そして、俺を倒せないようでは神を殺すことは叶わない。

 いや、俺が■になるのなら俺にも出来るか。

 ………何を考えている? 忘れると決めたというのに。

 どうしようもない精神だな。

 

(なるようになる)

 

 今はそれ以上言えない。もはや結末は闇の中………、

 だからこそ、踊れ。

 俺と大河が戦うに相応しき時期と場所を作るためだけに踊ってもらおう。

 俺が創り上げた偽りのシナリオの元に………、

 

 

 


後書き

 さて、今回は説明が多かったですが。今までに何度か書きましたので省いてもいいじゃないと思われる方も多いでしょう。

 しかし、死伎はこの話の要ですので印象を強く残してもらうためにあえてもう一度書かせていただきました。

 作中にあった■は伏せてある文字と同じ文字数にしています。情報がまだ少ないでしょうが考えてみていただけないでしょうか?

 

 

 

 

 はぁ、やっと復活できた。

??「浩お兄ちゃんと同じぐらいの復活力」

観護(おかしすぎるわよ。ペルソナ)

 まぁまぁ、そこら辺は置いておいて。今話について何かない?

??「■がかなり多かった」

 あぁ、あれ? あれは話の核心だから伏せさて貰った。実際、蛍火の予想はあってる。

でも、まだピースが揃ってないからね。断定できなかったんだよ。後ここでばらしちゃったら面白くないでしょ?

観護(揃ってないピースって何よ)

 随分先の投稿で分かる。

??「その時まで投稿できればいいけど」

 怖い事を言うなよ。

観護(ねぇ、今話で気付いたんだけど、蛍火君って何気に天然?)

 うん、意外と蛍火は天然。

ナチュラルに自分が思ったことを恥ずかしげもなく言えるからかなり女誑し。

??「へぇ、それで今回はメリッサお姉ちゃんがいい目にあったんだ」

(汗)うっ、うん。ちょっとジョークを交えてみようと。許してくれるよね?

??「許すとでも思ってる?」

 めっちゃ怒ってる!?

観護(駄目よ。??ちゃん、毎回毎回殺してたら幾らペルソナでも危険よ)

 観、観護!! 君がそんな事を言ってくれるなんて感激だ!!

??「観護は今回は出番があったから気分が言いだけ」

観護((ギクッ) じゃっ、じゃあお仕置きするなら、ざからから送ってもらったドリンクでいいじゃない)

??「でも、こいつにはあんまり効いてない」

観護(あれは少量だったからよ。一升瓶全てを飲み干させれば流石に気絶するわ)

??「わかった。今回はそれで我慢しとく」

 ねぇ、人を放っておいて話を進めないでくれる?

??「ペルソナ、これを飲んで?」←上目遣い&涙目

 ぐっ、私がいくら君の事を好きだからと言ってこれぐらいでは………、

??「ダメ?」←首を四十五度に傾けている

 我が生涯に一片の悔いなし!!!!!!

 ん? 案外美味くなってるじゃん。もうちょっと貰うかな?

??「きっ、効いてない!?」

観護(そっ、そんな流石に前回はコップ一杯だから効果が遅かったってざからから聞いてたのに!?)

バタッ  ピクピクピク

??「やっぱり、こいつは毒に対する耐性が高い、それじゃ、次回予告」

観護(明かされるイムニティとの会談結果。蛍火君がイムニティに求めたものとは一体?)

??「では、次話でお会いしましょう」





蛍火の説明会〜。
美姫 「なぜなに蛍火塾」
も無事に終了。
美姫 「って、何を勝手にタイトル付けてるかな」
いや、お前もノリノリでやってたくせに…。
美姫 「はいはい。今回は蛍火の手の内の幾つかを明かしたような形ね」
だな。にしても、あのキマイラの暴走というか、あの強さは何なんだろうか。
美姫 「また、蛍火の推測も気になるわね」
一体、これからどうなっていくのか。
美姫 「次回はいよいよイムニティとの会談ね」
そんな気になる次回は…。
美姫 「これまたこの後、すぐ!」



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