第3話 始まり〜そして全てを終わらせる為に〜

 

 とある夜の山奥に私は立っていた。

 ここは見下ろせば街を一望できる絶好の場所だ。

 私はそこから“もう一人の自分”が暮らしている、街を見下ろしていた。

 名を高橋祐介、それが今の名前だそうだ。

 情報はシルフィスに集めさせている。

 しばらく街を眺めていたら、不意に背後から気配を感じた。

 振り返らなくても誰なのかすぐに解った。

「ずいぶんと早かったわね、シルフィス」

 私は振り返らずにシルフィスに話しかけた。

「ええ、御命令のとおり伝えてきました」

 シルフィスは特に気にしていないようだ。彼との付き合いはとても長く、今の主従関係はあの時から成り立っている。

「そう、それで反応は?」

「はい、とても興味深い反応を示してくれました」

「それはどんなものなの?」

 私は興味深そうに尋ねる。

「何かを覚悟したような、緊張しているような面持ちでした」

 それだけ聞ければ充分だ。

 私は満足げに笑顔でシルフィスに言った。

「そう、ありがとう監視に戻ってちょうだい」

 シルフィスは何も訊かずに頷いてくれた。解からないことがあっても私から言わなければ決して追求してこない。彼は私を信頼してくれているのだ。それは自分が一番よく知っている。それに彼は私が教えなくても自分で調べ上げてしまうのだ。それが彼の生き甲斐らしい。私はそんな部下を誇らしく思い感謝しているのだ。

「わかりました。また何かあればお伝えします」

 そう言ってシルフィスは闇の中へと消えていった。

 私は夜空を見上げて呟いた。

「彼は決着をつける気なのね。自分の過去と、なら私は貴方を試さなくてはならない。あの過去を乗り越えられるか、そして未来を変えられるかを。これは私と貴方にとってとても大切なことだから」

 彼は再び一つに戻ろうとしている。

 その想いが私に伝わってくる。

 そして彼の本当の力が目覚めようとしている。

 あの時使った力“聖龍王(セイント・ドラゴン)”としての力が………

 だから私は彼と戦わなければならない。

 彼が過去を乗り越える為にはそうするしかない。

 たとえこの体が滅びようとも………

 シルフィスにはダークマスターが復活すると伝えろと命じたが、彼はおそらく信じてはいないだろう。

 私は来る日の為に準備を始めた。

 彼にはダークマスターと戦ってもらう必要がある。

 もしそれであの時のようなことになれば、世界が滅び兼ねない。

 そうなってしまった時はこの手で彼を消さなくてはならない。

 そういったことも覚悟している。

 私は眼を閉じて手に力を込め始めた。

 すると足元に淡い光を発する魔法陣が現れた。

 それは逆五茫星を描いている。つまり負の力を意味する魔法陣である。

 そして呪文を唱えた。

「古の破壊神よ、我が前にその姿を現せ」

 手に込めていた、黒い球状の物を天に向って放った。

 すると辺りの木々がざわめきだした。

 黒い球状の物はみるみると肥大していき、そして龍へと姿を変えた。

 その龍からは禍々しいほどの、邪悪な力が放たれていた。

 そしてその龍は口を開いた。

「我は全ての闇を統べるダークマスター。我を蘇らせたのはお前か?」

「そうよ、あなたにお願いがあってね」

「いいだろう、その願いかなえてやろう」

「あなたに暴れて欲しいの、昔みたいにね」

 ダークマスターは眼を細めて言った。

「ほう、我のことを知っているのか。面白い、ならば思う存分やらせてもらう。地上は久しぶりだ、くっくっくっくっく……」

 ダークマスターはじつに楽しそうに笑った。

    *

 俺は夢を見ていた。

 久々に見る悪夢だった。

 それはあのときの出来事を忠実に再現した夢だった。

 それをまるで映画でも見るような感覚で見ていた。

 よくできていると思う。

 そして夢は最後のあの瞬間に来ていた。

 そうレミの命を引き換えにして開放した俺の本当の力、セイント・ドラゴンの力を使うところ。

 俺はせめて夢の中でくらいは助けたいと思った。

 すると俺の体が淡く光始めた。

 そして気がつけば俺は白い龍になっていた。

 眼前にはダークマスターがいた。

 前方を睨みつけ、深呼吸をして炎を放った。

 それは七色の炎だった。

 そして炎がダークマスターに直撃して爆発したところで眼が覚めた。

    *

 俺は“何か”を抱きかかえる形で寝ていた。

 毎度のことだが、冬の朝は寒くてなかなか布団から出られない。でも今朝はなんだかいつもより暖かい気がするのは何故だろう。

 それに何かが腕の上に乗っている。手触りが気持ちよくていい匂いがする。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、すやすやと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

俺はそれを聞いてハッとして飛び起きた。

なんと美優希が隣で俺の腕を枕にして寝ていたのだ。

さらに抱きついているのだ。

これは嬉しい……じゃなくてとんでもないことだ。

「わー!?

 俺がパニックをおこしていると美優希がうっすらと眼を開けた。

「んっ……ふわあ〜。おはよう祐介」

 まだ眠たそうな眼を擦りながら、挨拶をしてくる。

「おはよう、じゃないだろう。どうして君がここにいるんだ!君には隣の部屋を割り当ててあったはずだよ」

 確かに昨日は隣の部屋で寝ていたはずだ。

「うーん、一緒に寝てたら何かしてくれるかなーと思って」

 美優希が指をもじもじさせながら上目遣いでこちらを窺っている。

「何かされたかったのか?」

 冗談のつもりで言ってみたのだが。

「私は祐介とだったらかまわないわよ、なにされても」

 ちょっと頬を赤く染めながら答える。どうやら本人は本気らしい。でもさすがに恋人同士になっていきなりあんなことをするのはマズイだろう……って何考えてんだ俺は。とにかく美優希には部屋を出てもらおう。これ以上刺激され続けると理性が保てるか危うい。

「なっ、なに言ってるんだよ!とにかく俺は着替えるから出てってくれ」

 とりあえず適当にはぐらかしておいた。

「手伝おうか?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて尋ねてくる。

「いいっ!」

「もー、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」

 俺は顔が赤くなるのを感じつつ美優希を部屋から追い出した。

 着替えを済ませて廊下の突き当たりにある洗面所に行って顔を洗って歯を磨いた。

 よしっ準備完了だ。

 2階から降りてくると、味噌のいい匂いが漂ってきた。

「おっ、今日は和食かあ」

 テーブルの上には定番のメニューが並んでいた。

 ちょうど準備ができたようだ。

 それから俺達はテーブルについて朝食を摂った。

「しかし、女の子と同棲してるなんてばれたら大変なことになるだろうなあ」

実は数日前元気になった美優希は俺と一緒に住みたいと言ってきた。

 俺は反対したのだが………

「守ってくれるんでしょ、だったら一緒に暮らすほうが都合がいいじゃない。それとも私と住むのが嫌なの?」

眼を潤ませて迫られた。

…………と、いうわけで結局おしきられてしまった。

 それに美優希の両親は2年前に他界しているそうだ。

 だから渋々と了承した。

俺は食事中あることを思い出して美優希に言った。

「そうだ、美優希今日俺バイトだから少し遅くなるよ」

 美優希はきょとんとした顔で小首をかしげる。

「そうなの?」

「ああ、だから合鍵を渡しとくよ」

「解ったわ。なるべく早く帰ってきてね」

 それから朝食を済ませて、学校へと向かった。

    *

 俺達は学校への道を話しながら歩いていた。

「まさか学校まで一緒だったとわね」

「そうね、クラスが違うとはいえ今まで一度もあわなかったなんて不思議ね」

 そういった他愛もない話をしながら歩いていると、学校が見えてきた。

 登校する生徒達がまばらに見えてきた。この時間帯はまだほとんど生徒が来ていない。

 それから俺は美優希に念を押すように言った。

「俺達が一緒に住んでいることは、皆には内緒にしていてほしいんだ。知れると大変なことになるから」

 美優希はちょっとつまらなそうに言った。

「え〜、どうして?別にかまわないじゃない」

「どうしてもっ」

「……解ったわ」

 美優希は渋々といったかんじで頷いた。

 それから俺達は靴を履き替えて教室に向かった。

「それじゃあまた後で」

「うん」

 歩き出そうとしてふと美優希は思い出したように言った。

「そういえば、お昼どうするの?」

 俺は思案げに腕組みをして呟いた。

「うーん、どうするかなあ」

 悩んでいると先に美優希が口を開いた。

「よかったら一緒に食べない?」

 少し考えてから頷いた。

「そうだな、友達も一緒だけどかまわない?」

「うん、かまわないけど」

「解った。じゃあ昼休みに休憩室でな」

「うん、楽しみにしてるね」

 そう言って二人は別れた。

    *

 俺が教室に入ると、いつもどうりのメンバーがすでに集まっていた。

「おはよう、皆」

 近づいて声をかけると、それに気付いた皆が口々に挨拶をする。

「あっ、おはようございます祐介さん」

 このおっとりとした声の持ち主は亀谷静香(かめやしずか)ちゃんである。

「おはよう、祐介。また新しい薬を作ったんだけど試してみない?」

「えっ、遠慮しときます先輩」

 彼女は蛇坂麗奈(へびざかれいな)先輩。

 危険物取り扱いの免許をもっていて、趣味で薬草の調合をやっている。

だからことあるごとに俺達に実験でできた薬を飲ませようとする。

「今日もいい天気だ。絶好のさばき日和になりそうだ」

 こいつは虎中零一(とらなかれいいち)、俺のクラスメイトだ。

 剣の達人だが、梅干が嫌いで梅干を見ると豹変する。

「おはようさん。相変わらず平凡な顔してるなあ」

「……おまえも相変わらずだな」

 こいつは横鳥真(よこどりまこと)、零一と同じく俺のクラスメイトだ。

 この四人のなかで一番まともだと思われる人物だ。

 すると麗奈先輩がにやにやしながら俺に近づいてきた。

「祐介、あんた今日女の子と一緒に来たでしょう」

 誤魔化しても無駄だと思うが、一応とぼけてみる。

「何のことですか?」

「とぼけても無駄よ。それにしてもあんたが女の子と登校だなんて雪でも降るんじゃない?」

「確かに、おまえって平凡な奴だからな」

 そう言って真も同意する。

「悪かったな」

「でっ、誰なのあの娘?」

 先輩が尋ねてくる。

「皆もよく知っている娘だよ。あの娘はレミだ」

 皆はそれを聞いて驚いた。

「レミさん見つかったんですね」

 静香ちゃんが嬉しそうに言う。

「ああ、今は斉藤美優希と名乗っているんだ」

「よかったじゃない、祐介。あんたずっと探してたもんね。それでどうなの?」

 先輩が興味津々に訊いてくる。

「なにがですか?」

「とぼけても無駄よ。あんたと美優希の仲よっ、もういくとこまでいったの?」

 それを聞いて今朝のことを思い出してしまった。

「そっ、そんなのまだですよ。てっ、嬉しそうに訊かないでください!」

「何?まだなの、まったく、相変わらず押しがたりないわね」

 呆れた顔で先輩が言う。

「あんたも男ならもっとしっかりしなさい。誰かに横取りされても知らないわよ」

 壁に寄りかかっていた零一も同意する。

「確かに男なら信念を貫け。ましてや守るべき者がいるおまえには必要不可欠なことだ」

「そうかもしれないけどさあ」

 言いよどんでいる俺に先輩はイライラしながら言った。

「えーい、うるさい!なんならそういう男になれる薬でも作ってあげようか?」

「それは遠慮しときます」

 たじろぎながら首を横に振った。

 ふと先輩は何かを思いついたように嬉しそうに手を合わせて言った。

「そうだっ、あんた一人暮らしよね?」

「え、ええ、まあ……」

 今は美優希と一緒に住んでいるので二人である。

「なら好都合ね、家に連れ込んじゃいなさい。そして、ふふふ…………」

 先輩はそれを想像しながらうっとりとしていた。

 この人は妄想が激しいのがたまにきずである。

 俺は苦笑しながら言った。

「連れ込むもなにも、一緒に住んでますよ」

 そんなだからついつい口を滑らせてしまった。それを聞いて皆が驚いた。

「何ぃ、一緒に住んでる!?信じられん」

 真がそんなことがある訳がないといった感じて言う。

「さらってきたんですか?」

 静香ちゃんは小首を傾げて呟いた。

「………静香ちゃん、さりげなく俺を犯罪者にしないでくれ」

「見損なったぞ高橋!おまえがそんなやつだったとは」

 零一は俺を軽蔑しながら言う。

「零一、真にうけるんじゃない」

「祐介、あんた見かけによらずやるわね」

 麗奈先輩が感心したように言う。

 幸い教室にはまだ俺達だけだったので被害は最小限におさまった。

 もし他に誰かいたらどうなっていたかわかったもんじゃない。

「からかわないでください。それから一緒に住んでることは他の連中には内緒ですからね」

 皆のことだから大丈夫だと思うが一応念を押しておく。

 そういえばさっきから足元が揺れているような。

 すると静香ちゃんが不思議そうな顔をして尋ねてきた。

「そういえばさっきから足元がふらついているんですけど、私どうにかなってしまったんでしょうか?」

 やがておおきく揺れ始めた。地震である。

 だが静香ちゃんはまだ不思議そうに首を傾げて考え込んでいる。

 俺は壁に寄りかかって叫んだ。

「静香ちゃん、地震だ!」

 それを聞いた静香ちゃんは、驚きと安心の表情を浮かべて言った。

「まあ、地震だったんですか、よかった。それなら止めなくちゃいけませんね」

 そう言って静香ちゃんは、腕を前に突き出して深呼吸をして叫んだ。

「地震よっ、止まりなさい!」

 いつもの彼女からは到底想像できない鋭い声だった。

 するとさっきまでの地震が嘘のようにピタリと止まった。

「助かったよ。ありがとう」

 俺はほっとして脱力した。

「どういたしまして」

 静香ちゃんは得意げに言う。

 彼女が持つ地の力は大地に大きな影響を与えることができる。

 本気になれば大陸を移動させることも容易い。

 それにしてもこのざらついた感覚はなんだ?

 奴が復活したのか。だが奴とは別に何かもっと邪悪な力を感じる。

 いったいこれは何なんだ?

 物思いにふけっていると、麗奈先輩が呼びかけてきた。

「祐介、どうしたの?難しい顔して」

 俺はそれで我に返った。

「えっ?いや何でもありません。ただ、奴の気配を感じたんで」

 それを聞いて麗奈先輩は眉をひそめた。

「奴って、もしかしてダークマスターのこと?」

 俺は神妙な面持ちで答える。

「ええ、間違いありません。奴は復活しています」

 すると皆がそれぞれに不安の色をたたえている。

「大丈夫なの?」

 おずおずと先輩が訊いてくる。

「ええ、今度こそ守りきるって決めましたから。それに“もう一人の自分”ともけりをつけるつもりです」

「そう、ならいいんだけど………」

 そう言って先輩は黙ってしまった。

「そう心配しなくてもいいじゃない。祐介のことなら俺達が良く知ってるじゃないか」

 笑いながら真が言う。

「………そうね、そうだったわね」

 そして納得したように先輩は笑って言った。

「この話はこれでお開きね、生徒も増えてきたし解散ね。それじゃあまた後でね」

 そういって先輩は教室を出て行った。

「それじゃあ私も失礼します」

 静香ちゃんも続いて出て行った。

残った俺達はもうしばらく話していた。

    *

 退屈な授業があっという間に過ぎて昼休みである。

 俺達は休憩室にいた。

 ここは冷暖房の設備が整っており、何を持ち込んでもかまわないことになっている。

 昼休みをゆったり過ごすには快適な場所である。

 雑談をしながらある少女を待っていた。

 すると一人の少女が入ってきて、辺りを見回して俺を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。

「祐介っ、お待たせー」

 そこで美優希は他の四人に気がついた。

「この人達は?」

「俺の友達だ」

 それを聞いて美優希は納得したように手をぽんっと叩いた。

「なるほど、朝言ってた人達ってこの人達のことなのね」

 それからペコリとお辞儀をして挨拶をした。

「はじめまして、斉藤美優希です。よろしくおねがいします」

 すると皆が口々に挨拶をする。

 挨拶もそこそこにして雑談混じりのお昼にした。

 今日は美優希が弁当を作ってくれたのだ。

 俺は蓋を開けて感嘆の息を漏らした。

 弁当の中には色とりどりのおかずが並んでいた。

 どれも美味そうだ。

 弁当の中身を確認するように順番におかずを見ていった。

 きんぴらごぼうに玉子焼き、から揚げに煮物など美味そうなおかずが並ぶ。

 そしてご飯の上には梅干がのっている。

 そこで俺は零一のほうをチラリと見る。嫌な予感がしたからだ。

 案の定、俺の弁当の中の梅干を見てしまった。

 マズイ、俺は急いで真に向かって叫んだ。

「真っ!」

 真は頷いて零一を羽交い絞めにした。

 零一は血相を変えて俺の弁当に日本刀で切りかかろうとしていた。

「離せっ、横鳥。俺はやらなくてはならんのだ!」

「きゃっ!」

 その形相に怯んだ美優希は悲鳴をあげた。

「先輩、あれを」

「解ったわ」

 そう言って先輩は零一の口めがけて小さなカプセルを投げ込んだ。

「………うっ!」

 それを飲み込んだ零一はうめき声をあげて気絶した。

「うるさいのはたおしたから、昼食の続きにしましょ」

 気絶した零一は無視されて昼食が再開された。

 すると美優希が心配そうに尋ねてきた。

「ねえ祐介、零一君放っといていいの?」

「ああ、大丈夫。しばらくすれば眼が覚めるから」

 それにあの程度でくたばる奴じゃない。

「ふーん、ならいいんだけど」

 美優希もさほど気にしていなかった。

「それよりさ、こんどの休みに皆で何処かに行かないか?」

 真がテーブルから身を乗り出して言った。

 それを聞いて先輩の眼が光った。

 なんだか嫌な予感がする。

「あんたにしてはいいアイデアね。あたしは休日は暇だからかまわないわよ。静香は?」

 静香ちゃんは少し考えてから答えた。

「特に予定はありませんのでかまいません」

「じゃあ零一は……」

「俺も問題はない」

 いつのまにか復活していた零一が答えた。

「祐介は、当然行くわよね?」

「えっ、ええ………」

 先輩の眼は有無を言わさない眼だった。

「美優希は?」

「祐介が行くんだったら私も行きます」

 先輩は満足げに頷いて言った。

「じゃっ、決まりね。でっ何処にする?」

「遊園地なんてどうですか?」

 美優希が提案する。

「悪くないわね、皆もいいわね?」

 全員無言で頷いた。

「それじゃあ10時に現地集合ね」

 先輩はそう言ってスケジュール帳に書き込んだ。

 こうして賑やかで楽しい時間は過ぎていった。

 シルフィスに監視されているとは知らずに。

 

 放課後がやってきた。

 俺は美優希と一緒に歩いていた。

 バイト先が帰り道の途中にあるので、そこまで一緒に帰ることにした。

「祐介の友達って面白い人ばっかりだね」

 それを聞いて俺は苦笑しながら言った。

「まあ、面白いといえば面白いかもしれないな」

 確かに客観的に見れば面白いかもしれない。だが一緒につるむと結構大変だ。まあ楽しいことには変わりないが。

「それに安心したし」

「?それってどういう………」

 その問いに美優希は笑顔で答えた。

「だって昔と変わってなかったんだもん。あの人達、それに貴方も。皆で一緒に“地球(この星)”を作ったよね。フレス」

「……?」

 美優希は全てを覚えていた。“聖天使(セイント・エンジェル)”であること、そしてあの時のことも。

 驚いている俺にはかまわず、話を続けた。

「それに、今度はちゃんと守ってね。もうあんな辛い想いをするのは嫌だから」

 それを聞いて俺はさらに眼を見開いた。

 そして俺は大きく頷いた。

「ああ、ぜったいに守ってみせる。そして今度こそ君を幸せにするよ、レミ」

「約束よ、フレス」

 二人の影がゆっくりと近づき、そして重なった。

 この際、路上であることは気にしないでおこう。

「それじゃあ私、先に帰ってるね」

 少し頬を赤く染めながらも嬉しそうに美優希は帰って行った。

「さて、俺もいきますか」

 そう言って俺は歩き出した。

 


 あとがき

 

 こんにちは、堀江 紀衣です。

 今回はまだ幽霊のままなので、代理の方にお願いして書いてもらいました。

死神「代理の死神です。紀衣さんがこれを書いてくれないと逝かないと言うので、書きました。それにしてもこの美優希さんという方、実に大胆ですね〜。わたしじゃとても真似できません」

美優希「だって祐介ったら、なかなか私に手をだそうとしないんだもの」

死神「わっ!いつのまに」

美優希「さっきからずっといたんだけど。それに先約があるので、あなたに紀衣さんを連れて行かれるわけには、いかないので」

死神「駄目です。幽霊さんはあの世で暮らすのが一番なんです」

美優希「私だって、取り返しがつくものを勝手に連れて行かれて取り返しがつかなくなるのは、嫌なんです」

死神「そんなことは無理です。肉体は残っていればいざしらず、霊体しか残ってないのに無理です。というわけで、連れて行きます」

 つんつん

死神「はい?」

 サクッ!!

死神「はうっ!」

零一「悪く思うな。友人が人殺しのままというのは後味が悪いのでな。それに安心しろ峰うちだ」

美優希「ありがとう、零一君」

祐介「さっき、サクッていったぞ」

零一「細かいことは気にするな」

麗奈「そーそー、美優希の名誉挽回ができるんだからいいじゃない」

死神「あの〜、わたしその人連れて帰らなければならないんですけど」

真「うわっ!こいつ、もう復活してるよ」

麗奈「任せなさい。これで終わりよ」

 懐から謎のカプセルを取り出す。そして死神に飲み込ませる。

死神「はひゅ……」

 死神沈黙。麗奈は死神を撃退した。

静香「あらあら、お墓の用意をしなければいけませんね」

紀衣「少し同情します……ところで私はいつになったら元に戻れるのでしょうか?」

美優希「あー、そうですね、必要な人は揃ったから、それじゃあ始めましょうか」

祐介「それじゃあ皆、よろしくたのむよ」

麗奈「オッケー、任せなさい。皆、紀衣さんを囲むように並んで」

 皆それぞれの位置に立つ。

美優希「それじゃあ、始めます」

 皆が手をつなぎ呪文を唱え始める。

祐介「我、全てを焦がす劫火なり」

麗奈「我、全てを洗う清水なり」

静香「我、全てを作る要土なり」

零一「我、全てを払う嵐なり」

美優希「我、全てを包む光なり」

紀衣「わあ、なんか体が光ってる」

美優希「我らが描く正しきものへ、あるべき場所へ帰りなさい」

 一面、光に包まれる。

紀衣「うわっ」

 しばらくして光がおさまる。

美優希「はい、終わりましたよ」

紀衣「ほんとだ。もう薄くない」

死神「信じられません。あなた達はいったい……」

美優希「それは企業秘密です」

紀衣「でもなにはともあれ一件落着ですね」

静香「はい。女性になってしまわれましたが、幽霊さんではないのでよかったです」

紀衣「えっ………」

 




幽霊の次は女性に……。
美姫 「なら、次はネコかしら」
何故?
美姫 「さあ、何となく」
……まあ、良いか。
と、一気に増えた登場人物。
美姫 「アンタの頭では全てを覚えきれないわね」
ば、馬鹿にするなよ!
ただ、新しいのを覚えたら、前に覚えていたのを忘れるだけだ!
美姫 「いや、自慢にならないし、やっぱり馬鹿よ、それ」
シクシク。
美姫 「まあ、馬鹿は放っておくとして、全員が昔の出来事に関係してた人たちだったのね」
うんうん。そして、復活したダークマスター。
美姫 「果たして、どうなるのかしら」
次回も楽しみに待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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