今日も、大河と未亜とトレーニングした後、観護を振る。

 

(今日はリリィとのデートなんでしょ? ちゃんとした格好しないとだめよ)

 

 呼び出して即効、そんな事を言われた。これから鍛錬なのに真面目にして欲しい。しかも話す内容がおばさん臭い。

 

(デートじゃない、買い物だ。それと鍛錬中だ。話しかけるな)

(まだ、始めてないじゃない。でっ、でっ。ちゃんとした服装はあるの? 

リリィの事いらないって言ってたのに手を出すなんて。しかも三人目。ダリアちゃんでしょ、マリーちゃんでしょ。

このスケコマシィ)

 

 なにが楽しいのか声は弾んでいる。それはもう、井戸端会議で騒いでいるおばさんだ。しかも、何でスケコマシなんだ?

たしかにダリアとマリーとは買い物に行ったが。それがどうしてスケコマシに繋がる。

 さんざん言われ、ろくに観護での訓練は碌に出来そうに無いので小太刀や飛針を使っての鍛錬に変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十五話 ある意味で平穏なデート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九時ごろに切り替え、一度風呂に入ろうと思って寮に戻っていく途中、リリィとの待ち合わせ場所の広場でリリィを見かけた。

 妙にめかし込んでいて、トレードマークのポニーテールを下げて服もいつもと異なり御しとやかな服装をしている。

そわそわと周りを気にしながら待っている姿はいぢめたくなるな。

しかし、何故マリーと同じような反応なんだ?

 

 まぁ、取りあえずは風呂だな。

 

 

 

 俺が来たのに気付かず、まだ待っている。なんだか不機嫌だ。時間通りに来たはずなんだが。

 

「もうっ、遅いわねアイツ! 寝坊してるんじゃないでしょうねっ!?」

 

 リリィは気がついているだろうか。今の彼女の言動は彼氏を待つ女の子そのものだということに。

さて、ご機嫌斜めなお嬢さんにご挨拶しに行きますか。

 

「お嬢さん。今、お暇ですか?」

 

 ナンパ風に話しかけてみる。今まで一度しかした事はないがこれでいいのかね。

リリィはまたかといった感じで俺に方を向く。俺だと確認して少し安心した。

 

「彼氏と待ち合わせですか? 女性と待ち合わせて遅れるなんて不届き者ですね」

 

 手が震えている。男に声を掛けられて怖くなっているわけではないだろう。なら、考えられることは一つ。怒ってる!? 

 手に魔力の収束を感じられた。ちょっ、ここで魔法を撃つ気ですか!?

 

「あはは、冗談です。怒らないで下さい」

 

 冗談といったが遅かったようだ。もうすでに構えている。もしかしてからかった内容が悪かったのか?

 空を飛びながらそんな事を考えていた。人って飛べるんだな。

 

「冗談だったのに酷いですよ」

 

 俺は普通に着地した。怪我らしい怪我は無い。よく師匠に吹っ飛ばされたからな。

リリィはまだからかった事に腹を立てているようだ。俺を気にせず先に進んでいる。

 

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

 

 必死に謝る。ここで機嫌を直してもらわないと王都に着いた時、痴話喧嘩をしていると思われてしまう。

えっ? すでに思われているだって?

俺もその事には気付いているがここより目立つところではしたくない。

 

「それにしても随分とめかし込んでいますね。学園長にデートだとでも言われたのですか?」

「ななななななっ」

 

 随分と動揺している。やはり昨夜の声はそうだったのか。学園長、何か勘違いしていないか? 

俺にその気はまったくというか、有り得ないぞ。

 

「これは違いますよ。デートという物は両者が好意を寄せていて始めて成り立ちますから」

「そうなの? お義母さまはそうとは違うように言ってたけど」

 

 義母のいうことは正しいと信じているのだろう。彼女にとって学園長は育ての親でもあり、尊敬の対象だからな。

 

「少なくとも、私が居た場所ではそう言われていました。ですから、あまり気負わないで下さいね」

 

 俺の言葉で一気に肩の力が抜けた。彼女にとっては初デートになるからな。

純情なリリィの事だ。昨夜は眠るのが遅れて、朝は朝で服選びに時間をかけていた事だろう。

気負って貰っては俺の肩も凝ってしまう。

 

「ふん、最初から気負ってなんかいないわよ。それで何を買いに行く気なの? さっさとしないと日が暮れるわよ」

 

 速く終わらせたいのか、男と出かけることにまだ緊張しているのか。両方だろうな。

俺といるのは嫌だろうし、男と初めて買い物しているわけだしな。

 

「まずは武器屋に行きましょう。昨夜は思ったよりも消費してしまいましたから」

「私を連れてそこに行く? 普通は服屋とかじゃないの?」

 

 俺の発言に心底呆れている。彼女もそんな場所に連れて行かれるとは露にも思っていなかったのだろう。

デートならそんな所に連れて行ったなら顰蹙を買うだろう。しかし、これは唯の買い物で、それをしているのは俺だ。

常識はあるが普通という感性は俺にはない。

 

「これは私の買い物ですからね。文句は言わせません」

 

 憮然としているが昨夜の事を思い出し、何も言ってこなかった。

彼女としてはもう少し、ロマンチックなもの期待していたのかもしれない。部屋に恋愛小説があるくらいだし、

 

 何を期待するのだろう。大河が相手なら少しは期待できるかもしれないが。

大河なら前半はそうかもしれないが、後半は肉欲にまみれているだろうな。期待できないか。

 未亜ならその展開を期待するだろうが、

 

 

 

 

 

 

 前日武器を購入した武器屋に寄る。相変わらず薄汚れた路地にあり、相変わらず置いてある品は乱雑していた。

 ここに来るのが初めてなのか、リリィは店内を色々と見回っていた。ほほえましいね。

ここが、武器屋でなかったらな。

 

「すみませんが、ナイフを二ダース頼めますか。後、注文の品は?」

 

 店主は頭を振った。微妙にだが眉を顰めている。頼まれた品を期日にそろえる事が出来なかったことを悔やんでいるのだろう。

 

「半分は用意できた。後はまだだ」

 

半分は届いたか。まぁ、この世界では珍しい小太刀、鋼糸を入手するのは困難だろう。

しかも小太刀は兄弟刀を頼んだ。見つけるのはこの世界でなくとも難しい。

 

「では半分だけでも先に渡してもらえますか?」

 

 店主は店の奥に行き、布に包まれたものを持ってきた。

それを受け取り中身は確認する。切れ味は確認しない。さすがに、三度目ともなると連れがどういう反応をするのか予想できる。

 前に買った物よりも一ランク下がるがそれでもいい品だ。

よく手に入れられたものだ。後でこれのクセも掴んでおかないとな。

 受け取ったナイフのうち一ダースを服に仕舞い、外に出ようと思ってふと横を見ると、リリィがいなかった。

やっとの思いで見つけると店の奥のほうで読書にふけっていた。

 たしかあの棚は魔道書関連の本しかない。こんなところに来てまで勉強とは、よくやるよほんとに。

 

「御気にめした本でもありましたか?」

 

 声を掛けたことでようやく俺に気付いたのか、顔を上げ本を元の場所に戻していた。

努力している姿が見られるのが嫌だという考え方は理解できる。

 

「別に何でもないわ。次に行きましょう。」

 

 恥ずかしがっているのか、さっさと店を出て行ってしまった。

どんな物を読んでいたのか気になり本を手にとって見ると読めない字が多かった。古語だろうか?

最近、勉強してある程度の文字は読めるようになったのだが、

でも大河達は読めるのに何で俺は読めないんだろ? 未亜は別として大河と俺の召喚の仕方はそんなに変わっていないはずなのに。

 読めないので本を戻そうとしたが、ふと値段が気になり、見てみるとトンでもない額だった。

俺の給料三か月分はあった。俺でそれだからリリィには手が出せるはずも無い。

諦めた理由が分かったよ。

 

「遅い」

 

 店から出て、開口一番に言われた。明らかに不機嫌だった。待つのは得意なほうだと思っていたが違ったようだ。

まぁ、好奇心には勝てなかったということですから見逃して欲しい。

 

「次は何処に行く気?」

 

 すでに命令口調になっていた。

いつの間に俺がエスコートすることに成っているんだ?唯、ついて来るのがリリィの役目のはずなんだが。

 まぁ、言った所で聞きはしないだろう。彼女はリーダーシップを取らないと気がすまないタイプだし。俺とはある種逆のタイプだ。

 そろそろ、作務衣が出来てるころだしそれを取りに行くとするか。

 

グゥ〜

 

 腹の音か。そっか。もう昼飯の時間だもんな。忘れてたよ。

 音の発信源だと思う横を見る。そっぽを向いていた。知らないと言い張りたいのだろうが顔が少し赤くなっているぞ。

 

「そろそろお昼時ですし、ご飯にしましょうか」

「そっ、そうね。良い時間だもの」

 

 ここは触れないのが吉なのだろうが、そこはそれ。いじってみたいでしょ。結構面白い反応してくれるからね。

 

「でも、この時間からお店に行ったら混んでいるかもしれませんね」

 

 ふふふ、さぁどう出る。

 

「店にも寄るわ。ある程度空いてるところもある筈よ」

 

 なるほど、そう返してくるか。でも美味い物を食いたい人はそれをしないぞ。

たぶん、行ったら行ったでそこの料理に文句つけるんだろうな。

 

「でも、大抵そういう店の料理の味は美味しくないですよ?」

「じゃあ、どうするつもりよ。買い物でも続ける?」

「そうですね。それもいいですけど、シアフィールドさんもお腹が空いているようですから歩きながら探しましょう」

 

 ここで、そんな事をいわれると思っていなかったのか、さっきよりも顔を赤らめ俺を放って先に進んでしまった。

 からかいすぎたかな?

 

 

 

 

 リリィにやっと追いついて気付いてしまった。リリィはここから先の喫茶店に行くつもりだ。

いや、それとも知らないかもしれないが見つけたら確実にそこに入らされる。

 それだけはヤバイ。あそこだけは。さっきからかったことに対する仕返しか? そうなのか? 

お願いです。途中で道を変えてください。

 

 

 

 

 あぁ、着いちまった。ファミーユとキュリオがある場所に。

 

「ここ、デザートがおいしいのよ。あと卵料理が絶品なんだから」

 

 この場所を自慢げに説明してくれる。よく知ってるよ。ここの味は。何度も珈琲豆や紅茶の茶葉を買いに来てるんだからな。

週に三回以上は……

 

「お帰りなさいませ。ご主人様。って、あんたか。今日は買いに来る日じゃなかったはずだけど、どうしたの?」

 

 カトレアが接客か。瑞菜でなくて本当に良かった。あの人の場合勤務時間中だろうが俺をからかってくるからな。

 

「三人目か。よくやるわね。」

 

 カトレアでも変わらなかった。うう、やっぱり日頃の行いが悪いのかな? 

仕事は真面目にしてるし訓練と鍛錬は欠かさずやっているのに。

あれかな?子供を手に掛けたのがいけなかったのか? 

 

「一応、客なんですから注文ぐらいとってください。後、変な勘ぐりは止めておいて下さいよ。相手の方に失礼ですから」

「はいはい、それで」

 

 接客する気零だな。もう少しやる気見せてくれよ。リリィは何がどうなっているのか分からず言葉を出せていなかった。

 

「後、飲み物はセルフだから、自分で淹れてね」

「いつからそんな方針に変えたんですか」

 

 ついこの間来た時にはそんな対応じゃなかったぞ。

 

「昨日からね。それにあんただけよ。

蛍火が淹れる飲み物の味が私たちの淹れるのより数段上って分かってから店長がそうしようって言い出したのよ。

諦めなさい。ていうか身内に接客は必要ないでしょ」

 

 注文を言った際に驚愕の事実を教えてくれた。

そんな扱いになっていたのか。店長、俺は客だぞ。

最近ここに来るたびに他の客の分を淹れさせられていると思ったらすでにここに就職していることになっていたのか。

……通りで給料が出ると思った。両方から。

 

「あんた。よくここに通ってるんだ」

 

 なんだか軽蔑のまなざしを送られている。メイド服目当てで来ていると思われているのだろうか? 

いっておくが俺にそんな趣味はないぞ。

 

「珈琲豆と紅茶の茶葉を買いによく来ます。ここら辺で一番良い物を取り扱っていますからね」

「なんだ。私はてっきり……」

 

 それ以上は言ってくれなかった。確実に変態扱いされていたのだろう。よかった、事実を伝えておいて。

 

「おっ、蛍火君じゃん。どしたの、今日は?」

 

 テラスで座っているとはいえわざわざ出てこないでくれよ。かすり。一応こっちはキュリオのスペースのはずだ。

 

「ん? マリーさんとは違う人だね。別れてもう新しい彼女作った?」

 

 この人も厄介なんだよな。結構耳年増だしな。

 

「ねぇ、今変なこと考えなかった?」

 

 この世界の人は年の話を心の中でするだけで気付いてしまうのか!? 口にしてしまったらどうなるのか予想もつかんぞ。

これからは心の中でも年の事は考えないようにしよう。

 

「ヒルベルトさんとは付き合ってないですし、彼女には今回の買い物にただ付き合ってもらっているだけです」

「な〜んだ。相変わらずつまんないね。まぁ、ゆっくりしてってよ」

 

 あっさりと戻っていった。もう少し、からかわれるのかと思ったけど。もしかして覗き見されるとか。有り得そうで怖いな。

 

「あんた。ほんとに顔が広いわね」

「たまたまです。さて、私は飲み物を淹れてきます。待ってても本当に出てこないでしょうから」

 

 今日の一番良い物を選び俺とリリィの分を淹れ、戻ろうとした。普段ならここで他の客の分を淹れさせられているんだが、

 邪魔をする気だけはないという事か。変な気を使いおって。

 

 

 

 

 

「美味しい。これならお義母さまが毎日あんたを呼ぶのも分かるわ」

 

 飲んで二言目にはそれか、もしかして学園中に知れ渡っているのか?

 

「リコでさえ知ってるわよ。そんな事」

 

 表情を読まれたのか。まだまだ未熟だな。でもあの他人との接触をなるべくしないようにしているリコでも知っているのか。

すでに学園の常識になっているようだ。

 

 

 リリィは食事をしながら俺をチラチラと見ている。頬の紅潮は見られない。ここの二人にからかわれた事ではないだろう。

何気に真剣な表情をしているし、真面目な話かもしれない。聞きだすとしますか。

 

「シアフィールドさん。何か聞きたいことが有るのでしたら言って下さい。答えられることでしたら答えします」

 

 俺の言葉で決心がついたのかリリィはさらに真剣な表情となり体を少しこちらに近づけてきた。

他に聞かれるのが嫌な内容なのだろうか?なら、認識除外の結界でも張っておくか。遮音結界だと不思議に思われる。

 

「あんたは救世主になる気は無いの?」

 

 えらく直球な質問をしてくれた。

たしかにいいづらい質問だ。結界張っておいて本当によかったよ。

 リリィにとってこの質問は確かに聞いておかなければならないものだろう。

彼女は救世主に成るために時間を使い、学園に通い、努力しているのだから。

 

「なる気はありませんね。」

「どうして!? 破滅を滅ぼすのに救世主は必要なのよ。その救世主になるために努力しているのにどうしてよ。

そのために集まっているのに!! 救世主にならなくちゃ破滅を滅ぼせない。

置いていった人達のためにならなくちゃならないのよ!!」

 

 それは決意。彼女が戦う理由。彼女が己を鍛える理由。そして救世主にこだわる理由。どこまでも純粋で歪なのだろう。

この思いがリリィの戦う理由か。破滅の脅威を知り生き延びた責任とでも思っているのだろう。

だが、死者は何も語らない。何も思ってくれない。それは生者の勝手な思い込み。

 

「それは貴女の戦う理由です。自分が思っていることが必ずしも他人も思っていると考えてはいけませんよ」

「じゃあ、あんたはなんで救世主になろうとしないの?戦う理由は何?」

 

 正直の答えることは出来ない。契約の内容なんて誰にも知られる必要はない。

それに俺が戦う理由を告げれば怒るだろう。退屈だったからだなんて。

さて、なんて答えようか。

 

「私には今抱えているもので精一杯です。他の人を見ることが出来そうに無いですよ」

「何それ、自分の守りたい者しか守れないなんて随分と自分に自信が無いなんて。なんであんたみたいのが召喚器を持てたのよ」

 

 ここによく通っていると知られた時よりも強い侮蔑の目だ。そして自己嫌悪を感じているのだろう。そんな俺に負けたことを。

 確かに俺には自信などと言うものは無い。自信とは自分を信じられるからあるものである。

そもそも俺はその自分すら信じていない。だからあるはずが無い。

 

それに守りたい者があるとは一言も言っていないぞ。俺には救世主候補達の補助という仕事がある。

それだけで手一杯なのに他の人達を見ることは出来そうに無い。契約内容にも入っていなかったし。

 

「確かにその通りです。ですが何もしないというわけではありません。

今みたいに情報を集めることを、共に戦うことを、そして料理を作ることを。

救世主になれなくても出来ることはありますから。私は今抱えているもののため破滅は滅ぼしたいと思っている」

 

 リリィは忘れていたのだろう。俺がすでに破滅を滅ぼすために動いていることに。彼女もあの時の言葉には何か考えていただろう。

 

「破滅を滅ぼしたいのならどうして救世主になる気が無いのよ。矛盾してるじゃない?」

「救世主になることは破滅を滅ぼすに至る過程です。私が成れずとも救世主クラスの人が救世主になればいい。

私は破滅を滅ぼすという結果だけ欲しい。その結果に至るまで私自身がしなければならないことをし続けます」

 

 嘘だ。俺がいや、観護が欲しいのは子供たちの幸せな未来に繋がるための結果。

それに神を殺すことが出来るのは大河のトレイターのみ、俺が救世主になることは出来ない。

 

 俺に破滅を滅ぼす意志があること、そして俺が既にそのために動いていること。彼女は思い出しただろう。以前、俺に言われたことを。

 

「私は救世主に拘り過ぎてたわ。そっか。救世主になれなくても破滅を滅ぼすことは出来るんだった。

ねぇ、あんたが守りたいものって何?」

 

 そっちに移ったか。ここで貴女ですとかふざけたら変なフラグが立ちそうだ。

結構純情だからな、リリィは。俺が守りたいものは俺が交わした契約を貫き通すことだがそれをいったらその内容はと聞かれそうだ。

 

「秘密です。その決意は胸に秘めておくだけでいいですから」

「まっ、答えてくれると思ってなかったから別にいいけど。じゃあ、夜に未亜と闘技場で何してたの?」

 

 単なる興味の質問か。ここからはふざけてもいいけど、場所を間違えたらきっと色々と大変なことになるだろうな。

安請け合いしなきゃよかった。

 

「当真さんにコーチをしていました。当真のために強くなりたいと言われてね」

 

 リリィはその言葉に随分と驚いている。目は見開いているし、口は半開きになっている。

まぁ、事あるごとに帰りたいと言っている未亜が強くなろうとしているのだからな。

この事は学園長にも言っていない。サプライズにしようと思っているからな。

 

「あの未亜が……。あれっ? 教えてるのあんたよね」

「そうですよ。まぁ、出来るのは近接戦闘と簡単な弓での戦い方ですけど」

 

 あっ、呆れてる。そんな要素は何処にも無かったはずだが。はて? どうしてだろうか。

 

「そんな事までしてるなんて。はぁ、あの馬鹿以上に変な人間がいるなんて思いもしなかったわ」

 

 たしかに存在はおかしなものかもしれないが思考回路は大河の方が変だぞ。

あれは予測はしやすいがなぜそれに行き着くかが理解不能だ。どれだけ観察しても思考=エロスとしか考えられない。

 

「それじゃ、最後。質問っていうか頼みごとに近いんだけどあんたが使ってた魔力弓だっけ? あれを私にも教えて欲しいの」

 

 ふむ、これからのため新しい技を覚えておこうとする向上心は素晴らしいものだ。

使えるものは何でも使う。その精神は嫌いじゃない。だが、

 

「無理ですね」

「なんでよ!? 未亜はよくって私はダメなわけ?ふざけんじゃないわよ!!」

 

 立ち上がって怒りの形相で睨んでくる。怒るようなところか?

というか未亜にも教えてないぞ。それになぁ、あれ、扱うのかなり難しいんだよな。

維持するだけで魔力は少しずつでも食われてるし、懇切丁寧に理由を話すとしますか。

 

「はぁ、落ち着いて下さい。理由を話しますから」

 

 少し、自分でも興奮していたのが分かったのだろう。素直に従い席に着いてくれた。

でもまだ目は適当な理由だったら魔法をぶっ放すって言ってますよ。親娘そろって目の感情を殺せて無いな。

 

「まず、第一にあれは維持するだけで魔力を消費します。魔法がメインの貴女にそれは有利に働かない。

第二にあれは教えて出来るようなものではなく閃きによって出来るものです。

そして最後、これが一番大きな理由ですが貴女の戦闘スタイルはすでに出来上がっている。

あれは武具ですからね、自らで使うことが出来なければならない。

今から弓を覚えるのは難しい。破滅がいつ来るか分からない状況で中途半端に知るのが一番危険だというわけです」

「たしかにそれだったら覚えようとしても無駄になるわね。使い勝手のよさに目が行き過ぎてたわ」

 

 よく理解できたようだ。魔力武具はあくまでも武器だ。それを持って戦うことが前提である。魔術師が覚えようとしても意味はない。

それに魔力武具は近接戦闘者だが魔力を持っている人が使うものだ。カエデに魔力適正があったなら有効に活用するだろうな。

 ふむ、結界を解除するか。張った時も思ったがこんな近くで魔法を使ったのにどうしてリリィは気付かないんだ? 

あっ、久しぶりに変なものを感じた。ご都合主義だって、無茶苦茶だな。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、蛍火君。休日に会うなんて偶然だね。」

 

 後ろから声を掛けてきたのは調理科のアイドルであるメリッサだった。

コック服しか見ることがなかったのでいつもと印象が違うな。

あれからもちょくちょく俺に声を掛けてきた。

そのお陰で調理科の男にかなり睨まれている。

 

「隣の人、彼女?」

 

 リリィを見て俺にほほえましそうに笑って聞いてきた。でも笑っているのに雰囲気が怖い。目も笑っていない。なんだか殺気を感じる。

普通の殺気と違って熱いのか寒いのか分かりにくい殺気だ。というかリリィだと気付いていないのか?

 

「いえ、違いますよ」

 

 何とか振り絞って出すことが出来た。選んだ答えが間違っていなかったのか殺気が消えた。師匠に向けられた殺気とは違う意味で恐ろしかった。

 

「相席してもいいかな? 一人で食べるのは寂しいからね。」

 

 一人だったのか。まぁ、一人で出かけたい時もあるだろう。俺はいつもそう思うが。

リリィに目で聞いてみたが異論は無いらしく頷いた。俺はこの時さっきの殺気でここが何処なのか忘れていた。情けない。

 

「すみません。注文お願いします」

 

 メリッサが近くにいたウェイターに話しかけた。ってウェイター!? なんてこった。キュリオの店長じゃないか。

この人苦手なんだよな。

 注文をとって何事も無く戻っていった。これは嫌な予感がするが、逃げ出すことは出来そうに無い。

 はぁ、お茶でも淹れて来ますか。

 戻ってくるとリリィとメリッサの間に緊迫して空気が漂っていた。俺がいない間に無いがあった。

それとも何も無かったからこうなったのか?

 

「あっ、蛍火君が淹れたんだ。うん。噂に違わぬ味だね」

 

 いったいどんな噂が流れているんだ? それに俺が淹れた事に対するツッコミは無しなのか。意外と天然かもしれない。

 

「注文お持ちしました。蛍火君、今休憩時間だからご一緒してもいいかな?」

 

 店長が当然のように確認もせず空いている席に座った。この店本気で大丈夫か。というか客の前で堂々と休みを取るな。

まぁ、すでにいつもの事になっているが。

 

「いや〜、でも蛍火君が着てくれるお陰で売り上げが最近上がってね。しかも君が来た日にはすごいよ。これからもよろしく頼むね」

 

 売り上げが上がっているのは知っている。何せキュリオの帳簿をつけているのは俺だ。

店長に泣きつかれて発注までしている。……その内、喫茶店立ち上げようかな。

 ここ最近、ファミーユとキュリオの飲み物を任されているせいか、紅茶と珈琲の腕は料理と共に上がっている。

喜んでいいのか微妙なところだ。

 

「へー、蛍火君、そんな事までしてたんだ。すごいねぇ」

「あんたも大変ね」

 

 メリッサからは感嘆の声を、リリィからは哀れみの声を貰った。俺はそれに苦笑でしか返すことが出来なかった。

というかそれ以外に何が返せる?

 

「でも、三股は感心しないな。もつれて刺されないでね」

 

 この二人とマリーの事を言っているのか。というかあんたらは簡単にそういう方向に思考を持っていき過ぎだ。

すでに慣れてしまったのかリリィは少し困った顔を浮かべているだけだった。メリッサは何故か嗤っていた。

 

「刺されないですよ。第一誰とも付き合ってないですから」

「あれっ? じゃあその二人は学園の同級生? にしては仲が良さそうだね」

 

 知らんよ。そんな事言われても、

というかメリッサ何故不満そうな顔をする。訳が分からんぞ。

 

「まぁ、いいや。それで、うちで働いてくれるか考え直してくれた?」

「いえ、今は学園の仕事がありますし」

 

 この人には事あるごとに誘われる。もちろん恵麻さんにもだ。

 

「そっか。考えが変わったら何時でも言ってね。うちは大歓迎だから」

「やけにあっさりしてるわね。何かたくらんでるんじゃない?」

 

 訝しげな目でリリィは店長を見ている。もちろんメリッサも。まぁ、始めは俺もそう思ったよ。

でも、この人は誘いはするけどこれに関しては強引じゃないんだよな。

 

「もう、何度も誘ってるからね。総店長も直々に今の給料の倍は出すっていってたのに頷かなかったから。

言うだけいってみるって感じだよ」

 

 そう、わざわざ総店長がスカウトに来たのだ。あの時は焦ったね。榊原さんにも会った。本当にいつも笑っている人だった。

 

「今の倍って随分と好待遇なんですね」

「彼の淹れる飲み物にはそれだけの価値があるからさ。しかも料理もお菓子作りも一通り出来る。

僕以上の給料を出しても引き抜きたいくらいだって総店長はぼやいてたよ」

 

 そこまですごくはないぞ。自分でもまだまだだという実感はある。

修行中の身なのにそんな扱いをされたら天狗になってしまって向上心がなくなってしまうのが怖い。

 何気に飲み物の時点で二人は頷いていた。そこまでじゃないんだけどな。

 

「あっ、そうだ。君たちは学園の人なんだろ?君たちは革命者がどんな人だか知ってる? 蛍火君は知らないって言うからさ」

 

 ぐっ。なんでそんな事言うんだ。危うく珈琲が気管に入るところだったぞ。

 

「あっ、私も知りたいです」

「どんな人かな。やっぱりかっこいいのかな?」

「え〜、渋い人だよ。絶対に」

「大人で真面目な人なんじゃない?」

「優しいけど、しっかりしてる人だと思うわよ」

 

 両店のスタッフ全員が出てきて勝手なことを口にしてくれる。仕事はいいのか?

業務内容に職務怠慢っていう報告とこの一時間ばかりの給料を引いておこう。

二人に目線を向け目だけで変なことを言うなよと伝えようとした。

 

「何言ってるんですか? みなさんもよく知ってる人ですよ?」

 

 遅かった。ここでも俺の安らかな日常は去っていった。山奥にでもこもろうかな?

それよりも元の世界に帰る事を真剣に検討しよう。

 

「えっ、どういう事だい?」

 

 珍しく目を開け詳しく聞こうとしている。そこまで気になることか。というかお二人共、これ以上答えないで下さい。

 

「それが革命者ってあだ名付けられてる奴よ」

 

 俺を指差し宣言するように言った。さっきの仕返しなのか? そうなのか!?

 

「「「「え〜!!」」」」

 

 こうなると分かっていたから隠していたのに、気付いてくれよ。

 

「冗談だよね?」

「冗談でこんなこというはず無いでしょ。本当よ」

 

 リリィ。そこで嘘ですって言ってくれたら俺は救われたのに。

 

「ちょっと、蛍火。どうして隠してたのよ」

「そうですよ。水臭いですよ」

「目立ちたくなかっただけです」

 

 みんな一斉に何言ってんだ。こいつ?といった目線を向けてきた。いや、俺の心情はいつでもそうですよ。

 

「もうここら辺じゃ結構有名人だよ?」

「知らない人はいないと思うけど。」

「こんな真っ黒クロスケに気付かないほうがどうかしてるわよ。」

「学園でも知らない人はいないよ?」

 

 地面に手をつくしか出来なかった。俺はそこまで知られていたのか。静かな生活は元より望めなかったのか。

 

「でも蛍火君が革命者だろうとここではそんな事は関係なく着て欲しいわ」

「そうよ。あんたの紅茶の固定客がすでにいるんだから」

「ここでは蛍火君は蛍火君だよ」

「うーん、革命者が淹れた紅茶とかで宣伝しようか?」

 

 みんなが温かい言葉を言っている中一人だけ違う考え方をしている人がいた。もちろん腐れ店長だ。誰もが冷たい視線を送っている。さすがに焦っているようだ。

 

「冗談だよ、冗談。でも君にはここに何時でも来て欲しい。ここには君の仲間がいる君の居場所なんだから」

 

 店長でさえ優しい言葉をくれた。この世界に来て始めて、そして久しぶりの暖かくて優しい空気に包まれたこの場所。

俺はその空気に触れ非道く居心地が悪くなった。それは俺が人殺しだとかそんな事は関係なく、この空気を好んでいないだけ。

凍てつくような寒さと殺意に満ちた世界。それが影に属する俺の居場所。

きっとこの気持ちは誰も気付きはしないだろう。俺がこの仮面を被り続ける限りは。

 

 

 

 


後書き

 相変わらず蛍火のデートはデートらしくないです。まぁ、蛍火ですからね。

 今回、第七話で予告していた通りキュリオとファミーユのメンバーをかなり出しました。

といってもストーリーにはまったく関係ないのですが、

 

 後、第十話で出てきたメリッサ・トンプソンがまたしても出てきました。

彼女はこれから救世主候補とかなり深い関係になって行きます。

 講師キャラだけでもいっぱいいっぱいなのにまたオリキャラを出すなんて自分でも無謀だなぁって思ってます。

 けどこのキャラ後々必要になってくるんですよね。どんな場所で必要になってくるのかは今はいえませんけれど。

 

 

 さて次の話はデート後編。蛍火が関わっているからやっぱりハプニング無しではいられないでしょうね。

 では、次の話でお会いしたいと思います。





いやー、そうそうたる顔ぶれが。
美姫 「知らないところで、蛍火も知り合いを増やしてるわね」
本人が望む、望まないに関わらずな。
美姫 「これからどうなっていくのかしらね」
とりあえずは、デートの後編だな。
美姫 「そうね。それじゃあ、すぐにでも次回へ!」



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