救世主クラスは学園長室に集まっていた。リリィも体調不良で休むようなことも無く出席している。

 学園長が救世主クラスに召喚陣を元に戻すために禁書庫の最下層にある導きの書を取ってきて欲しいと嘆願されている。

そしてこれが救世主選定となることを伝えられた。

 

 

 

 

 

第二十六話 禁書庫での攻防

 

 

 

 

 

 

 

 導きの書を取って来いか……。

それにしても懸念事項が多すぎるな。未亜、カエデ、リリィの成長が本来より進んでいる。

最下層にはリコと大河だけ行って欲しいのだが。見守りながら邪魔するか。

 ちなみに俺は学園長室の中で覗き見している。いつものように監視魔法が使えないからな。

今使っているのは気配を殺しているのと隠蔽の魔法を二つ使っている。これは簡単には敗れない。

違うプロセスのものを用意しているので片方を解除しても見つからない。

両方に秀いたものでなければ、まぁ、師匠みたいに勘の一言で俺をピンポイントで見つけるようなのも例外としているが。

 ダリアがきて、リコがすでに禁書庫に入ったのを全員に話すと救世主クラスは急いで禁書庫に目指していった。

 それを伝えたダリアも、そしてずっといたダウニーも用事があるのか部屋から出て行った。

 

「蛍火君。いるのでしょう? 出てきてください」

 

 学園長は俺がいるほうとは見当違いの方向を見ながら告げた。見つかっていないということか。

それにしてもよく、俺がいるって分かったな。

 

「御身のお側に」

 

 とふざけて気配を元に戻す。もちろん学園長の真後ろに、

 ばっと、学園長が俺から距離を取る。驚かせすぎたか?

 

「悪ふざけが過ぎます」

「ははっ、すみません。それでどのようなご用件で?」

 

 学園長は姿勢をいつものものに戻し、慎重に言葉を選ぶように行った。

 

「今回の召喚の塔爆破の件は貴方にとってもイレギュラーな事態のようですから、その修正のために動いてもらいたいのです」

 

 なるほど、確かに驚いてた振りをしていたから勘違いしても仕方ない。

 

「いえ、今回の出来事は起こるべくして起こった。通常の流れのものです」

「はっ?」

 

 学園長が呆けている。久しぶりに見たな。

 

「それはあの場でしたことは演技だったと?」

「えぇ」

 

 俺の言葉を聞いた後、学園長の身体が震える。あっ、あれは明らかに怒りを抑えている震え方。

 

「貴方は!! 私がどれほど心配したか分かっているのですか?これからどうしようか真剣に悩んだんですからね!!」

 

 学園長が怒鳴り散らす。おいおい、そんな事したらダウニーとかが来ちまうぞ。

 一通り言い終えて収まったのか、肩で息をしている。年だな。

 

「今、何かとてつもなく不愉快な事を考えませんでしたか?」

 

 やべぇ、こめかみが今までにないほどに青筋が浮かび上がっている!!!?

最初に考えたときにもう二度と考えないって思ってたのに。

失敗だ。というかアヴァターに住む女はマジ怖ぇよ。

 

「で、何故わざと取り乱したのですか?」

「えーとそのほうが面白かったから?」

 

 学園長のこめかみにさらに青筋が浮かぶ。そろそろ終わりにするか。

 

「それは冗談で、そうしたほうが良かったからです。

あそこには学園長以外の人もいましたし何も反応をしていなかったらさすがに怪しまれますからね」

 

 そう、特にダウニーとか、ダウニーとか、ダウニーとか。

 

「なるほど、確かに貴方のとった行動は適切だった用です。しかし、教えてくれても良いでしょう」

 

 納得はしてくれた。しかしなぁ、教えたりしたら対策立ててただろ?

 

「この事件は救世主候補の覚悟をより固めるためです。退路が絶たれたならここで戦うしかないですからね」

 

 それに大河が赤の主に、未亜が白の主になるための必要なプロセスだ。

 

「本当に貴方はよく考えていますね」

「私は唯なぞっているだけですから」

 

 そう、ゲームのストーリーを辿っているだけに過ぎない。まぁ色々とイレギュラーなことは起きているが誤差の範囲だと思う。

とゆーか思いたい。

 

「そうでしたね。それではこれから」

「救世主候補の影からの護衛ですね」

 

 学園長の言葉を遮って言う。早く行って邪魔をしないと危ないしな。

 

「その通り。貴方の本当の仕事に戻ってもらいます。扉は大河君たちが開けていると思いますのでそれを使ってください。

中は危険ですのでくれぐれも気をつけてください」

 

 学園長が気を使ってくれる。中の危険性は良く知っている。しかし、気をつけてと言われるなんて思ってなかったぞ。

 

「分かりました。それでは……」

 

 最初と同じように気配を殺して出て行った。まぁ、いたずらだ。

 

 

これより物語りは急加速する。反逆の剣持つものよ、最後までこの運命の波にのまれず、先頭にたって乗り越えきれるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁書庫に入るといつもとは異なる空気を最初に感じられた。獣たちの喜びを上げる声と様々な攻撃音。

入るものによってここは空気を変えるようだ。俺のときは獣の恐怖しかなかったからな。

 気配を殺したまま下のほうへ向かって走る。その方が獣たちに出会わず効率がいい。途中で誰ともすれ違うことはなかった。

 

ちっ、予想ではこのあたりでカエデとすれ違う予定だったのだが。

 その一つ下の階層でリコを除いた救世主クラスを発見する。まだ、それほど下には潜っていなかったか。

 全員がカエデを取り囲むようにしている。言葉の断片からカエデがベリオを庇って毒を受けたようだ。

 

 しかもここの毒は特殊で通常の解毒魔法では解毒できない。

 どうやら、カエデが引き返すことで話が落ち着いたようだ。ふむ、一応、カエデが無事に地上まで帰れるか見ていよう。

ここの事は熟知しているが万が一ということもある。それに途中で倒れられても困るしな。

それに大河たちのペースから予測すれば裏技を使えばすぐに追いつける。

 

 カエデが地上に戻り医務室まで行ったのを見た俺は簡易召喚陣を使い自身を逆召喚する。

恐らく大河たちがいる階層よりも少し上につくとすぐに気配を探る。予想通り大河たちは二つ下の階層で獣たちと戦っていた。

 大河たちがいる階層までたどり着いてもまだ戦闘中だった。

 

 初めての実戦、しかも訓練もしたことの無い屋内での戦闘。その二つが大河たちに苦戦を強いさせている。

特に大河は屋内での三次元を使った戦いがまったく出来ていない。そして後衛組みも遮蔽物の多さに戸惑っている。

カエデがいたならばもう少し変わっていただろう。カエデは忍者だから屋内での戦いも訓練していただろう。

連携はこの前のタッグマッチが効いたのかそれなりに出来ている。ただ、前衛が大河一人だけということもあってかなり不安定だ。

それなりの人数で建物を攻めるのなら前衛が最低でもう一人欲しい。そうすれば前衛が休みながら攻撃できる。

そういう点では大河は良くやっている。

 

ん? ベリオが少し、焦っているな。発汗も多い。毒にやられたのを隠しているか。

ならここで未亜が下がってくれるだろう。

 戦闘が終わって少し話をしているとベリオが毒を受けている状態だと全員が漸く気付いた。

 

「ベリオ待ってて。今解毒するから」

 

 そう言い、リリィがベリオの患部に魔法を施す。

ふむ、ここではまだ回復系統の魔術は使えなかったはずだが、俺が介入したためか。

 

「リリィ。あなた確か回復系は使えなかったはずじゃ?」

「どっかのお節介焼きのせいでそういう風に考えるようになっただけ」

 

 それはやはり俺なのだろうか?

 

「くっ、駄目。私が使える魔法じゃ解毒できない」

 

 リリィがベリオの解毒を諦める。ここの毒はカエデが受けたのと同じように解毒魔法では直せないものが多い。

今回もそれだったのだろう。

 

「ごめんなさい。ベリオ」

「そんなリリィが誤るような事じゃないです。私が未熟だったから」

 

 解毒できないことを心底悔やむリリィ。それを自らの責だというベリオ。あいつららしいがここは敵地だぞ?

気を抜いていい場所ではない。

 

「急いで医務室に連れて行かないと」

「俺が連れて行く」

 

 大河が真っ先に手をあげる。女の子には優しい、いや甘い大河が手を上げるのは当然だろう。

まぁ、それ以外にもしちゃった仲だしいろいろと気を使っているのかもしれない。

 

「待って! 今までのことから考えてこれからも敵がさらに強くなっていくわ。一瞬たりとも気を抜けない。だから抜けるとすれば…」

 

 それ以上は言えない。抜けるとすれば後衛。なら後は未亜とリリィ。

しかし未亜は実力としてならリリィの下だがサポートする能力としてはリリィを上回る。

 だからこそ、リリィは未亜といえない。その事を理解してしまったため。

 

「私が行きます。私じゃ一人で戦えないし」

 

 未亜が手を上げる。その事に大河とリリィはほっとする。何だかんだ言っても救世主になることを諦めていない二人だ。

その上大河はシスコンだし。

 

 未亜はベリオを背負い、優しく声をかける。

 

「ベリオさん、暫らくの間、我慢してね。二人とも気をつけて」

 

 未亜の言葉に大河とリリィは力強く頷く。それを見た未亜は来た道を戻り始めた。

ここは帰るのを見守るべきだが後数下層で二人はリコと出会う。それにそこでリリィに諦めてもらわなければならない。

大河たちを見ていなければならないが未亜たちに何かあったら学園長と観護に何を言われるかわからない。

 仕方ない。俺が送るか。幸いベリオは気絶している。未亜だけなら誤魔化せる。

 気配を消すのをやめ、未亜の前に出る。

 

「え?」

 

 突然現れたことに未亜がかなり驚く。おいおい、そんな風には鍛えてないぞ。

 

「当真さん。ここは敵地です。気を抜かない。それに私という幻影を映し出しているだけかもしれない。なら最初にすることは?」

 

 とりあえず、説教しておく。後になってから言っては効果が無いからな。

 

「あっ、はい」

 

 急いでベリオを床に置く。それでも丁寧にだったが。そしてジャスティを構える。

 

「遅いです。もっと迅速に」

「ごめんなさい、先生。ってなんで蛍火さんがいるんですか!!」

 

 と未亜がかなり声を荒げる。少し怒っているな。てゆーかノリツッコミですか。

 

「私が蛍火だという確証はないというのに武器を下げるの駄目ですよ?」

「こんな場所でそんな事言うのは蛍火さんしかいませんよ」

 

 未亜が苦笑しながら言う。まぁ、俺のコピーなんぞ現れたとしても俺の常識外れさまではコピーできないだろうからな。

 

「それでなんでこんな場所にいるんですか?」

 

 少し口調がきつい。野暮用ですっていった途端に矢が飛んでくるな。普通にごまかすか。

 

「用事です。どうしてもはずせない大事なね」

「それはいったい?」

 

 未亜が追求してこようとするがそうはさせない。早くしないとベリオに後遺症が残るかもしれない。それほどにここの毒は危険だ。

 

「そんな事は後です。それよりもトロープさんの方が危険です。私が何とかしましょう」

 

 簡易召喚陣を描く。行き先は医務室で、未亜も送れるように書いておく。

 

「これは?」

「簡易の召喚陣です。これであなた達を医務室まで逆召喚します」

 

 その言葉に未亜が噛み付く。

 

「私は送らなくていいです。それより蛍火さんを手伝います」

 

 決然と未亜が言い放つ。別に戦闘する予定内からいらないんだよな。

それに未亜も結構疲労している。少し回復させてからもう一度来させるべきだろう。

 

「その疲労している身体で?」

 

 その言葉に未亜の体が震える。自分でも良くわかっているのだろう。大河は周りに合わせようとしても突っ走ってしまう奴だ。

その大河のサポートをずっとしていきて疲れないはずが無い。

 

「私を甘く見ないで下さい。そんな身体では当真はもとより私のサポートすらきついでしょうからね。少し、休んでください」

 

 それは嘘だ。普段、共に訓練している俺のほうがサポートしやすい。

 俺の言葉にしぶしぶと未亜は従う。しかし、何か思い当たったのか顔を上げて。

 

「じゃあ、少し休んだら手伝っていいんですね?」

 

 戦闘の指導を要求したときを同じ目で俺を見てきた。こうなった未亜を止める術を俺は持たない。

 

「はぁ、言っても聞かないでしょう? かまいませんよ」

「やった」

「しかし、私を見つけることが出来たならです」

「そんなぁ」

 

 未亜が絶望的な声を出す。まぁ、気配を殺した俺を見つけるなど今の未亜では不可能だ。未亜が何か言う前に逆召喚する。

 

 

未亜を見送った後、本棚に近づき一冊の本を取り出す。その本を使いこの階層以上の獣の出現を止める。

こういう細工がこの禁書庫にはいたるところにされている。これで未亜が降りて来る時には獣は出現しないだろう。

さて、大河たちに追いつくとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐに大河たちに追いついた。人数が減ったこともあり進む時間はおそくなったがそれでも確実に前に進んでいった。

 数階層下にいくと轟音と眩い光が感じられる。その視界の中に小さな白い女の子の背中が見えた。追いついたか。

 

「リコ!」

 

 その背中に大河が声をかける。リコは驚いた表情で振り返り、大河とリリィを見てさらに驚く。

 

「大河さん。どうしてここに?」

「リコが心配だったかに決まってんだろ?」

「心配……?」

 

 その言葉をリコは理解できていない。今のリコは確実にここに来た二人よりも強く、余力を残している。そこまでして貰う義理が無い。

 

「それと導きの書を手に入れるためにね」

「でも、ここに来るのは危険なのに……」

 

 確かに危険すぎる。特に実戦経験もない者がこれるような場所ではない。

 

「確かに、散々な目に会ったわ。でも、それらを突破してきたのよ。みんなで」

「……みんな?」

 

 不思議そうに二人を見るが大河とリリィ以外には見当たらない。俺は当然除外だ。

 仮にみんなと言うのなら他のメンバーもいるはずだ。だが、他には見えない。

少なくともリコの視点からすればみんなというのは見当違いだ。心底不思議な表情をするリコに気付いたのか大河が説明する。

 

「まぁ、他の連中はリタイアしちまったからな。未亜は負傷したベリオを地上に送って今頃はこっちに向かってんじゃねぇか?」

 

 大河の言う通り、今未亜はカエデが引き返した地点まで来ている。守護者と戦うまでには間に合うだろう。

 

「でも、これでリコも加わったし、何としても導きの書の所まで行くわよ」

 

 リリィの言葉に対し、いつもと代わらぬ表情で答える。

 

「余計なこと……しないで」

 

 その言葉に大河とリリィが驚く。まさか、リコからそんな言葉が飛んでくるとは思わなかったからだろう。

だが、そんな二人の心中を知る由も無いリコは淡々と続ける。

 

「召喚陣は私が直すから、二人は上で待ってて」

 

これに対し、リリィが真っ先に反応を見せて叫ぶ。

 

「冗談じゃないわよ! 導きの書を手に入れた者は、救世主になれるのよ! リコにだけ、美味しい所を持っていかれてなるもんですか!」

 

 怒鳴るリリィ。俺の言葉を理解したとはいえそれが心に浸透するには時間がかかる。

そして一度決めたことを曲げられるほどリリィは柔軟ではない。踏みしめていったもののためにも彼女は引けないのだ。

 そんなリリィに対し、リコは淡々としていた。

 

「…違う」

「何がよ!?」

「あれは……、そんな…」

 

 リコからすればそれは精一杯の優しさ。事を知らないものに対する慈悲。

しかし、何も知らない者にはそれは傲慢にしか見えない。

 

「くそっ」

 

 リコが続きを何か話そうとすると向こう側から唸り声が聞こえてきた。

それは敵意。全てを排除しようとするそれだけが感じられる。

その声に反応して三人が構える。

 

「話は後だ。まずはこっちを片付けようぜ!!」

「……そうね。話は後ですればいいわ」

 

 現れる敵、敵、敵。ここまで多いとうんざりして来る。強いのなら観戦のしがいもあるのだが相変わらず物量で着ているだけだ。

つまらん。

 

 

「ブレイズノン!!」

 

リリィは左手を前方へと向け、ブレイズノンを放ち獣の目隠しをする。

 リリィの目暗ましの間に大河は獣に近づき、態勢を崩しているものから倒していく。

リコも大河の行動を見据えて、トラップを置き大河やリリィの攻撃しやすい位置に獣を誘導する。

大河を援護するようにリコの魔法が飛び、二人の攻撃が届かない場所へは、リリィの魔法が飛ぶ。

今までにない程居たモンスターの群れは、三人の前にその数を減らしていく。

 

「これで、終わりよ!」

 

最後の一匹へと、リリィが叫びながら放った雷撃が決まり、リリィは流石に疲れたのか大きく肩で呼吸を繰り返す。

 

「はぁ〜、はぁ〜。ど、どうよ」

 

流石の大河も肩で息をしている。ここまで連戦で疲れないほうがおかしい。

ん? この後、すぐにモンスターが出てくるはずなのだが、気配を感じない。困ったな。

ここでリリィにリタイアしてもらわなければならないのだが。

 

仕方ない。

俺は新たに獣を出すために本に触れる。

 

「う、嘘!?」

「ちょ、待ってくれよ」

 

驚いて呟いたリリィの言葉に続くように、大河も愚痴のような事を口にする中、リコは僅かに眉を顰める。

 

「そう、……エル、本気なのね……。」

 

リコが呟く。ごめん、本気なのはどっちかって言うと俺。

たしかに学園長は本気だが、それは千年前の話だ。

今はサポートに回っているが全盛期の頃に作ったこれには手を出せなかったのだろう。

 

リコの外見はそれほど変化はないが、魔力の消費は激しい。

まだ、持ちそうだがこのままでは後、二十回も戦闘をしないうちに倒れてしまうだろう。

リコの呟きはすぐさま響いたリリィの声に掻き消される。

 

 

いつの間に現われたのか、リリィのすぐ傍にまで近づいていた2メートルほどの大きさの骸骨が、手にした骨を鈍器代わりにしてリリィへと振り下ろす。

咄嗟に身を翻してそれを躱そうとするが、間に合わず、そのまま数メートル飛ばされる。

 

「リリィ!」

 

大河は思わず声をかけてしまうが自分の目の前にもモンスターが迫っていることを感じすぐさま構える。

トレイターをナックルに変化させ、モンスターの群れに突っ込む。

その一撃で蹴散らしすぐさま剣に戻してモンスターを後ろ行かせないようにする。

大河が前方の敵を一手に引き受けている間に、リコは後方に現われた骸骨を雷の魔法で倒し、リリィの元へと行く。

だが、リリィはリコの援護を受け取らなかった。

 

「リコ! 私にかまってる暇があるのならさっさと敵を殲滅するのよ!!」

 

リリィも肩をかばいつつも戦線に復帰し、敵を蹴散らしていく。

最後の一体を大河が倒し、大河とリコがリリィの元へと集う。

リリィは戦いが終わったことによりアドレナリンが切れたのか、痛みに顔をしかめながら肩を押さえていた。

 

「くっ」

「……動かないで」

 

リコはリリィをそっと横たえると、さっとリリィの様子を調べる。軽く全身を触り手に伝わる感触に顔をしかめる。

 

「…左の鎖骨とアバラが折れています」

「致命傷じゃねぇけど、戦闘続行は無理か」

「はい。すぐに帰さないと……」

「…私なら、まだまだ、大丈夫よ」

 

言って立ち上がろうとするリリィ。そんなリリィに大河は呆れてしまった。ここに来るまでにカエデやベリオに言った言葉を忘れているのだろうかと。大河が強い口調で言う。

 

「そんな状態で戦ってどうするんだ? 下手をしたら、死んじまうぞ。リリィ、よく考えろ。

大切なのは、書を取りに行く事なのか? 世界を救う事なのか? どっちかなんてお前が一番分ってるだろ?」

「……うっさいわよ、バカ大河。私は、まだ戦える、のよ。」

 

 とは言っているが明らかに苦しそうだ。話すことも普通に出来るしはずだ。

遠目の俺から見てもリリィは明らかに戦闘続行は不可能だ。

 

「お前なぁ。今のこと蛍火に伝えたら確実に説教ものだぞ? 一時間は確実にな。あいつの説教は効くぞ?」

 

 その言葉にリリィは顔をしかめる。俺が最初にリリィとあったときの事を思い出したのだろう。

 

「はぁ、傷を負った私を守る為に、アンタたちを危険にさらしたくなんてないわね。

カエデやベリオにも言ったことだし、自分も守らないといけないか。分かったわ。

けど、ちゃんと導きの書は持って帰ってきなさいよ!」

「はっ!俺を誰だと思ってるんだ? 当真大河様だぜ?」

 

リリィを安心させるように尊大にニヤリと笑う。

 

「…リコ、このバカのフォローをお願いね」

「…………分かりました」

 

 それが功をそうしたのかリリィはあっさりと引き下がった。嫌味を言うのも忘れていなかったが。

 リコも何気に大河のことを馬鹿と認めていることに大河は少し落ち込んでいた。

 

「では、逆召喚で送ります……。エロヒーム ヒーエット モツァー」

 

リコはそう告げると、リリィを送り返す為の逆召喚を唱える。数瞬後には、そこにはリリィの姿はなかった。

 

 

 

 


後書き

 今回もあくまでも裏方に回った蛍火。

 まぁ、それでも未亜を助けたり、リリィに負傷させるために暗躍したりと。

 卑怯くさいですが。それが蛍火ですから。

 リコの優しさ、でも届かない優しさほど無意味としか言いようがないですね。

 しかし、それでも伝える意味はあると思います。

 

 さて、最初の方で蛍火が物語は急加速するとかいってますけどそれはあくまでも蛍火が思っただけの言葉ですので。

 

 

 

観護(シリアスなはずなのに、所々にギャグっぽいものが……)

 いやー、さすが蛍火だね。

 さて、今回は見事に裏方に回った蛍火。本来の歴史にするために手段は選ばない。本当に蛍火だよ。

観護(まさか、リリィが怪我をしたのが蛍火君が黒幕だったなんて)

 誰も思いはしないだろうね。

??「でも、未亜お姉ちゃんに姿を見せちゃった」

 それは、まぁ蛍火はもう一つの契約のために仕方なくだよ。ここでさらなるイレギュラーが起きたらそれこそ終わりだからね。

観護(でも、やっぱりリコは待ってたのね)

 うん、本当に数えるのも愚かしいぐらいの時間をね。さて、次回予告

??「ついに、導きの書の階層まで来た大河、リコお姉ちゃん、未亜おねえちゃんの三人」

観護(その前に立ちはだかる影。ってゆーか十五話で何かは言っちゃってるけどね)

 それに対して三人はどのような作戦を立てるのか?

 では、次の話でお会いいたしましょう。





未亜に口止めしとかないとな〜。
美姫 「流石にそこまでは気が回らなかったのかしら」
もしくは、どうでも良かったか。
美姫 「それのような気もするわね」
だな。ともあれ、いよいよ大河たちは導きの書の前へと。
美姫 「次はどんなお話になるのかしらね」
うんうん。蛍火は手を出さないとは思うけれど、予想外の出来事が起こるかもしれないしな。
美姫 「次回もとっても気になるわね」
続きを楽しみに待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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