地上に着く。まぁ、当然誰にも見られていない。大河たちが上に戻ってくるには時間がある。

これからの事、今起こった事、全てを整理する必要があるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十一話 始まるは先見えぬ未来

 

 

 

 

 

 

まずは守護者が俺が知っているものよりも強くなっていた。あれは明らかにおかしすぎる。

禁伎を喰らっても生きているということ自体が考えられない。だとするのなら、何かが守護者に介入したか。

 守護者というかなり強い存在に介入でき、尚且つ、あそこまで強化できるという事は人では不可能に近いだろう。

 だとすると、■か、■■のどちらか。

だが、■■は俺に力をさらに与えた。明らかに俺や大河達に助力している。なら、■しかないか。

 この時点で■の介入か………、それこそが分からん。

 ■は救世主を生み出し、■■を終わらせることが目的のはずだ。ならば、あそこで救世主候補達を殺そうとするのが理解できない。

 いや、目的が違うのか? 俺を引きずり出すため? それとも俺を危険視? わからんな。

 情報のない相手を推察する事は難しすぎる。

 

 次はあの伎か。あれは人が使えていい伎ではない。禁伎を超え人の理から外れた伎。名を死伎・霜の巨人の鉄槌(フリームスルス)

 守護者を倒したあの一撃だが、与えられた知識によると本来の威力はあんなものでは済まないらしい。

あれは威力的に言えば最低のもの。

本来の制約を全てこなせば導きの書があったあのフロア全てを一瞬で凍らせ認識する間もなく砕くことが出来る。

 全ての原子の振動が止まる絶対零度すらも軽く超える絶対的な氷撃。

絶対零度近くすら耐え切った守護者といえどあれには耐え切れなかったのだろう。

 

 制約。正確には制約ではなく行うための条件。それはその属性に適した場を作ること。それはクリアしていた。

そして、贄を捧げること。その重要度により威力が上がる。

最も高いのは当然、俺の命、次に血で魔方陣を描くことか。

恐らく血を贄にするのが現時点の最高の威力だろう。しかし、あの膨大な魔方陣を描くのに必要な血の量はおそらく致死量を超える。

不可能に近いが、まぁ一応何とかする事を考えておこう。

 

そしてあの伎が死伎と呼ばれる所以、それは使うことによる異常なまでの魔力消費。

そして神を使役する代償として内から意識を乗っ取ろうとする圧力。

第五の仮面でさえも耐え切ることが難しかった。

しかも、超低温が身体をさいなみ身体の各部位に致命傷が生じる。

常に命の危険に晒され、威力を挙げるために自らの命すら削る。俺でも辛い。耐え切れたのが不思議としか言いようのない伎。

 

リスクが高すぎる、第一隙が大きすぎる。消耗が激しすぎる。いや、激しいなどというレベルでさえないか。

使用している時も使用後もあの声が聞こえた。あの声に抗えたのは単に運が良かったとしか言いようがない。

次も耐えろといわれても難しいとしか言いようがない。

封印するべきだろう。だが、それでも使うときは恐らく来るのだろうな。そんな予感がする。

しかも、あれクラスの伎がまだ四つもある。五行に従い、木の派生の風、火、地、金の派生の雷。

その全てを使うことがあるかどうかはわからないが。

 

この伎は不審にすぎる。俺が使えるということ自体とこの伎が世界によって与えられたこと。

明らかに■■の法を犯すものだ。何を考えているのかが分からない。

そして、さらにおかしな事は俺の体に残った痣。イムが治癒してくれたというのに残っている。

イムはこんな中途半端なことはしない。なら、これは呪いに近いものという風に考えたほうがいいだろう。

だがこれが呪いだとして、何から? 何を目的として? 分からないことが多すぎる。

自分が介入した責任とはいえ、本当に暗礁に乗り上げているな。

 

 そして、イムニティか。

 俺が白の主になったことはどんなに努力しようとも修正が出来ない。

いや、そもそも守護者の時点で俺が修正する事が出来ない状態だったか。

 

 本当にどうしたものか。取りあえずは救世主クラスに編入する事にしようか。裏からでは修正が出来ない。

 結末は確実に違うものになるかもしれないが、それでも同じ道筋を辿らせる方が都合が良い。

 まったく、自分から手を出したこととはいえここまでこじれるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝と同じように気配を殺して学園長室に忍び込む。

 

「ただいま帰りました」

「ご苦労様です」

 

 平然と返す、学園長。

 もう少しリアクションを期待していたんだがな。

 

「少しは驚いたらどうです?」

「二度目ならばさすがになれます」

 

 そんなものかと学園長に目で問いかける。学園長はそんなのものですと目で返してきた。なかなかやるな。

 

「それで、大河君とリコは帰ってきたということですか?」

 

 他の救世主クラスの事もきちんと聞いていたのだろう。今、最下層にいる人物のみを聞いてくる。

 

「いえ、もう少しかかると思います」

 

 その言葉に学園長は訝しげな顔をする。今まで俺は仕事を完璧にこなしてきたからな。

今回のように途中で放棄するなど本来なら有ってはならない。

 

「先に戻ってきたのは私を救世主クラスに編入してもらおうと思いましてね」

 

 その言葉に学園長の表情が驚愕に染まる。まぁ、考えていることは分かる。

今まで影に潜んでいたのに急に表に出るなど、その必要性がないからな。

 

「どういうことですか?」

 

 学園長も理解している。俺が表に出る。それはイレギュラーな事態が発生したということ。それ以外に無いからな。

 

「最下層で当真大河、当真未亜、リコ・リスが守護者によって死に掛けました」

 

 死に掛けた、それがどうしたと目で聞き返してくる。あれ相手に死に掛けたりするのはむしろ当然だからな。

 

「私が知るのではある程度危機に陥っても命の危険がさらされるような状況では無かった」

「貴方も伝聞ですからそこら辺は誤差の範囲ではないのですか?」

 

 学園長はまだ納得していない。あぁ、そっか。学園長は俺が未来から来たって認識してたんだな。忘れてた。まぁ、合わせておこう。

 

「いえ、あれは絶殺の状況でした。少なくともあそこで私が手を出していなければ確実に当真たちは死んでいました」

 

 その言葉に学園長がさらに驚愕する。それは、

 

「つまり、何者かが守護者に介入したということですか?」

「えぇ。そうなります。もっとも誰が関与したかは分かりませんが」

 

検討だけは先につけたが、それでも確証などない。

 

「なるほど、ですが貴方が表に出る必要はないのでは? これまで通り裏から手助けしていれば」

 

 学園長が魅力的な提案をしてくれる。個人的にはそれが一番いいが不都合が多すぎる。

それに俺の手が届くのが遅くなる可能性も出てくる。

 傍にいなければ何も出来ないからな。

 

「これから、破滅は活発になります。

また危機的状況に陥ったときに気絶しているうちに終わったとあっては救世主クラスの面目がつぶれます。

王宮もそれでは納得しないでしょうし」

 

 王宮と言ったところで学園長が顔をしかめる。俺がラプラスとして活動していても尚学園を潰そうという意見は無くならない。

もし、そうなってしまったら確実に救世主クラスは不要とこの学園は潰される。

 

「分かりました。では明日、帯剣の儀を執り行い」

「いえ、それは止めましょう。普段から救世主になる気など無いといっている私がそんな事をすれば不審に思うものが出ます」

 

 学園長もその言葉に気付く。そんなに俺の発言は出回っているのか?

 

「幸い禁書庫で当真さんの前に出たので禁書庫で遊んでいて死に掛けた。といった事で発表してください」

 

 学園長もさすがにそれはといいた表情をする。

 

「私が本の虫だという事は周知の事実ですから。禁書庫が空いているのに入っていないほうがおかしいでしょう?」

 

 苦笑しながら言う。事実、見たいがために忍び込んでいたからな。

 

「たしかに信憑性はありますね」

 

 この言葉で納得してしまった。

 え? マジで? っていうか本当に周知の事実だったんだ。知らなかった。

 

「では明日、救世主クラスの序列試験を行います。たぶん、リリィが申し出るでしょうね」

 

 あぁ〜、忘れてた。そうだよな。こんな状況になったら確実にリリィが出てくるよな。

大河と戦いたいが無理だな。もう、赤の主になっているだろうから最後に決着をつけるしかない。

こんな事になるんだったらもっと前に本気で戦っておけばよかった。

 

「しかし、明日は学園が賑わいますね」

 

 どういう事だ? カエデの時みたいに内輪だけで済ませるんじゃないのか?

 

「分かっていませんね。革命者が救世主候補になったとあっては王宮からも見に来る人が出ます。それだけ貴方の影響力は大きい」

 

 そんな大きいのか。周りが俺をどう思っているかなんて気にしてなかったからな。いつの間にか有名になりすぎだろ。

 

「興味がなさそうですね?」

 

 何を当たり前のことを聞く。そんなものに興味があったのならこの世界に来てすぐに帯剣の儀を衆前でやっている。

 

「はぁ、本当に分かっていない。貴方が決起すれば現政権すら簡単に崩せるというのに」

 

 すっごく重いため息を吐いている。理解できんな。俺は権力も名誉も欲しいと思わないからな。

 

 そろそろ大河が戻ってくる時間だ。見に行くとするか。この件の終わった後の一騒動は面白いからな。

 案の定、カエデの一緒に風呂に入る発言とリコの大河に対するマスター発言で場は荒れた。

ジャスティとユーフォニアがまた活躍したのは言うまでもないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食の時間。今日はマリーとイリーナはいない。まぁ、朝の一件のため学園に入ることが出来なかった。門番も固いことだ。

 俺は大河と未亜に禁書庫にいたことについて聞かれなかった。

まぁ、大河には俺が戦えることを口止めしてるし、未亜にも当然している。

リコが聞かないのはまぁ、大河が聞かないからだろう。それ以上に信じられないのかもしれないが。

それに最下層で未亜が見た俺は錯覚だと寝ている間に細工しておいた。

だから思い出すことはあったとしても、確証がないからな。大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 今日からリコもこの夕食に加わっている。料理の量はいつもと同じ量だ。つまりリコが増えただけで三人前増えたわけだが。

それでも鉄人ランチγよりも圧倒的に少ない。大河からの魔力供給があるお陰だろう。

 

「蛍火の言ったとおりリコさんもここに来たな」

 

 今はリコが話題だ。セルがよくリコにちょっかいをかけている。ストッパーがいない今日のセルに制限は無い。

といってもそろそろ終盤だな。今のうちに明日、編入されることを伝えておくか。

 

「あぁ、明日から、私。救世主クラスに編入されることになったので。以後良しなに」

 

 あくまでもさらりとなんでもない事のように言う。

その言葉に場が凍る。この後に来る絶叫に備えて俺は耳を塞ぐ。

 

「「「えぇえええええ!!」」」

 

 ぐわっ、耳を塞いでいてもこの威力。恐ろしいな。

 

「え? え? 何で?」

 

 全員混乱している。特にリリィは酷い。まぁ、俺が表に出てくるなど有り得ないと知っているからな。

 

「帯剣の儀も受けていないのにどうやってでござるか?」

 

 カエデが最初に正気に戻り、俺に聞いてくる。まぁ、明日発表されるのと同じように答えておこう。

 

「いえ、今日。学園長に禁書庫の扉が開かれていると聞いたので中に入っていたら、ですね」

 

 その言葉にみんな納得している。俺が本の虫だということだから納得しているのか?

ってリコまで!? 本気で自分のこと考え直さないとな。

 

「あ〜。そりゃ、仕方ないな」

「うん。そうだね。蛍火君だもん」

 

 セルとメリッサが当然と頷く。それで納得してくれるなよ。

 

「あれ、でも。禁書庫の出口には私たちがずっといたのに。どうやって中に入ったんですか?」

「ばれたら困りますから、気配を殺して普通に入りましたけど」

 

 まぁ、それも概ね事実だ。もっともその後、本を見ていたのではなく救世主クラスを見ていたのだが。

 その事実にベリオとリコが驚愕する。

それは救世主クラスの者すら影から襲えば簡単に殺せるということだからな。出来ないが、

 大河、未亜、カエデ、リリィはそれで驚いてはいない。俺の実力の一端を知っているのでこれぐらい当然と思っているのかもしれない。

 

「召喚器を呼び出すって事はかなり危なかったんでろ? どんな状況だったんだ?」

 

 セルが聞いてくる。ふむ、どうやって答えるか。まぁ、この前起こったのことを話そう。

 

「ワーウルフ二十体、スケルトン十体、マジシャンが五体。後、スライムが三十体ぐらいでしたかね?」

 

 あの時はやばかったな。奥義、魔術、投げ物全て惜しみなく使ったからな。もちろん観護は無しの状態だったが。

お陰で何度も武器屋に通ってかなり金使ったよ。

 その言葉にセルが絶句する。なまじ強い分、その状況が絶望的なのがわかるのだろう。

救世主クラスも驚いている。何でだ? 自分たちもそれぐらい戦っただろ?

 

「いや〜。危なかった。半分は倒せたのに後が辛くて」

 

ほんとに途中から戦い方変えたぐらいだからな。

 

「マスター」

 

 リコが少し大河に聞く。事実かと

 

「言っただろ。理不尽なぐらい強いって」

 

 そんなに理不尽じゃないと思うんだがな。まぁ、この世界から言ったら救世主候補と生身でやれるのなんて少数だもんな。

 

「蛍火。それ本当?」

 

 リリィが訝しげに聞いてくる。事実なんだがな。

 

「えぇ。あぁ、召喚器が無いから疑ってるんですね? 来なさい観護」

 

 虚空に手を上げ観護を取り出す。発光が収まった後、白木鞘に収まった刀が現れる。その事に誰もが驚く。

 

「蛍火さん。それ魔力武具じゃないんですよね?」

 

 未亜が聞いてくる。あぁ、未亜は魔力武具しか知らないんだよな。

 

「えぇ。持ってみます?」

 

 未亜に観護を渡す。後で全員に触らせてみるか。その方が観護も喜ぶからな。

 未亜はしげしげと観護を眺めてから掴む。

 

「あれ………なんでだろ? 暖かい。それに懐かしい感じがする」

 

 未亜が戸惑いを隠せないでいる。その有り得ない温もりに。今はおそらく未亜の親とジャスティの親が出ているのだろう。

久々の親子の対面だ。俺は邪魔しないでおこう。他が放っておかないと思うが。

 

「はぁ? 召喚器が暖かい? 未亜。あんた何言ってんの。そんなわけ無いでしょ。」

 

 そういっている。リリィに観護を触れさえる。

 

「………え……?」

 

 感じているのだろう。その懐かしさを。その暖かさを。この無機質なものに確かな人の、親の温もりを感じる。

不思議に思って当然だな。

 

「おいおい、リリィまで何言ってんだ? 貸してみろよ。」

 

 大河に渡る。そして、大河もリリィと同じ反応をする。

 

「………何か懐かしい。そうだ、これは子供のころに感じた……」

 

 大河も同じ事を言う。その様子にリコが訝しげな顔をする。

まぁ、リコは召喚器の成り立ちを知ってはいないが直感で理解はしているだろうからな。

 

「マスター。私にも貸してください」

 

 リコに渡る。リコには感じるのか? リコの親はおそらく神だからな。親の温もりなんて感じたこと無いだろ。

 

「…………………本当に暖かい。どうして?」

 

 リコでも感じたか。まぁ、観護にとってはリコも子供と同じか。その後、ベリオ、カエデ、セル、メリッサと渡った。

全員が観護の温もりを感じたようだ。救世主候補でもないに感じるなんてな。もしかして分からないのは俺だけ?

 全員が触れた後戻ってくる。

 

(感想はどうだ?)

(死んで、またあの子達に触れることが出来るなんて思って無かったわ。ありがとう)

 

 感謝されるいわれは無い。納得させるためだ。

 

「なぁ、蛍火。もしかしてキマイラを倒したのってお前か?」

 

 大河がずっと思っていた疑問を聞いてくる。まぁ、当然だな。一応、嘘ついておくか。

 

「いえ、最下層は危険な気配がしましたからいってません。

それに導きの書は最下層にあると聞いていましたから邪魔するのはいけないと思ってましたしね」

 

 邪魔はしていない。手助けはしたが。

 

「じゃあ。どうして?」

「ちょっと、大河。何の話か分からないじゃない」

 

 リリィが突っ込む。まぁ、その時地上にいたから分からないのは当然だな。大河はその時を事を語った。

 

「おかしな事もあるのでござるな」

「カエデさん。おかしな事で済ませるようなことじゃないと思うけど」

 

 カエデの明らかに軽く見ている発言に未亜がツッコミを入れる。

まぁ、大河なら気絶している間に倒してしまったとカエデは思っているかもしれない。

カエデ……幾らなんでも無理があるぞ。

 

「そういえばあんたって前衛? それとも後衛? どっちになるの?」

 

 リリィが少し考えながら聞く。まぁ、観護無しと有りで戦ったのはリリィだけだしな。

 

「どっちなんでしょ?」

 

 ふむ、一応俺は分類としてはオールラウンダーだ。どっちでも戦える。

個人的には前衛のほうがいいが、戦況を見るなら後衛のほうがいいな。

 

「召喚器の形状は明らかに前衛ですが?」

 

 リコが不思議そうに聞いてくる。まぁ、観護だけなら前衛にしかならないよな。

 

「いえ、どちらでも戦えるんですよ。まぁ、今の救世主クラスでは前衛が少ないから前衛になるんじゃないでしょうか?」

 

 どっちでもいいけどね。戦術的には俺が中距離でどちらにも対応できるようにするのがいいだろう。

まぁ、それはリーダー的な意味合いにもなるので進言しないが。

 

「そっか、残念」

 

 未亜が残念そうに言う。師匠である俺の戦い方を間近で見たかったか? それとも………。

 

後衛までできるのか

師匠、別に近距離で勝てばいいだけでござるよ!!

 

 大河が少々、疲れた表情をしている。あぁ、しまったな。失敗した。うーん。実力の距離を保つのって難しい。

 というか俺と大河が戦った場合はいい勝負になるなんだけどな。

 

「蛍火さん」

 

 ベリオが神妙な顔をして俺に尋ねてきた。厄介ごとの予感。

 

「召喚器を手に入れてもう一度聞きます。貴方は大切な人と千人の囚人が人質にとられているとします。

どちらか一方しか助ける事が出来ません。貴方ならどちらを助けますか? もちろんその時は誰の助けも無しの状況です」

 

 それはあのときの再現。しかし違うのは逃げることは許されない。それにベリオの片方の目が俺を観察するように見ている。

おそらくパピヨンが出ているな。これでは嘘もつけない。はぁ、仕方ない。

 

「あの時と変わりません。原因の殲滅。それが最優先です」

 

 その言葉に全員が驚く。大河も期待していたのだろう。俺が大河と同じ事を言うことを。

しかし、表舞台に出てきたとはいえ、依然俺は裏の存在だ。甘い幻想を抱くなどできはしない。

 

「あなたは!!」

 

 ベリオが糾弾する。それは救世主候補として取ってはならない選択肢。いくつかある中で人として最低の選択肢。

 

「ではお聞きしますが。その状況で本当に原因は人質と私を逃がしてくれるのですか? その確約は出来ているのですか?

そんな事は分かりはしない。だからこそ私は両方を助けられる可能性のある選択肢をとる。

それが両方助ける上での幾つかある選択肢の一つ、そしてもっとも愚かな選択だということを知りながらもね」

 

 一応つなげておく。大河が失望するのは避けたいからな。

 

「ですが! それで全員が助かるとは限りません!!」

「えぇ。ですが、零ではない。なら、私はそれに賭ける」

 

 力強く答えを出す。それでベリオは引き下がるしかなかった。

 その後、気まずい雰囲気のまま食事が終わった。だから、この話題はしたくなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらずの食後の一服。今日は未亜も疲れてるだろうから訓練は無しだ。

それでもここで吸ってるのは外で吸っているのと、人を待っている。

いや、正確には俺に会いに来ると分かっているからここにいるが正解か。

 

「相変わらず煙草吸ってるんのね」

 

 リリィだ。先に来たのはこっちのほうだったか。まぁ、もう一人はリリィの後に来ると分かっていたが。

 

「えぇ。もう、私の一部ですから」

 

 もうこれ無しの生活など考えられない。まったく中毒性が高い。

 

「ねぇ。あんた。斥候としてずっと活動するんじゃなかったの?」

「状況が変わりましたから」

 

 それだけを言う。それ以上は未来にかかわる話だ。言えるはずが無い。

 

「そう、……どうせあんたのことだからそれ以上は何を聞いても口にする気は無いんでしょ?」

 

 よく分かっている。それほど付き合いが長いとは思っていなかったんだがな。

 

「あんたはベリオがさっき聞いたように大切な人と囚人千人、どっちかした助けられない状況で敵の殲滅を優先するの?」

 

 リリィが不安げな表情で聞いてくる?ん?どういうことだ。

 

「当然です」

「じゃあ、もし、私が囚人千人だったらどっちを取る?」

 

 おかしな事を聞く。まぁ、普通に答えよう。

 

「その場合はシアフィールドさんの救出優先ですね」

 

 この答えは当然だ。それが俺の本当の役割。それを違えることは出来ない。

 

「え? ………さっきと答えが違うじゃない!!」

 

 リリィがその違いに怒る。まぁ、おかしいよな。普通は。

 

「シアフィールドさんは特別ですから」

 

その言葉にリリィは顔を赤くしてどこかに行ってしまった。

ん? もしかして俺とんでもない事言った?

 

 

 

 

 

「おー、かゆい、かゆい。あの娘が持ってる恋愛小説じゃないんだから勘弁して欲しいね」

「おや、パピヨンさん。こんばんは。もう会うことは無いと思っていたんですが」

 

 俺の後ろにはベリオが立っていた。しかし、表情が違う。そして何よりも眼が違う。俺と同じ夜の住人の目だ。

まぁ、それでも所詮夜に過ぎない。

だが、あの眼を見ると本当にベリオなのか悩むな。

 

「それにしてもさっきのセルフは言わないほうが良かったですかね?」

「そんな事はないんじゃないかい? リリィも喜んでたしね。それに女ならあの言葉を聞いてうれしく思わない奴はいないさ」

 

 そういってニヤリと笑う。大河に似ている笑い方だ。ベリオとは似ても似つかない。

 

「おや、なら貴女も私に言われたら嬉しいですか?」

 

 戯れで聞いてみる。するとパピヨンはとてつもなく嫌な顔をする。

例えるなら青汁をはじめて飲んだときのようなしかめっ面だ。

 

「いえ、答えなくてもその表情で分かります。というか女なら誰でも嬉しいんじゃないんですか?」

「相手によるさ。あたしはあんたに言われても絶対に喜べない。どんなにきれいな言葉を並べられてもね」

 

 そんなものか。大河当たりにいわれたら喜びそうだ。

 

「さて困りましたね。シアフィールドさんに変な感情を持たれてしまったとなると」

「普通は男冥利に尽きるんじゃないのかい?」

 

 パピオンがおかしな事を聞く。あぁ、確かに普通の男ならな。だがここにいるのは抜け殻で屍だ。そんな感情邪魔にしかならない。

 

「私にはそんな感情が無いですからね。邪魔になるだけです」

 

 その言葉にパピヨンが驚く。怪盗である彼女にも理解できないものなのだろう。

 

「嘘言うんじゃないよ。恋愛感情が無い? そんな人間いるはずが無いだろ?」

 

 そんな事はない。子供のころに愛情を与えられず育った人はそれを理解できないこと多い。

まぁ、それは知らないだけであって俺のように無いわけではないのだろうが、

 

「いえ、無くなりました。私が一度目に死んだとき一緒に死にましたから」

 

 そう、一度目に死んだ時、その感情は完全に死んだ。元々少なかったものだ。

蘇生したときにかわりに死んだのだろう。そして、それが死んだと同時に色々なものを捨てた。不要だったのだ。

 

「ふふ、つまらない話でしたね。それで何を聞きに来たんですか?

ベリオさんからの聞いているのとさっきの盗み聞きでもう、聞きに来ることは無いと思っていたんですが」

 

 リリィと話す前からパピヨンの気配を感じた。ここに現れる理由が感じられない。

そういえばベリオは起きているんだろうか? 約束は守るだろう。

 

「そうだね。でも、もう一度聞きたい。何で表に出てきた? 運命の繰り糸に操られる道化さん」

 

 おや、戯れにしか言っていないことを覚えているとはな。

 

「そうですね。運命によって強制されたが答えですか」

「相変わらず具体的なことは何も言わないんだね」

 

 当然。メインキャストに漏らすほど俺は落ちぶれてはいない。

 

「まぁ、いいよ。これから何か起こるってことだけはわかったから」

 

 パピヨンがどこか楽しそうに笑う。しかしいいのか? お前たちは忌まわしき過去と対面しなければならないというのに。

あぁ、そういえばもう一つ聞いておかなければ。

 

「私のプライドは盗めましたか?」

 

 あれからいくつか知られると困る事が増えたからな。どれ位知られているか確認したい。

 

「それがさっぱりだね。あんたのプライドを傷つけるような物は一つも盗めちゃいない」

 

 はぁ、とパピヨンが心底疲れたとため息をつく。

恐らく、幾つか秘密は知られているが脅迫するほどのものは知っていないということか。

っていうか俺に脅迫されて困るようなネタってあったっけ?

 

「まぁ、いつか掴むさ」

 

 パピヨンが夜の影に消えていった。

 それにしてもパピヨンの言った通りになったな。ヒーローである大河がヒールである俺に挑む。物語としては出来すぎだな。

 

 もう、未来は誰にも分からない。あらゆる可能性を秘めた暗闇の未来。

 一筋の光が差すかどうかもわからない未来。

 だとするのなら俺は………、

 

 

 

 


後書き

 蛍火の予想、それは情報があまり集まっていないことと、

 蛍火自身が分からない状況を楽しんでいる節があるから、現時点では分かりません。

 しかし、それでも彼はこの世界の核心に辿り着いてしまう。

 彼はそういう役割ですから。

 

 

 

 

 さて、前回と前々回、さらにその一つ前のまとめ編。

観護(結局何も分からなかったじゃない)

??「蛍火が推測しただけ」

 まぁね。蛍火が推測しているがそれが全て正しいことじゃないし。

観護(本当に分からなくなったわね)

 そう、この話の題名でもあるように漸くこれから本当の物語が始まる。ある意味でこれまでは序章といっても差し支えないんだ。

??「随分と長い序章」

 まぁ、実際は読んでくれてる人の感じ方しだいだけどね。

観護(でも、随分と蛍火君が強くなりすぎてるわね。下手すればっていうか、確実に読者が離れていくわよ?

折角コピーさんや、直正さんが感想をくれるようになったって言うのに)

 うん、分かってる。かなり強引だって言うことも。けど、こうしないと考えてる結末に向かえないんだよね。

??「という事は蛍火の強さも何かの布石?」

 言ったらそれこそ意味がないよ。ただ、全ては一つに繋がっちゃう。

観護(蛍火君の強さって成長って言うよりも進化に近い気がするわね)

 ノーコメント

??「駄作者」

 うっ、この話付近を送る限りそれを否定できない。

観護(あそこまで強くなっちゃった蛍火君ってやっぱり最強?)

 いや、蛍火にかなり力が加えられたと同時に大河も原作よりもさらに世界から力を与えられてる。

ステータスを書いたら大河のほうが上になる。

それに蛍火には厄介な特殊能力が付いてるからね。

??「そうなの?」

 うん、まぁそのうち詳しく書くよ。他には?

??「蛍火はEXスキルを持つことになってる」

 うん、でもアレを大河には使えない。そんなもの使おうものならその前に首をはねられるからね。

攻撃力だけを追い求めた伎だからね。欠点だらけの使用者にも相対者にもジョーカーとなりえる技なんだ。

観護(こじつけよ。まぁ、それはさておき、次回予告にしましょう)

??「次回は変則的な帯剣の儀。普通に終われるの?」

 さぁ? 蛍火って何気にトラブルの中心だし。では、次のお話でお会いいたしましょう。





遂に表に出ざるを得なくなってしまった蛍火。
美姫 「今まで裏で色々と動いていたのにね」
これでこっそりと動くのが難しくなるかも。
美姫 「変わってしまった歴史の中、蛍火はどうする」
次回の帯剣の儀も楽しみにしてます。
美姫 「何かが起こりそうな予感〜」
ではでは。



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