「本日午前零時をもって、本艦の作戦目的が変更されます」

巡洋艦アースラの大会議室にリンディの声が響く。

「本来の任務『F.A.T.E計画』の実験体二号の」リンディは苦々しげな顔で一旦言葉を切り、続けた。「――捕獲に加えて、ロストロギア――ジュエルシードの捜索及び、回収の任務が追加されることになります。また、本任務においては特例として――」

視線が端に座る三人に集中した。

「ロストロギアの発見者であり、結界魔導士であるユーノ・スクライアくん、それから、彼の協力者でもある、現地の魔導士、高町なのはさんと、高町恭也さん、以上三名が臨時の局員という扱いで作戦行動に参加して頂きます」

 三人が立ち上がって一礼して、座る。

「では、現在の状況についてですが――執務官心得」

 はい、と言って紙を手にアリシアが立ち上がる。

「現在の状況は、皆様にお配りした資料にも書いてありますが、そう悪い状況ではないと推定されます。アースラの索敵能力を駆使すれば、ロストロギアの回収は大したことではありません。問題は実験体――」

アリシアも言いにくそうにしながら、言葉を続ける。

「――フェイトですがアースラの魔導士を総動員すれば難事ではない、というのが私と執務官の公算です」

 以上です、と言ってアリシアが座る。クロノは隣で腕組みをしている。それから、艦の各要員が発言を行う。これからの手順、艦の状態、食料、水などの欠かせないものの状況、など。

 二十分程度で会議は終わった。もう今日は明日になろうとしている。アースラは当直の乗組員を残して、就寝する時間であった。

割り当てられた部屋に恭也が戻ろうとした時、クロノに声をかけられた。

「恭也さん」

 敬語になっている理由は、歳が上だけという理由ではなかった。

「聞きそびれていた質問をしたかったんですが」

「何でしょうか、クロノ執務官」

 恭也も敬語で応ずる。歳は上かもしれないが、恭也の今の役職は臨時時空管理局局員――言ってしまえば、ヒラだ。位では執務官の方が遥かに上だという推測がある。

クロノは恭也に敬語でなくても構わないと言おうとは思ったが、先に質問を述べる事にした。

「あなたは、どんな魔法を使うんですか?」

「――魔法、ですか?」

「ええ、魔法です」クロノが頷いて言った。「アースラの中から見ていましたが、恭也さんのあの魔法は一体どのようなやり方をしているんですか? 魔法発動に伴う魔方陣が全く発生していない上に、魔力の動きも感じられない。なのに、一瞬で消えたりしている。あれはどのような魔法を――」

 神速のことか、と恭也はすぐに理解した。同時に、恭也は久しぶりに思い出した。いつも、自分の周囲がデタラメ人間の万国博覧会状態となっているからこそ、普段は気付かないこと。   

自分は結構人間離れをしているというそれなりに自覚している事実に。

「あれは、魔法ではないですよ」

「魔法では、無い? 嘘でしょう? あんな動きは魔法でも使わない限りは有り得――」

「まぁ、極論してしまうならば」恭也ははクロノの言葉を遮って答えた。「あれは一種の体術のようなものです。魔法ではありません」

「そんな、馬鹿な」

 クロノが絶句する。そんなことが――と小さな呟く。しかし、それなら魔法が発動する時にはに発生するはずの魔法陣や、魔力の動きが全く見えないのも納得できる。クロノが再び、質問する。

「使える魔法とかは――」

「ないですね、一切合財。最近魔法というものを知りましたので」

「魔力の有無は測りましたか?」

「魔力の有無を測る…? そんなことができるのですか? 今初めて知りました」

(無茶苦茶だ)

クロノは内心で思っていた。魔法無しの一般人が魔導士――それもAAA+級と互角以上に張り合うなんて。

――それでも、人間か? だけど、とりあえずは。

 クロノが言った。

「では、魔力を測りましょう。このアースラの艦内にも設備はありますので」

 

 

 

魔法少女リリカルなのは 

第六話「エース」

 

 

 

会議が終了し、解散になった。なのははもう普段なら寝てる時間であることに気付き、ユーノと相談して自室に戻ろうとした時

「時間があるなら、艦内を案内しようか?」

と話しかけられた。

なのはは顔を上げた。アースラがこれからの目標として設定した少女とまったく同じ格好(ただし、髪を二つにわけているリボンは緑色)の人物がそこに立っていた。

「あ…アリシア…さん?」

「もっとくだけた呼び方で良いよ」アリシアは不満そうに頬を膨らませて言った。「歳は同じの筈だから。あ、個人的にはアリシアちゃん、の方が嬉しいかな。私もなのはって呼ぶから。あ、そっちの――ユーノくんも私のこと呼び捨てでいいから」

 なのはとユーノはフェイトと姿が全く同じなのに、アリシアのその行動の違いに物凄い違和感を感じた。その喋りぶりが実に明るく活発なものだったからだ。

「それじゃ…」なのはは戸惑いながら、上目遣いで反応を伺うように言った「アリシアちゃん?」

「うん。で、どうする? 案内しようか?」

 アリシアは嬉しそうに返事した。彼女は思った。同年代の子と話すの久しぶりだな。それに、妹――フェイトのことをちょっと聞いておきたいし。お姉さんとして。

「ユーノくん、どうする?」

「僕はなのはが良いなら、いいよ」

 断る理由は特になかった。

「じゃあ、お願いしても良い?」

「いいよー、行こう!」

 アリシアはなのはの右手を強引に左手で引っつかんで引っ張って歩き出した。ユーノはその後ろを慌てて付いていった

アースラの艦首に当たる大会議室から順に艦尾に向かって案内をする。

 案内がてら、アリシアはなのはとユーノに色々と自分のことを話した。自分がクロノと幼馴染であること。フェイトは自分の情報を元にして作られてるから事実上、双子のようなものであるということ。使い魔の名前がアルフであるということ、自分の持っているインテリジェントデバイスの名前が『バルディッシュ』であること。

アリシアは特に、バルディッシュが自分の母が作ってくれたということを実に嬉しそうに話した。母が大好きなのだった。それについてはなのはも自分の母を頭の中に思い浮かべつつ賛同した。母親とはいつだってそのような存在でなければならない。

なのはもアリシアの気さくな態度に釣られて色々と話した。ほとんど成り行きで魔法少女を始めたことなどを、中心に。

「え、じゃあ、なのははまだ魔法を知ってから一ヶ月も経ってないの?」

「うん、そうなるのかな。魔法を始めて知ってから…ほとんど戦いの連続だったけど」

「あの時はびっくりしたなぁ。僕が言うのもなんだけど、なのはは最初の戦いから凄かったし――いまでもびっくりの連続だけどね」

 ユーノがおどけるように言う。なのははそんなことないよ、と言って照れ笑いした

 それを聞いたアリシアは驚きを隠すことが出来なかった。普通、初めて魔法を使う時は、いきなり実戦形式でやるとかせずにもっと色々、基礎練習、訓練、とそれなりの段階を踏んでやるもののはずだ。それは大体、普通、そうだ。しかし、なのははそのおそらくは必要なはずだった全ての手順をまるっとすっ飛ばしている。初動がインテリジェントデバイスの起動及び、バリアジャケットの装着。そして休む間もなく戦闘。何よりも恐るべきはその初戦闘で勝利を収めていること。敵の強さは加味していないにしろ、その力は――アリシアは思った。凄いな、この子。

 こうして、互いに親交を深めつつ、案内は進んでいった。

 アースラはダメージ・コントロールと被害極限の関係上、会議室や居住区画が艦首に集中している。(非常時にスペースド・アーマーとしての役割になる)といっても、大規模な艦隊戦など、最近は殆ど発生しないのである意味形骸化しているといっても良い設計になってるのは否めないが。ここ最近でも大規模な修理が必要なほどに破壊された時空管理局の艦船は片手の指で数えるほどしか存在していない。それも、事故が殆どだ。

 最後に三人が辿り着いたのは艦尾の魔力測定室だった。精密機械などが配置してあるので破壊に晒される機会が少ないと信じられている艦尾最下層にあるのだ。通路には大きなガラスがはめ込まれてあって中の様子が見えた。

そこには恭也がいた。複雑な波形を表示している機械の前でなにやら神妙な顔をしている。

 アリシアはその中に無造作に入った。なのはとユーノも続く。中ではクロノがモニターを見ていた。

 クロノがマイクに向けて言った。

「恭也さん、これで測定終了です。お疲れ様でした」

 ガラスの中の恭也が頷いた。

「執務官」

 アリシアがクロノに話しかけた。

「執務官心得」

「どうしたんですか? こんなところで」

「恭也さんの魔力測定をね」

「魔力を?」アリシアは出てきた恭也をちらりと見た。魔力があって、戦力になるからこそ今回臨時の局員になったんじゃ?

「ああ、恭也さんは魔法を使ったことが無い――というか、知らないらしいから」

「――え」

アリシアの脳内には恭也の戦いぶりが一瞬浮かんだ。驚きの口調で言う

「あれで、ですか」

「あれで、だ」

「それで、お兄ちゃんも魔法を使えるんですか?」

 傍らで兄の評論を聞いていたなのはが口を開いた。

「測定結果から言うと、使える。魔力を感じられた。しかし――」

「魔力の全体の量は大したことが無い…のか」

 出てきた恭也が言った。

「そうなりますね」

 それでも、とクロノは言葉を続けた。

「魔力保持者の平均からしたら少し低いくらいは確認できました。魔法の方向性にはよりますが、充分戦闘はできると思います。恭也さんは僕達と違って生身で戦える技術がありますから」

「そうか」

 恭也は思った。少なくとも牽制はできるくらいの力があるということだな。

「もう今日は遅いですから、訓練をするにしろ、明日の朝からですね。明日からはジュエルシードの本格的収集も始まりますが、僕とアリシアとなのはがいるから恭也さんは訓練に集中できると思います。問題は教師役を誰が――」

「あ、それは僕が」

ユーノが軽く手を挙げた。

「恭也さんにはお世話になっていますから、それくらいは。恭也さん、良いですか?」

「ああ、ユーノには苦労をかけるが、よろしく頼む」

 と、いうようなことがあって、その場は解散となった。居住区に向かう途中アリシアがなのはに話しかけた。

「ねぇ、なのは」

「何? アリシアちゃん」

「お兄さん――恭也さんって今まで魔法が使えなかったのに、フェイトと互角以上に戦ってたんだよね?」

「私は直接見てはいないんだけど、ユーノくんが言うには――」

「うん、僕が見てる限りでは押されてはいたけど、負けてなかったかな。…とにかく、あの立ち振る舞いは凄かった」

「じゃあ、お兄ちゃんが魔法を使えるようになったら…」

「きっと、凄いことになるだろうね」

「でも、どうやって」アリシアが尋ねた。「あんな技、どこで覚えたのかな?」

「あ、お兄ちゃんのあれはうちの古流剣術なの」

「古流剣術?」

「うちのお父さんがその伝承者でね、お兄ちゃんだけじゃなくて、もう一人いるお姉ちゃんもその剣術――あ、御神流っていうんだけど、使えるよ」

「へぇー…」

 アリシアは少し考え込むような仕草を見せた。これが後に色々と騒動を巻き起こす原因になろうとうは、この時点で誰もまだ予想していない。

 

 翌朝、ジュエルシードの収集が本格的に開始された。なのはとクロノとアリシア、アルフはジュエルシードを発見次第即時出撃、ということで艦橋に完全装備――インテリジェントデバイス、バリアジャケットを展開状態で待機となっている。

 恭也とユーノは予定通り艦内の訓練室で訓練を開始した。

 恭也はまず初歩的な魔法の『空を飛ぶ』ということに絞って覚えることにした。空が飛べなかったばかりに歯がゆい思いをしたことが最近多数発生したからだった。

 

「――そうです、後は宙に受けたら魔力を足から放出するイメージを」

「…こうかな?」

 宙に浮いている恭也は足元にゆっくりと力を集中させ、放出するイメージを作った。人が走るぐらいの速度でそのまま動き出す。

「あとは慣れたら自由に空を飛べるようになりますよ」

 ユーノは思っていた。デバイスの予備なんかないから自前で教えることになったけど、恭也さんができるようになったのは凄く早かったな。――もしかしたら、魔力はそんなに無いけど魔力の制御に才能があるのだろうか、恭也さんは。

「他に、恭也さんが優先的に覚えたいことはありますか?」

 恭也はふむ、と考えた後で

「いや、他は要らない。今の段階では」

 ユーノがえ、という表情をする。

「おそらく、今から覚えようとして、覚えれるかどうかはともかく、覚えたとしても役に立たないだろう、確実に」

「そんなことは――」

「ユーノ、率直に言う。正直に答えてくれ。俺の魔力保持者の平均より低い魔力量でなのはやクロノ、アリシア――そしてフェイトと真正面から魔法勝負を挑んで勝てると思うか」

「…それは。無理…ですね。おそらくは牽制がやっと、でしょう」

 ユーノは言い辛そうにしながら答えた。

当然のことだった。なのは、クロノ、アリシアの魔力量をAAA以上と評価するなら、恭也の魔力量はぎりぎりCに届くかどうか、といったものでしかない。

恭也はその

『天性の才能』

としか表現しようのない絶望的な力の差を御神の力と経験値で埋め合わせている。しかも、優越ではなく、それでやっと均衡、もしくは劣勢である。

「もしかしたら、何か他に魔力消費量が少なくて、何か役に立つものもあるのかもしれないが、覚えるまでに今度は時間が無い。あるいは覚えれるのかもしれないが役に立つという保証があるわけではもちろん無い。それならば」

「残り少ない時間で他の技術にリソースを分配するのではなく、一極集中でそれのみの技術を高めてしまえと?」

 恭也は首を縦に振って肯定した。

「しかし、一つを高めるといっても今覚えたのは空を飛ぶだけの――」

「うん、それなんだが、思い付いた事がある」

 恭也は思い付いたことを述べた。

「……確かに、確かにそれは可能ですが」

「空を飛ぶ、ということが初歩の魔法なら、それは魔力消費量も少ないということだ。俺でもそれならいけるはずだ」

 ユーノは顔を少し下に向けて思った。恭也さんに、本当に魔力の制御能力が才能してあるなら、これは充分にいける。普通の魔法使いなら、空が飛べるようになっても戦闘魔法を覚えないと交戦できないけど、恭也さんは戦闘の技術がある。

「わかりました。その方向でいきましょう」

「よろしく頼む」

 訓練を再開する。恭也が意識を集中して空を飛ぶ魔法の訓練を始めた。

 ユーノは恭也の魔法を見て、魔力の制御以外に驚いたことがもう一つあった。

恭也の魔方陣の色は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

相当に間が空いてしまいました…すいません。向日葵でございます。

忙しさが憎いです…次はなるべく早く書こうと思っているので、見てくださると非常にウ嬉しいです。では、また次回でー





恭也が魔法を取得。
美姫 「基本の空を飛ぶだけ、だけれどどね」
それでも、これで戦闘に参加しやすくなったよ。
美姫 「この後、一体どうなるのかしらね」
うーん、フェイトはどうなるんだろう。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます!



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