ふぅ、いい天気だ。空は晴れ渡っていて、まさに絶好の旅行日和。

 そう! 今日は高町家+αや、なのはの友達一同による二泊三日の温泉旅行。

温泉にゆったりと浸かってのんびりと過ごす!

まさに日本人の醍醐味の一つってやつだな! 

 そして俺は車の中で、窓を開けて風に当りながらその温泉地へと向かっている……、はず、だったのに……

 

 

 

 

 

「ヌゥグゥオオオオオオオ〜〜〜〜〜〜〜」

 

 

 何が悲しくて俺は一人寂しく部屋の中で腹痛に苦しまねばならないんだ〜〜〜。

 

 

 

 

 

リリカルなのは――力と心の探究者――

第六話『珍騒動とファーストコンタクト』

始まります

 

 

 

 

 

 それは出発前の朝食にまでさかのぼる。

 俺は高町家の食卓にお邪魔して、今日の旅行のことで話に花を咲かせていた。

どんなところだとか、何をしようかなど、傍から見れば他愛もない朝食風景だった。

 

 

 そんな時に事件が起きた。

 

 

 俺は何気なく朝食のおかずに手を伸ばし口に入れた。そして……

 

「ぬ!? ウグググ……、アガグゲグゴグ……」

 

突如として俺の腹に激痛が走った。

あまりの痛さに俺は呻き声を上げて床に倒れてしまった。

この腹痛(はらいた)は、まさか……。

 

「…美由希……、お前か……」

「あれ!? お、おかしいな。ちゃんとできたはずだったのに……・だ、だってホラ、見た目はいいし……」

「やっぱり…、お前なんだな……」

 

 そう、確かに今朝出ていた朝食は見た目の悪いものなんて何一つなかった。

だから全部桃子さんが作ったもんだとばかり思ってた。

まさか桃子さんの料理に、たった一品だけ紛れ込んでいた十回…、いや、百回に一回あるかないかわからない、“見た目だけはまともな美由希の料理”を引き当ててしまったらしい。

 そうして俺は寝込んでしまい、今日からの旅行を辞退する羽目になってしまった。

 ちくしょ〜、余計な隠行術を身につけやがって〜。

それなりに危険察知能力は身に着けていたつもりだったけど、全然気付けなかった……。

 

 取り敢えず恭也さんの部屋に運ばれた俺は布団の中で腹を抱えている

 

「竜馬さん……、大丈夫ですか!」

「ウググ……、だ、大丈夫…、だから……」

「全然大丈夫じゃないじゃないですか〜〜!!」

 

 確かに。なのはに心配させまいと強がってみたけどこんな息も絶え々じゃあ、大丈夫には見えないよな……。

 

「すまん竜馬、こんなことになるなんて……」

 

 恭也さんが神妙な顔をして俺に謝罪の言葉をかけてくれる。

身内の失態を恥じているんだろう。

 

「御免なさい……」

「もう…いいから……」

 

 美由希も謝ってくれるが正直もう気にしていない。というよりいつものことと諦めてる。気にしている余裕がないのだ。

俺の腹の中ではまるで得体の知れないものが暴れ回っているみたいで辛い。マジで辛い!! 

 

「とにかく…、俺は…行けそうに…、ないですから……。みんな…、で、楽しんできて…ください……」

「竜馬さ〜ん! しっかりして! 死んじゃだめ〜〜!!」

 

 え〜!? 俺そんなに死にそうな顔してるのか……!?

 そりゃ目の前がもうなんか川らしきものが見えたり、手招きしてる人影が見えるけど……。

ってやばいやばい! なんかもうやばいとこまで来てる!! 

なのはの声が聞こえなかったらそのまま旅立ってたかも!!

ありがとう、大丈夫だ! 死にやしない! 

つーか! こんなことで死ねないから……。

 

「美由希、お前は罰として竜馬の看病のために残れ!」

「うぅ〜、そうだよね。私のせいで竜馬さんが苦しんでるもんね」

 

恭也さんが俺のためにと美由希に俺の看病させるよう命じている。だけど、正直それは……、

 

「恭也…さん。俺は大丈夫…ですから……」

「しかしお前だけ残していくわけには……」

「いえ…、むしろ美由希に…、俺…、の…、看病をさせないで…ください……」

「「「え!?」」」

 想像してみよう。この誰もが認める(本人は認めないが)ドジっ娘剣士にまともな看病なんて期待できるのだろうか!?

 

 

 

「っとと! あーーー!!!」

「あぶっ!!!???」

 

 濡れタオルを替えるための洗面器持ってきて、足がもつれて転び、洗面器が俺の顔へ……。

 

 

「よいしょっ、っとあわわ!?」

「ぐふぅおっ!?」

 

寝れタオルを替えようとして体制を崩し、肘が俺の腹ヘダーイブ……。

 

 

「はい、どうぞ」

「いや、ちょっと待ってくれ、それは……。あぐ…、」

 

 美由希の自作料理(お粥らしきもの)を口に入れられる……

 

 

「あぐぐ……、がくっ……」

 

そうして力尽きる俺……。

 

 

 

 

 

 やばい……、自分で言っておいて何だけど、俺の最期がリアルに想像出来ちまった……。

 

「すまん。俺は…、なんて恐ろしいことを提案してしまったんだ……」

「わかってくれて……、何よりです……」

 

 恭也さんも顔を青ざめて謝ってくれてる。

どうやら恭也さんも同じことを想像してたみたいだ。

そりゃそうだ。看病をさせるはずが、とどめを刺したんじゃあシャレにならない。

 

「酷いよ二人とも……。少しは信頼してくれてもいいじゃない……」

「「俺(竜馬)をこんな目に遭わせておいて何を言うか!!」」

「〜〜〜〜」

 

 俺と恭也さんに揃って言われたせいか、完全に美由希はへこんでしまった。

…うぐ、ってツッコミ入れてしまった……。そんな余裕ないってのに……

 

「それは…、さておいて……。ホントに気に……、しないで、楽しんできて……、ください。つーか、気にされる方……が、辛いです……から」

 

 こんなことにまで誰かを残す必要なんてない。これは単に俺の運が悪かっただけなんだから。

 それに、どうも最近なのはの様子がおかしく感じていた。

 声を掛けてもなかなか気づかなかったり、俯いていたり……。

 まるで何か気になることがあるのに、どうすればいいのかわからないっていうみたいな……。

 気のせいかもしれないけど。

 

「竜馬さん……」

「はは……、まぁ、お土産よろしく……。ここんとこ元気なかったんだし」

「あ、あのその……」

 

 おっといかんいかん。元気出してほしかったら、そんな下手に意識させちゃいかんよな……。

第一そんなこと言っちゃったら……。

 

「が、頑張ります!」

 

 ほらね……。別に頑張ってやるようなことじゃないだろうに……。

いや、まあいいか……。

 

「ま、楽しんできなよ……」

 

 

 

 そうやって挨拶を交わしたのは朝のこと。

今はアパートに送ってもらい、おとなしく寝ている。

 かといってほんとに寝るわけにはいかない!

 腹の中は、今だに暴れん坊将軍状態で、意識を手放したらそのままあの世に葬られそうだ。

 う〜ん、何かいい気分転換はないものか……

 

「くぅ〜ん」

「ん!?」

 

今何か幻聴が聞こえた?

 

「くぅ〜ん」

 

 いや、この声はまさか……。

 視線を声のする方に向けると、そこには

 

「くうん」

「久遠!?」

 

 そう、神埼の友達兼お供の妖狐、久遠だ。

 

「久遠……、どうしてここに……?」

「りょうまの、かんびょう……」

 

 かんびょう…? ああ看病か……ってええ!? とまるで示し合わせたかのように枕元に置いておいた携帯が鳴った。

相手は……、やはり神崎だ。

 

「はい……、もしもし……」

『もしもし、竜馬さん!? その……、美由希さんの料理を食べたって聞いたんですけど、大丈夫ですか?』

「まぁ……、なんとかな……」

 

 正直、こうして電話してるのも辛いんだけど……。

 

『す、すいません! 辛いのにわざわざこんな電話をかけちゃって……』

 

 いやいや、それ自体はありがたいと思ってるから。

 

「それで……、どうして久遠が……ここに……?」

『その、元々久遠は温泉には連れて行けませんから……、耕介さんに預かってもらってたんですけど、そこで竜馬さんが寝込んだって聞いたからそれで……』

 

 なるほど。確かに狐を温泉宿に持ち込むわけにはいかんわな。

そもそもペット持ち込みに寛容なところなんてあんまりないだろうし……。

 変化させるっていう手もあるけど、自分たちはともかく、他の皆にまで気を遣わせるのは悪いと思ったのかもしれない。

 帰ってくるまで一人(一匹?)で遊ばせるよりは俺のところにいさせたほうがいいと判断したんだろう。

 

『あの、ご迷惑だったでしょうか?』

「いや……、俺は構わないよ……」

 

 こんな状態じゃ気分も滅入るし、久遠も騒ぐような子じゃないし、むしろありがたいくらいだ。

それに何より……、

 

「美由希よりは……、ずっと……まともな看病を……してくれるだろうし……」

『ア、   アハハハハ……』

 

 神埼の苦笑いと美由希がまたへこむ姿が目に浮かぶようだ……。

 

『それじゃあ、竜馬さん、お大事に』

「ああ……、それじゃ……」

 

 そう言って電話が切られた。ふう……。

 

「久遠……、二泊三日ほど……よろしく……」

「……うん!」

 

 ああ……、この小さな狐耳少女が、頼もしい白衣の天使に見える……。

 だが、俺はすぐに甘かったことを思い知ることになる……。

 

 

 

 

 

「っとと……、あっ……!」

「ぶっ!?」

 

 濡れタオルを替えるための洗面器持ち、トテトテと歩いてくるも足がもつれて転び、洗面器が俺の顔へ……。

 

「よいしょっ、きゃいん!?」

「ぐふっ!?」

 

濡れタオルを替えようとして体制を崩し、肘が俺の腹ヘダイブ……。

体重が軽いとはいえ、ただでさえダメージを受けている俺の腹にとっては、その一撃は致命傷にも等しく……、

 

「りょうま……、あ〜ん……」

「いや……、ちょっと待って……」

「あ〜ん……」

「…………あ〜ん……」

 

 初心者同然の者が作った料理は、危険だということを知ってるから正直食いたくない! 食いたくないけど……、瞳を輝かせ、期待しているかのような眼差しをされては断りようがない。

 つーか断れる奴なんているのか!?

 そして当然……

 

「うっ……!?」

 

 その一言を最後に、俺の意識は闇へと沈んだ……。

俺を呼ぶ久遠の声が聞こえるけど、しんどくて答えてられない。

 

 

 

 ああ……、結局俺は、この運命からは逃れられなかったか……、がくっ……。

 

 

 

 

 

 ……、ここはどこだ?

 どうやらどこかの森の中のようだけど……。

 ん!? あれは……、久遠か? どうやら大人バージョンみたいだけど。

それと男の子が一人。

 久遠の恰好はいつもの巫女装束だけど、男の方は何だ? 明らかに時代が違う。

にしても、二人は向かい合って何をしてる? ……って、なぁにぃ〜〜〜〜!!!!????

キスしてる!!

そ、そうか……、そういう関係か……。ならそれぐらいはやるか……。

むしろ当たり前?

 ど、どうやらこいつは久遠の夢みたいだな。

前にチラッとだけど聞いたことがある久遠の持つ能力の一つ、『夢移し』。

近くにいた俺は久遠の夢を見せられてるようだ。

そして、これはおそらく久遠の過去の夢。

そっか。彼が久遠の想い人ってわけか……。

彼の服装を見ると明らかに今の時代の人間じゃない。もう、何百年も前の話だろう。

 想い人である彼を今もこうして夢に見ている。夢の中で会ってる。

陳腐な言い方かもしれないけど、これは久遠にとって忘れられない大切な思い出。

今も色あせてない、大事な記憶。

 

つーか、こんなもの見てていいのか、俺!? 

これは久遠の大事な思い出なんだから、おいそれと覗き見していいもんじゃないだろうに……。

夢の中とはいえ、完全なお邪魔虫だな……。

ってあれ!? お〜いお二人さん、何をしていらっしゃるんで…….

い、いやね、別にやるなとは言わないよ。ただ、せめて俺の見ていない場所で……、

や、やめっちょっと……、ま…、まてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

 

 

 

 ぬぅおおおおおおおお!!!!!!!

 ハァハァ、な、なんつー夢だ……。あやうくモロに見るところだった……。       

 俺はこの夢の原因を睨む。

そいつは体を丸めてスヤスヤと眠ってる。

 

「ったく……、小さななりして、何を見てるんだか……」

 

 あれからずっと寝てたみたいだけど、よく生きてたな俺……。

しかし、何とも中途半端な時間に起きちまった。

起きてもすることないし、かといってこのまま寝たら、また見せられるかもしれないなぁ……。

 取り敢えず起こそうか。

 

「す〜♪ す〜♪」

 

 ……やめとこ。こんな幸せそうに眠ってるところを叩き起こすなんて野暮だわな……。

第一、久遠は今、夢を見てる。遠い過去の夢を。

ふう、しゃーない。俺が場所を変えるしかないか。

やれやれ、どうして病人の俺が気を使わなきゃならないんだか……。

 

 

 

 

 〈二日目の夜〉

 

「なぁ久遠、許してくれないか」

「だめ」

「頼む、後生だ……」

 

 頼む、久遠。どうか見逃してほしい。もう耐えられないんだ……。

 

「まだ、なおってない」

「でも…もう俺は嫌なんだ。これ以上は、これ以上は……」

 

 俺は…もう……

 

「もう……、缶詰状態は嫌なんだあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

体調も良くなってきた俺は、外に出たくて出たくてしょうがなかった。

さすがにずっと家に籠りっきりでは気分が滅入る。

そりゃあ修行時代のころには(今も修行中だけど)、じっと動かずにいて周りの環境と同化する、なんていうのもあったけど……。

でも、今は修行中じゃないわけだし、じっとしたくてしてるわけでもなし。

 

「どうせ激しく動くわけじゃないんだ! 頼む!!」

「それなら、くおんもいっしょにいく」

「ああ、それでも構わない!」

 

 俺の看病をしようっていう責任感からか、俺が無茶やらないように見張るつもりといことだろうか?

 まぁ、何だって構わない。

とにかく、この!

 

 

 

外は月が出てるし、外の肌寒さが心地いい。

 昨日は結局家に籠りっきりだったから気分転換のつもりで外に出ていた。

閉じこもってばかりの方が精神的に辛いんだ……。

 久遠も外の散歩のつもりなのか、俺の肩の上に乗りながら、どこか浮かれているように見える。

夜とはいえ月が輝いている分、不気味さを感じていないようだ。

 

「りょうま、だいじょうぶ?」

「ああ、むしろこのまま部屋に籠ったままの方がつらいよ」

 

 俺も調子が良くなってきたことに浮かれていると、ふと何か力を感じる。

 これはまさか……

 

「またジュエルシードかっ!!」

「!?」

 

 突然声を張り上げた俺に久遠は首をかしげているが、今はそれどころじゃない。

 また唐突に起きるもんだ。まぁ、こっちの都合や状況なんて知ったことじゃないんだろうが。

 俺は久遠を肩に乗せたまま現場に向かう。

 

高台にある森の中、そこにいた。

 体をくねらせ、木々に絡みついたそいつは、シルエットだけを見れば蛇と言えるだろう。

 その大きさと化け物じみた容姿を除けば、だ。

 大きな口を上げて俺を食おうっていうのか?

 ジョーダン! 俺は食うのは好きだけど、食われんのは嫌だぞ? みんなそうだろうけど。

 とっとと片づけて面倒なことが起きないようにしなきゃな。

 俺が構えをとると、大蛇は敵意を感じ取ったのか、動き出す。

 その拍子に絡みつかれていた木がへし折れる。

 あれに巻きつかれて締め付けられた日には、間違いなく体中の骨はバラバラだ……。

 口を開けて迫ってくる大蛇を、俺はバックステップでかわしてやり過ごす。さっきまで俺がいた場所の地面がえぐれ、その破壊力がよくわかる。

 すぐさま起き上がり連続で仕掛けてくる。体はでかいが、なかなか速い。

 だがこのくらいなら……、前同様、枷を外す必要はない。このままでいける!

 

「うっし、さっさと決めるか! 烈光じ…ん……、う、うぐぐぐぅぅぅぅ……」

「りょうま!?」

 

 後ろ腰に分割して掛けておいた三牙棍を引き抜いて、烈光刃で倒そうとした矢先に襲い掛かってきた腹痛(はらいた)

あまりの痛みに俺はその場でうずくまってしまう。

 これは、まさか……

 

「うぐおぉぉ〜〜〜、こ、こんなときに……」

 

 

 そう! 美由希の料理を食ったことで起きた腹痛がまたぶり返してきたのだ。

 もう大丈夫だろうと思ってたが……、くっそ〜、油断した……。

 いつもだったら一晩寝てりゃあ治っていたのに、今回はしぶとい……、しぶとすぎる!見た目に反比例して、毒性が高まっているとでもいうのか!?

 なんて嘆いてる場合じゃない。目の前には異形の大蛇が迫る。

 

「りょうま、さがって……」

 

 久遠が俺の方から降りて戦闘態勢に入ろうとする。

 

「く、久遠、待て……」

 

 俺は止めようとするが久遠はやる気になっている。

小さくもその背中からは俺を守るという気概が感じられた。

 

「(俺は、こんなにも小さな狐にも劣ってるんだな……)」

 

 久遠の背中を見て俺は頼もしさと同時に、自分に対する自己嫌悪がわいてくる。

守るということを何の奥目もなくやろうとする久遠の姿は、俺にはまぶしく見える。

 

 だが、果たしてこの世界の妖狐の力が果たして異世界の魔法に通用するのか!?

 場合によっては最悪……。

 くそっ、こんなときに……。

 

 久遠が変化しようとしたその時……。

 

 

「なに!?」

「くうん!?」

 

 どこからか飛んできた光の矢が大蛇に炸裂した。しかも一発や二発じゃない!

 

「シャア――――!!!」

 

 大蛇は悲鳴を上げながら仰け反る。

 

「魔法攻撃か!?」

 

 矢が飛んできた方向を見れば、

 

「あれは……」

 

 月明かりしかないが、夜目が効いているからその姿が確認できた。

 そこには金色の髪をツインテールにまとめ上げた女の子が。

その手にはなんか杖というより、長柄の斧のようなものを持ってる。

 そしてもう一人、オレンジ色をして犬耳と尻尾を持った女。

間違いない、この間ジュエルシードを手に入れようと俺に襲いかかってきたヤツだ。

 とすると、隣にいるの少女がご主人様なのか!?

 こいつはまた……、予想の斜め上をぶっ飛んでるぞ! 

あいつほどの使い魔の主がこんな小さな女の子だったなんて……。

 見た感じなのはと同い年ぐらいか?

 だけど表情が張り詰めているというか、憂い顔というか、見た目以上に大人びた感じがする。

 

「アルフ、封印するよ。サポートをお願い」

「あいよ!」

 

 少女達は俺には目もくれず、大蛇の方へと向かっていく。

 

『チェーンバインド』

 

 使い魔の子から魔法の鎖が放たれる。

体をくねらせながらよけようとするが、よけきれずに絡めとられていく。

外そうともがくが、それじゃあ余計に身動きをとれなくなっていくだけだ。

 

「今だよ! フェイト!!」

 

 そうこうしているうちに、少女の魔法の準備が終わっていた。

 そっか…、あの子、フェイトっていうのか……。

 

 

「撃ち抜け、轟雷!」

 

『サンダースマッシャ―』

 

 

 形を変えていた杖の先にあった魔法陣から放たれた金色の雷撃。

 そのまぶしいくらいの輝きと轟音は、その魔法のすさまじさを物語ってる。

 

「す、すげーな……」

 

 もう感心するしかなかった。

あの年頃でよくもあれだけの魔法が使えるなんて、たいしたもんだとしか言いようがない。

 俺があのくらいの頃なんて、てんでたいしたことなかったっていうのに……。

 彼女の魔法をまともに食らった大蛇は、叫び声をあげてみるみるその大きさを小さくしていき、元に戻った。

 女の子が蛇の傍らに降り立ち、近くで浮かんでいたジュエルシードを杖の中に入れる。

 

 

「やったね、フェイト! ジュエルシード、これで四つ目だよ!」

「うん……」

 

 使い魔の子も降りてきて喜びの声をあげてる。

 それを聞いたフェイトが、ほんの、ほんの少し、よく見なければわからないくらいだけど、微笑んでいた。

 ……やっぱりあれくらいの年頃だと、切羽詰まった顔をしているより、なのはみたいに笑顔でいる方がいいよな……。

 

「…………」

 

 フェイトが無言でこちらに振り向いてきた。

 今度はおれの番、てわけか…?

 

「え〜と、ありがとう……」

「気にしないでください、あなたを助けるためにやったんじゃないですから」

 

 う〜む、クールだ……。

そりゃあそちらにとってはそうなんだろうけど、俺にとっちゃあ助けられたも同然なんだがなぁ。

 

「こちらの要件は一つだけです。あなたの持ってるジュエルシード、渡してください」

 

 やっぱりそれか……。何があっても手に入れたいらしいな。

 

「で、ジュエルシードを…、手に入れて、どうしようって…いうんだ?」

「教えても、意味がありません」

「……そうか」

 

 この子も理由を話しちゃくれないみたいだな

 事と次第によっては渡してもいいんじゃないかとは思うけど、これじゃあねぇ……。

 

「渡してくれないのなら……」

「……力づくか?」

「この間のようにはいかないよ!」

 

 見かけによらずなかなか血の気が多いな。隣にいる使い魔の子はともかく。

 さてどうするか……。

 はっきり言ってまずい!

 俺のコンディションは最悪だ。

 まだ俺の腹の中はいまだ天変地異の真っ最中だ!

 こんな状態で二対一の闘いなんて……。

 

「くぅん!」

「「!?」」

「久遠!?」

 

 俺の前に立って、俺を守るかのようにしている久遠。

 見た目子狐の久遠が自分たちに立ち向かおうとしている姿勢に、彼女たちも戸惑っているみたいだ。

 

「か、かわいい……、じゃなくて! 君!そこから離れて!!」

「ちょ、ちょっとアンタ、危ないっての!」

「くうぅん!!」

「「〜〜〜〜」」

 

 首を振りながら、自分たちの前に立ちふさがる久遠の姿を見て、ちょっと萌えてるみたいだな。無理もない……。

 

「ど、どうするよ? フェイト〜」

「………………」

 

 健気な狐と敵対する自分たち。これはもうあの子の中じゃ罪悪感でいっぱいだろうなぁ〜。

 

 やがて久遠が、光を放ちながら少女バージョンへとその姿を変える。

 

「な!?」

「こいつ! あいつの使い魔か!?」

 

 今まで普通の動物と思ってたんだろう、驚きの顔に変わった。

だけどこれじゃあ……、

 

「アルフ、油断しないで、見かけはともかく、使い魔だとしたら手強いだろうから!」

「オッケー!」

 

 やっぱなぁ……。

 久遠が変化したことで、あの子たちに警戒心が生まれちまった。

 このままどうにかしてやり過ごそうと思ってたんだが……。

いや、むしろ好都合か。よしっ!

 

「久遠、ちょっと」

「?」

 

 俺は久遠に彼女たちに聞こえないように作戦を伝える。これなら……。

 

「いいな」

「うん♪」

 

 まったく、頼もしい返事だ。

 

 

 

 

 

〈フェイト視点〉

 

 あの子、この世界の狐っていう動物なんだっけ。

だけどあの人の使い魔だったなんて。

 かわいいからなんて油断なんてできない!

 

「行くよ! バルディッシュ!!」

Yes sir

 

 バルディッシュに呼びかけで私は臨戦態勢に入る。

待ってて、母さん。今またもう一つジュエルシードを手に入れるから。

 

 

「久遠!!」

「うん!」

 

 男の人が狐の子に声を掛ける。

 仕掛けてくる!? 

私は身構えると狐の子が手を挙げる。

 何をするのかと思っていると……、

 

『雷!!!』

 

 突然何条もの電撃が私たちの周りに放たれた。

 

「うそぉ!?」

 

 アルフが驚きの声をあげている。

 当然だ! あの子、短時間でこれだけの雷を落としてきた。

 私でも同じことをやろうとすればもっと時間がかかるのに……。

 

 やっぱりこの人たちは強敵だ!

 アルフがあの男の人に負けたっていうのもわかる。

 でもどんなに強くても私たちは負けるわけにはいかない。

 ううん、たとえ負けたとしてもジュエルシードだけでも持ち帰らなきゃ。

 

「くうんっ!!」

 

 狐の子がこっちに飛びかかってくる。

 まさか接近戦を!?

 こっちは私とアルフの二人なのに!?

 いや、男の人が強かったということはこの子も!?

 そう考えた私は迎え討とうとバルディッシュを振りかぶると……

 

「今だっ!! 跳べ!!」

 

 声が聞こえてきたかと思うと、突然狐の子が左方向へと跳んだ!

 すると迫ってきたのは……紙の札!?

 

「くっ!!」

「うわっ!!」

 

 紙の札が突然光って、私たちの周りを煙が囲む。

 しまった!? これじゃあ視界が!

 きっと、この煙にまぎれて攻撃を仕掛けてくるつもりだ!

 私たちが身構えていると光がはじけた!!

 やっぱり、この煙にまぎれてあの子がまた電撃を!

 また来るかもしれない。そう思っていたけど……

 

「……来ない?」

 

 いや、油断したところを来るかもしれない。そう思い待っていると……。

 

「フェイト…、煙が晴れてきたよ……」

 

 また次の攻撃が来るでもなく、煙が晴れてきた。でも……、

 

「いない!?」

 

 周囲を見渡しても、影も形もなくなってる。これってまさか……。

 

「あ、あいつら…、逃げやがったなぁ〜〜〜〜!!!!」

 

 

アルフの叫び通り、私たちはまんまとあの人たちの作戦に嵌まってしまったみたい……。

 やられた……

 

 

 

 

〈竜馬視点〉

 

「ふう、思いのほか…上手くいったな」

「竜馬、大丈夫!?」

「ああ、久遠のおかげだ。サンキューな」

「うん♪」

 

 俺は今、大人バージョンになった久遠の肩を借りて全速力であの場所を離れてもらっている。

 大人バージョンによる身体能力でぐんぐんと離れていく。

 腹に響くが、なんとか我慢してる。

 

作戦成功! つっても、作戦というほど大それたもんでもないが。

 久遠に雷をあの子たちの周りに落とし、あの子たちにより警戒心を植え付ける。

そして久遠が突撃すると見せかけることで意識は久遠に集中する。

そんでもって、俺が久遠の影に隠れるようにして煙幕(ヤンム)符を投げつけ、煙を巻き上げることで視覚を封じる。

 使い魔はともかく、あの子はかなり慎重だったみたいだからな。これであの場に釘付けにすることができる。

駄目押しとばかりにもう一発、久遠には雷を放ってもらったし。

 その隙に俺たちはその間にトンズラ、って寸法だ。ホントに上手くいった。

 追跡してくる気配もない。

 あの子の探査範囲がどれほどかは分からないが、とにかく距離は稼いだし、使い魔の鼻で追おうにも、途中で『風』を起こして匂いも吹き散らかしといた。

 おそらく大丈夫だろう。

 

「竜馬、あの子たちは一体……」

「う〜ん、俺にもよくわからんのよ。ただ、俺の持っているものが欲しいみたいだけど」

 

 実際は俺の持ってるジュエルシード、あれも一体何なのかわかってない。

全く分からないづくしだ。

 ようやく使い魔の主に会えたと思ったけど、殆ど話ができなかったな。

 つっても、俺の方も余裕がなかった。今回は仕方がないだろう。

 

今回は逃げに徹したけど、次に会うときは少しは話ができるといいんだが……。

 

やれやれ、とんだ休日になっちまったな……。

 

 

 

 

 

蓬莱式の説明

 

煙幕(ヤンム)符』

 火属性の中の『煙』の力を込めた札。煙による目隠しに使用する。

 

 


あとがき

 どうも忘れられているのではないかとビクビクしてた次第のはおうであります。

 間が空いてしまい、まことに申し訳ありません。

 もっと執筆速度を速められるように、時間の使い方など努力していく所存です。

 さて、今回の『珍騒動とファーストコンタクト』、いかがだったでしょうか?

 冒頭は美由希の隠れ毒殺料理によって、原作五話の旅行は辞退する羽目になった竜馬。

 こう見えても竜馬は相当な達人のつもりなんですが、肝心なところで実力を発揮できないというか、クジ運が悪いというか。

 そして久遠の看病。実際久遠がそこまでドジっ娘なのか悩んだんですが、こうした方が可愛いかなっと思いました。

 久遠ファンの皆様、ごめんなさい。

 

そして、連休二日目の夜中についに彼女との接触。

 といっても竜馬の体調は最悪、なので久遠の力を借りて逃げに徹してもらいました。

 もっと久遠には活躍してもらいたかったんですが、今回だけでアニメと原作、それぞれにしか登場しないキャラの、実力の優劣をつけるのはどうかと思いこういう展開にしました。

 

 

 それでは次回をお楽しみください

 それでは失礼します。




まずは合掌、だな。
美姫 「確かにね。よりにもよって、美由希のを引き当てるとは」
その所為でフェイトと対峙するも逃げの一手。
美姫 「まあ、無事に逃げれただけでも良しって所かもね」
確かにな。でも、これで次からは久遠も警戒されてしまうんだろうな。
美姫 「次も久遠の出番があるかどうかもあるけれどね」
一体どうなっていくのだろうか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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